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 今から20年ほど前に,瀬戸内寂聴さんの訳した「源氏物語」を購入しました。出版されるたびに読み進め,一応全部終了しました。購入した理由は,「源氏物語」という有名で不朽の小説がどういうものか知りたかったからなのですが,さすがに原文では読めないなあと諦めていたちょうどそのときにこの全集が出版されたのです。
 寂聴さんの源氏物語は意訳しすぎだとか,学問的におかしいとかいった批評をする人もいるようです。しかし,どんなものでもいろんな評価があるものですし,批判することが通だと思っている人もいるのです。私は学者ではないので,とにかく楽しめればいいわけなので,細かいことにはこだわりません。本当の評価はわかりませんが,私の目的は源氏物語がいかなるものかがわかれば,それでいいのです。
 今回,せっかく時間ができたので,それを再び読んでみようと思ったわけですが,先を急ぐ必要もないので,高等学校の生徒用に出版されている国語の図説やその他のさまざまな資料とかを参考にして,平安時代に戻ったような気持ちで味わいながら,再び楽しんでいるのです。じっくり取り組むといろいろな発見があります。再び読み終えるのにこの先何年かかるかわかりませんが,気長に読み進めます。
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 それにしても,私が大学生時代に教養部で受けた源氏物語の授業で,先生がこんな恋愛小説が高等学校の古典の授業で取り上げられているのはけしからん,と言っていた意味が,改めて読んだ今にしてとてもよくわかります。
 
 ところで,これまで,さまざなな作家さんが源氏物語の訳に取り組みました。作家の矜持として一度は訳してみたいのでしょう。一番新しいところでは角田光代さんのものがあります。私は詳しく知らなかったので,これを機会に,これまでに訳されたものの違いを調べてみました。
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●与謝野晶子「新訳源氏物語」(ダイジェスト訳)「新新訳源氏物語」(全訳)
 口語体で書かれていて,主語を入れ敬語を省いた短文で書かれているということです。古典は敬語があることで主語が省略されているわけですが,その反対に挑戦したということでしょう。確かにこのほうが今の人にはわかりやすいかもしれません。文体は歯切れが良く,古風な女語りの手法とは距離を置いていて,今の小説として読めるようになっているそうです。
●谷崎潤一郎には次の3つがあります。
 「潤一郎訳源氏物語」は戦前の出版なので,天皇家の不敬に当たる部分を削除してあります。
 「潤一郎新訳源氏物語」は戦後の出版で,戦前の削除された部分を復活しました。
 「潤一郎新々訳源氏物語」は旧仮名や旧漢字を読みやすく改めたものです。
 いずれも,原文の敬語を生かして丁寧語を多用し,また,継ぎ目のない長文で,主語も入っていないということなので,原文を尊重しているのでしょうが,そのため難しいといわれます。また,関西の女語りを意識した流麗な雅文体の訳だそうです。
 なお,私が高校生のころに英語の勉強に使った「新々英文解釈研究」という当時はかなり定評のあった参考書があるのですが,与謝野晶子訳,谷崎純一郎訳ともども,この時代「新々」という使い方が流行ったのでしょうか。
●円地文子「源氏物語」
 男性的なしっかりした文体で,主語を加えて,また,注釈的な部分も文中に織り込んでわかりやすく,かつ,その文体は格調が高く文学的だそうです。また,内面の読み取り方が鋭く深いものになっています。瀬戸内寂聴さんのものが生まれるまで,これこそが源氏物語の現代語訳の定番でした。
●田辺聖子「新源氏物語」
 男性にもわかりやすい物語を目指し大幅なリライトが加えられていて,会話を多用した一種の現代小説のようということです。大和和紀の漫画「あさきゆめみし」に影響を与えました。
●瀬戸内寂聴「源氏物語」
 私が持っているのはこれです。
 ですます調の語り口で,平易な日本語で訳されています。宣伝効果もあってかつてないヒットとなりました。私もそれにつられて購入した口です。
●角田光代「源氏物語」
 原文に主語を補い敬語を省略し,また注釈のような説明を本文で補っているのはこれまでの現代語訳でも試みられていることですが,「である」調で訳されたところが斬新です。現代小説のように違和感なくさらりと読めるということです。
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 文学の力と時間があれば,読み比べるのも一興かもしれません。

 ところで,NHK総合で「いいね!光源氏くん」というとてもおもしろいドラマが放送されました。このご時世も手伝って,かなり評判がよかったように思います。
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 「源氏物語」の中で雅の世に生きていた平安貴族・光源氏が,まったく世界観の違う現代に出現。あたりまえに見える現実世界とのギャップに驚いたり,楽しんだり……。
 こんな光源氏をヒモ同然のように住まわせることになる地味で自分に自信がない今風のこじらせOL・沙織は,はじめは違和感を覚えつつも徐々に光の存在に癒されていく。
 奇想天外ながらゆる~く笑える千年の時を越えた“いけめん”居候コメディ!!
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だそうです。コミック好きのに人は有名な作品だったかもしれませんが,私はまったく知りませんでした。
 ともかく,こうした何の憂いもなく楽しめるドラマ,これこそが,テレビというものです。
 4K放送も8K放送もいらないから,不安をあおるだけのニュース番組は別の専用チャンネルを作ってそこに押し込めて,総合テレビはこうしたこころ休まる番組ばかりにしてほしいものだと思います。

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