しない・させない・させられない

Dans la vie on ne regrette que ce qu'on n'a pas fait.

USA50州・MLB30球場を制覇し,南天・皆既日食・オーロラの3大願望を達成した不良老人の日記

タグ:スワン彗星(C_2020F8_SWAN)

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 2020年はおかしな年です。まるで,天が人類を試しているかのようです。
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 梅雨入りをしたら,まったく晴れなくなりました。日照時間は例年の3割だそうです。そしてまた,まったく台風が発生しませんでした。
 何かすべての歯車が狂っているようです。それはおそらく,世界を作った神様のプログラムにバグがあったからなのでしょう。
 そんな中,人類が慌てふためく姿を天が視察に来たかのように,突然,明るい彗星が立て続けに地球に接近しました。

 そのはじめがアトラス彗星(C/2019Y4 ATLAS)でした。4月に明るくなって肉眼でも見えるということで,大いに期待しましたが,予想に反して明るくなりませんでした。
 次がスワン彗星(C/2020F8 SWAN)だったのですが,この彗星の軌道から,南半球ではその明るい姿が見えたものの,北半球では明け方と夕方の,まだ空が暗くならないころに地を這って見えただけでした。しかも,月明かりが邪魔をしました。
 その次がレモン彗星(C/2019U6 Lemmon),そして,極めつけがネオワイズ彗星(C/2020F3 NEOWISE)でした。しかし,レモン彗星もネオワイズ彗星も,最も明るかったころはずっと天気が悪く,いずれも,雲がその姿を覆い隠し,見ることがかないませんでした。
 特に「2020年の大彗星」となったネオワイズ彗星は残念でした。私はその姿見たさに北海道まで足をのばすことになりましたが,幸い,北海道でその美しい姿を見てきたことは,すでに書きました。

 さて,7月31日。ついに晴れました。自宅で青空を見るのは1か月ぶりのことでした。すでに7月の新月はとうの昔に終わり,南の空には,1番目の写真のような月齢10の明るい月が星の光を隠していました。いつもなら,こんな月の明るい時期に星見などしません。しかし,久々にやってきた晴空だったので,ネオワイズ彗星を見にいくことにしました。
 ネオワイズ彗星は,2番目の写真のように,さすがにもうずいぶん暗くなっていたのですが,それでも簡単に双眼鏡で見ることができました。北海道で見てきたときとは位置も変わり,4番目の写真のように,今はかみのけ座にいるので,もし,月明かりがなければ,かみのけ座の銀河団とともに,その姿を美しく捉えることができたことでしょう。それがとても残念でした。また,3番目の写真のように,そのお隣にいるレモン彗星は,すでに9等星まで暗くなっていました。
 それでも,このふたつの彗星を,やっと自宅から1時間ほどの場所で写すことができて,この晩は満足しました。そして,月明かりを恨めしく思いました。おそらく,北海道に行っていなければ,この日がネオワイズ彗星を見る最初の晩となったことでしょう。そして,非常に残念に思ったことでしょう。

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☆☆☆☆☆☆
 本当ならこの時期はアトラス彗星(C/2019Y4 ATLAS)が日が暮れた後の北西の空に明るく輝いているはずでしたが,期待に反して分裂してしまいました。
 そんなとき,急にスワン彗星(C/2020F8 SWAN)が南半球で明るく輝やいている(=2番目の写真)というニュースが飛び込んできました。
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 今年2020年3月25日,オーストラリアのビクトリア州スワンヒルのアマチュア天文家マイケル・マッティアッツォ(Michael Mattiazzo)さんがSOHOに取りつけられているSWANが撮影した画像に彗星らしい天体が写っているのを発見しました。新型コロナウィルスの影響で世界各国の天文台ではすぐに観測できる状態になく,マッティアッツォさんををはじめとする南半球のアマチュア天文家がこの天体を観測,国際天文連合(IAU)で確認され軌道が確定しました。
 それによると,彗星は太陽系の天体と逆回りで公転していて,5月12日に地球に約0.56AU(1AU=地球と太陽の距離)まで近づき,さらに5月27日には太陽に約0.43AUまで近づき4等星ほどになることがわかりました。

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  SOHO(Solar and Heliospheric Observatory=3番目の写真)というのは,1995年に欧州宇宙機関(ESA)とアメリカ航空宇宙局 (NASA)によって開発された太陽観測衛星で,SWAN(Solar Wind ANisotropies)は水素の特性スペクトルを観測する望遠鏡です。太陽風の流れや太陽圏における密度分布,太陽風の流れの大規模構造の観測を行うものです。
 SOHOは,これまで3,000個以上のサングレーザーと呼ばれる太陽をかすめる彗星を発見しています。なお,発見された彗星の85%はクロイツ群に含まれる彗星ということです。クロイツ群(Kreutz Sungrazers)というのは近日点が太陽に極めて近い類似の軌道をもつもので,天文学者ハインリヒ・クロイツにより数百年前に分裂したひとつの非常に巨大な彗星の破片だと考えられています。クロイツ群に属する彗星で最も有名なものは1965年の池谷・関彗星です。
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 さて,このスワン彗星,北半球ではほとんど見ることができず,しかも,この時期南半球に行くこともできないので,私はあきらめていたのですが,日本でも,5月の中旬に,夜明け前に北東の地平線から昇り,夜が白むまでの数十分間かろうして見ることができるかも,ということでした。
 しかし,それにしても条件悪すぎです。最悪です。満月が終わったばかりで月が明るく,彗星は高度が10度以下と低く,しかも,夜が白むのは早くも3時30分ごろなのです。
 5月12日の早朝は快晴でした。時節がら遠くに出かける気にもならず,地平線まで見通せる家の近くの場所へ,眠い目をこすり,とりあえず出かけました。その日,彗星はうお座にあったのですが,近くに明るい星もなく探せません。しかも,月明かりでもともと空は白んでいました。当然肉眼でも双眼鏡でも見えず,方角だけを頼りに写真を写してみましたが,少し長く露出をすると真っ白になってしまい,結局写すことができませんでした。
 あきらめがつかず,月明かりがなくなった5月20日は前日19日の夕方に降った雨も上がり晴れそうだったので,思い切っていつもの山まで出かけました。到着したときは空の80パーセントくらいは雲に覆われていたのですが,かろうじて北極星は見えました。雲が切れる予感がしたのでしばらく待っていたら,奇跡的に彗星の昇る北東の低空の一部だけ晴れてきました。この日,彗星はうお座からペルセウス座に移動していて,ペルセウス座のα星「ミルファク」(Mirfak),アンドロメダ座のγ星「アルマク」(Almach)という明るい星がなんとか見えたので,そのふたつの星から彗星の位置がわかりました。そして,ダメもとで写した写真に彗星の像が確認できました(=1番目の写真)。私にはこれが精一杯です。
 夜明け。さきほどの曇空がうそのように晴れ渡り,東の空には月齢26.7の月が山から昇ってきてそれはそれは神々しいものでした。(=4番目の写真)帰りの車から家の前で家族で月を観察している人たちを見つけてほえましくなりました。時間は朝4時,早起きして自然の美しさを知るのです。

 さて,スワン彗星はこのあと太陽に近づいていくので見えなくなります。おそらくこの写真がラストチャンスだったでしょう。5月下旬になると太陽を追い越して,そして,今度は夕方の北西の低空に再び姿を現すのですが,空の暗い明け方でさえ困難なのに,街灯りの明るい夕方,しかも新月をすぎた月も輝く空では,とても見ることができるとは思えません。救いといえば,ぎょしゃ座のカペラのすぐ近くということくらいでしょうか。
 それにしても,明け方に月があるときに明け方に見え(=5番目の写真),夕方の月があるときは夕方に見え(=6番目の写真),しかも,ともにかなりの低空とくれば,これほど条件最悪の彗星もめずらしいです。実際に見もしないで,明るい彗星が見えるなどと書いているブログも多々あるのですが,困ったものです。本当に見えるか試してごらんと言いたくなります。何事につけても行動もしないくせに机上の空論を振りかざす輩が多すぎます。

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