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 2019年は本当に晴れません。お昼間に太陽が雲の間からのぞいていることはあるから,一般の人に実感はないでしょうが,これほど星の見えない年を私は知りません。わずかばかり雲のない夜もあったのですが,そうした日に限って月が明るかったりで,月明かりのない夜に晴れ渡ったことがまったくないのです。これでは,日本にある天文台は仕事ができないでしょう。日本しか知らなかったころはこんなものかと思っていたのですが,ハワイやオーストラリアに出かけるようになると,日本の条件の悪さを実感します。
 そんな日本でも秋は唯一,気候が安定して,空が晴れ渡る季節です。しかし,今年は秋になっても,空が晴れ渡る要因となる移動性の高気圧が日本列島を横切る,その通り道が通常よりも少し北側なので,高気圧の南側には雲がでてきてしまうのです。
 そんな晩が続き,10月もついに新月が終わり,せっかく,久々に10等星よりも明るい新彗星アフリカーノが地球に接近したというのにその最盛期も過ぎてしまい,ついに,これを見ることもないのかなあとあきらめていた10月4日,ついに晴れました。私は,この晩を逃せばもう見る機会がないと,ひさびさに星見に出かけました。

 私の住むところは,もう,星は2等星までしか見えません。何時間もかけて遠出をすればそれでもマシな星空が見られるのでしょうが,そんな時間をかける気にもなりません。そこで,北の空の星空が見たければ1時間ほど北に,南の空の星空が見たければ1時間ほど南に走って,街灯のない,なんとかかろじて天の川が見られる場所に出かけることにしています。
 アフリカーノ彗星はほんの少し前は北東の空に見ることができたのですが,出かけるまえに調べてみると,どんどんと位置を変えて,今はもう南西の空! これにはびっくりしましたが,そこで,南に向かって走りました。
 到着して望遠鏡を構え,ファインダーをのぞくと彗星の位置はすぐにわかりましたが,もう月齢が6まで達してしまっているので,明るい夜空はさらに明るく,月が沈むのは午後10時ころ,それまで待って,写真を撮りました。

 アフリカーノ彗星(C/2019W2 Africano)は,2018年年11月27日,アメリカのグレーラー(H. Groeller)さんが Catalina スカイサーベイプロジェクトで,アリゾナ州のレモン山のすぐ東にあるビゲロー山にある68センチメートルシュミット望遠鏡=2番目の写真 を使って18.2等星として,また,アメリカのアフリカーノ(B. M. Africano)さんがレモン山天文台にある1.5メートルの反射望遠鏡=3番目の写真 で18.3等星としてCCD画像から独立して発見した彗星です。レモン山天文台(Mount Lemmon Infrared Observatory )はサンタ・カタリーナ山地のコロナド国立森林内,アリゾナ大学の北約73キロメートル,海抜2,800メートルのレモン山の頂上にあります。アメリカ航空宇宙防衛司令部のレーダー基地であったのをハイテク赤外線天文台に変換したものです。こうしたプロジェクトで利用する望遠鏡は天文学の研究というよりもむしろ地球に接近する天体を探すという目的で運用するものなので,根本的な性格が異なります。
 NASAのJPLは組織的な地球接近天体捜索を行っていて,これまでにも多数の小惑星や彗星を発見しています。彗星は発見された人の名前をつけるのですが,この頃はスカイサーベイプロジェクトで発見されたものはプロジェクト名がつけられることが多くなりました。しかし,このプロジェクトでは,クレジットは原則として観測者に与えるというアリゾナ大学チームの方針から,自動捜索で小惑星として初期報告された天体を除き,天文台内で発見した個人名がつけられています。
 今回の発見は,グレーラーさんが最初に発見したのですが,アフリカーノさんの方が21分ほど早く天体を通報し,グレーラーさんの通報が到着する前にこの天体が小惑星センターの NEOCP ウェブページに掲載したので,アフリカーノさんの名まえだけが彗星につきました。

 現在,アフリカーノ彗星は太陽に接近していて,これまではちょうど地球も彗星に向かって軌道を進んできたので,地球から見た彗星はあまり位置を変えず太陽と反対側に見れらたのですが,数日前,彗星が地球軌道を越え,さらに,地球も彗星とすれ違うような形で遠ざかる位置になったので,急に見かけ上の移動が速くなりました。この先,彗星は太陽に接近するのですが,地球からは遠ざかり,彗星が太陽の方向になるので見えなくなります=4番目の写真。先週くらいが最も明るく見ることができたようですが,今後は暗くなります。ということで,何とかラストチャンスでとらえることができました。
 家に帰ってから写した写真を見てみると,今日の4番目から6番目写真のようにわずか数十分で星の間を縫うように動いている様を見ることができて,大変おどろきました。

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 この晩は,ほかにも暗い彗星をいくつか写すことができました。その話題はまた後日書きます。