しない・させない・させられない

Dans la vie on ne regrette que ce qu'on n'a pas fait.

USA50州・MLB30球場を制覇し,南天・皆既日食・オーロラの3大願望を達成した不良老人の日記

タグ:木村一基

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 1番目の写真は2018年に行われた朝日杯将棋オープン戦名古屋大会での大盤解説会場の様子です。このときは,まさかその2年後に,木村一基対藤井聡太というタイトルマッチが見られるとは夢にも思いませんでした。
 その翌年,無冠の帝王だった木村一基九段が涙の初タイトル王位を獲得しました。そして,その流れを受けて,2020年に行われた王位戦で,藤井聡太新王位が誕生となったわけです。
 2番目から4番目の写真は,勝敗を決した王位戦第4局の将棋史に残る伝説の封じ手△8七同飛車成,twitter上で「同飛車大学」とトレンド入りした話題の局面です。
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 昨年の木村一基王位の誕生から今年の藤井聡太王位の誕生というあらすじは,フィクションとして書いたらおそらくありえないと酷評されるような,いわゆる劇的以上のものでした。
 もし,昨年,木村一基王位が誕生していなかったら,今年の今ごろは豊島将之竜王の名人,王位,叡王のトリプルタイトルマッチだったかもしれず,また,豊島将之竜王にこれまで1勝もしていない藤井聡太棋聖がどういった戦いをしていたかもわからず,と,まったく違った流れであったことでしょう。

 思えば,加藤一二三九段が1983年に念願の名人位を獲得し,翌年,新鋭の谷川浩司に敗れたとき,また,米長邦雄永世棋聖が1994年にこれも念願の名人位を獲得して,翌年,これもまた新鋭の羽生善治に敗れたときのように,将棋の神様は,実績あるベテランに1度だけ御褒美をあげて,その翌年,世代交代の任を担わせるのです。
 名人戦ではありませんが,今回の王位戦もまた,それと同じ流れになりました。つまり,昨年の涙の初タイトルは,今年の王位戦を盛り上げるための序章にすぎなかったわけです。
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 現在の藤井聡太二冠は,角換り腰掛銀のスペシャリストである豊島将之竜王とか,1手損角換りのスペシャリストである丸山忠久九段とか,あるいは,横歩取りのスペシャリストである大橋貴洸六段とか,そういった藤井聡太二冠以上の知識のある得意戦法をもつ棋士と対峙したときに負けることがあります。
 つまり,藤井聡太二冠に勝つには,ある戦法のスペシャリストになって自分の研究範囲に持ち込み,序盤から中盤にかけて意表の1手を指してリードを奪い,藤井聡太二冠に極端な長考を強いるしか方法がないのです。終盤の読み比べであるとか,得意の受けで凌ぐのが持ち味,というタイプの棋士には勝ち目がないのです。だから,私は,藤井聡太挑戦者は木村一基王位には勝てると思っていましたし,実際,結果はそうなりました。

 明るい話題の少ない今,マスコミは絶好のネタとして,二冠獲得の翌日,藤井聡太二冠誕生の話題を多くのテレビ番組が取り上げていました。
 普段から民放はまったく見ない私ですが,この話題をどう伝えるかに興味があって,すべて録画をして,藤井聡太二冠関連のものだけを後で探しだして見てみました。番組には,ゲストとしてさまざまな棋士が登場していました。将棋を知らない視聴者に将棋の魅力を伝えようと,それぞれの棋士はずいぶん苦労をしていました。その姿はほほえましいものでした。
 番組の制作者が,将棋を知らない視聴者を相手にわかりやすく説明しようとしていることは理解できるのですが,しかし,それにしても,将棋は「指す」であって「打つ」ではありません。また,「定跡」であって「定石」ではありません。こんな基本的なことも正確にキチンと伝えられていない,その程度のワイドショーの司会者やスタッフは勉強不足で,いつもながら思いやられます。知らないことがあれば,専門家であるプロの棋士をゲストによんでいるのだから,事前に確認すべきです。将棋の棋士はものすごい才能をもった人たちですが,そんな専門家をお笑いタレントのように扱っていること自体,専門性にリスペストを払っていない証拠です。
 報道は正確さと言葉が命なのです。しかし,こうしたことから考えると,おそらく,このようなワイドショーで伝えているニュースは,みなこの程度のレベルなのでしょう。きっと,新型コロナウィルス関連のニュースもこの程度のいいかげんさで伝えているのです。
 私には,そのことを再確認したことの方が,ずっと興味深いものでした。

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チームバナナ優勝!

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 9月26日,将棋の木村一基九段が第60期王位戦七番勝負の第7局に勝ち,4勝3敗でタイトルを獲得されました。私もうれしくて泣けました。「将棋の強いおじさん」とファンに親しまれる「いい人」は,精神的にも人間らしい弱さが勝負師としては仇となっていたのですが,無欲となったことで勝負の神様がほほえんだようです。
 若いころはものすごく強く,タイトルも間近だったのに何度挑戦しても跳ね返され,このごろはタイトル挑戦者よりも解説者としての存在となっていて,今回もまただめなのかな,と思っていただけに,この結果には驚きました。
 しばらく低迷していた木村一基九段でしたが,一念発起,新たに将棋の研究により多くの時間打ち込むようになって往年の強さを取り戻し,今年は,第60期王位戦挑戦者決定戦で羽生善治九段に勝利し,豊島将之王位への挑戦権を獲得,また,第32期竜王戦では本戦トーナメントを勝ち抜いた結果,挑戦者決定三番勝負を同じく豊島将之王位と対戦することとなって,同時期に行われる王位戦七番勝負と合わせて「十番勝負」を行っていました。
 竜王戦挑戦者決定三番勝負は惜しくも1勝2敗敗で敗退したものの,王位戦では4勝3敗で勝ち,十番勝負は5勝5敗という結果に終わりましたが,ついに初のタイトル王位を獲得しました。これまで初タイトル獲得の年長記録は有吉道夫九段の37歳6か月でしたが,木村一基新王位は46歳3か月とこの記録を9歳あまりも更新しました。
 
 木村一基新王位は居飛車党の棋士で,受けが得意であり,守りと粘りの棋風。柴田ヨクサル作の漫画「ハチワンダイバー」の登場人物である中静そよの異名「アキバの受け師」をもじって「千駄ヶ谷の受け師」という異名があります。棋士仲間の間で「勝率君」と呼ばれていたほどプロになってからの勝率が非常に高く,通算500局以上対局している棋士の中で通算勝率が7割を超えていたのが羽生善治九段との2人だけという状態が長く続いていました。しかし,タイトルにはなかなか手が届きませんでした。
 はじめて挑戦をしたのが2005年の竜王戦。決定したときには盤の前にひとり残り涙を流したといいます。しかしタイトル戦は1勝もできず敗退しました。さらに,2008年,王座戦で挑戦権を獲得しましたが,やはり1勝もできず敗退しました。また,2009年は棋聖戦と王位戦の挑戦権を獲得しましたが,棋聖戦は第3局まで2勝1敗とリードしたものの敗退,王位戦は第3局まで3連勝したもののそれ以後4連敗を喫しました。
 2014年王位戦の挑戦権を獲得しましたが,2勝4敗1持将棋でまたしてもタイトルの獲得はならず,2016年にも王位戦で挑戦権を獲得し第5局の時点で3勝2敗と先行しましたが,結果は3勝4敗でした。
 私は2018年の朝日杯将棋オープンを観戦したときに,解説者として登場した木村一基新王位を真近で見たことがあります。これだけ強くて人柄がよくてファン思いで,それでいながら,何度もタイトル戦に挑戦したのに一度も夢がかなわないなんて,将棋の神様はいないのかと思っていたのですが,やっと夢がかないました。
 インタビューで泣いていたその姿に私も泣けて泣けて仕方がありませんでした。
 「将棋の強いおじさん」タイトル獲得おめでとうございます!

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