日本では満足に星の見られるところもありませんが,それでも秋になって星がきれいに見られる季節がきたので,これからは時間があれば星見を楽しみたいと思うようになってきました。
そこできょうはピントのお話です。
・・
望遠鏡で一番大切なのはピントです。
カメラでも,ピント合わせが一番重要ですが,その一番大切な部分も今では「オートフォーカス」になって,自動化されました。一眼レフカメラがオートフォーカスになった始めのころはカメラに内蔵されたモーターが「ジージー」と音を立てながらピント合わせをしていて人間が目で合わせるほうが早いくらいだったのですが,どんどん進化を遂げて,動いている物体にピントを合わせて追っかけるまでになりました。
このように,ピントはカメラが自動で合わせることが当たり前になってしまったので,それがいかに大変なことかを特に意識もしなくなりましたが,自動でピントが合うということ自体,考えてみれば不思議なことです。
星の写真を写すときは,今でもピント合わせにとても苦労します。無限でいい,と思われるでしょうが,レンズも高性能になって,温度によって無限の位置さえ一定でなくなったのです。
では,超高性能の一眼レフなら星さえもオートフォーカスでピントが合うのでしょうか? 調べてみても本当のことがなかなかなわかりません。
木星ならオートでピントが合う,と書かれたものもあります。確かに木星は明るいから十分にピントを合わせられそうです。月は明るすぎて逆にうまくピントが自動で合うのがむずかしそうですが,でも,何とかなりそうです。
私は,月も木星もともに遠いので同じように無限とみなせるから,月でピントが合うのなら星を写すときも同じ位置でピントを決定すればいいと思っていたら,厳密にはピントの位置が違うと書かれてありました。私のような年寄りには現代の技術を理解するのはたいへんです。
それでもまだ,カメラのレンズなら自動でピントが合うのかもしれませんが,望遠鏡に直接カメラのボディーを接続して写真を写すとなると,今でも手動でピントを合わせる必要があって,それが大変なのです。
デジタルカメラは写した像がすぐに確かめられるから,それでも,焦点をすこしずつずらしながらピントを追い込んでいけばいいので,まだなんとかなります。
では,フィルムの時代はどうしていたのでしょう。しかも,天文台の大型の望遠鏡となれば,その苦労は並み大抵のものではなかったのでは? と疑問に思っていたので,三鷹の国立天文台を見学したときに,昔活躍した65センチメートル屈折望遠鏡の案内をしていた人にそのことを聞いてみたことがありますが,そんなこと考えもしなかったと答えられました。
私はそことがそのままずっと気になっていたのですが,1979年に発行された季刊雑誌「星の手帖」の冬号を読み返していたらその話題が載っていて,びっくりするとともに,やっとその疑問が解決しました。
1番目の写真の三鷹の天文台で使われていた65センチメートルの屈折望遠鏡はFが暗くて焦点深度が3.1ミリメートルもあったので,季節やシンチレーションによる温度差で焦点が変わったとしても,それはわずか2.5ミリメートル程度だったので焦点深度の範囲内に収まるのだそうです。だから,一度焦点を決めてしまえば,あとはその状態を固定しておけば大丈夫だったという話でした。
要するに固定焦点で写していた,ということです。
しかし,2番目の写真の埼玉県の堂平山にあった91センチメートルの反射望遠鏡はFが明るかったのでピントの変化が大きくて,観測する度に初めに焦点を合わせるために,0.2ミリメートルずつ動かしては10秒露出して写真を写して… を繰り返して,写し終わったところですぐに現像してその日のピントを決めていたのだそうです。
たいへんな苦労をしていたのですね。
そうした天文台の大きな望遠鏡も,現在はすべてデジタル化されています。ハワイ島マウナケア山にあるすばる望遠鏡では,3番目の写真のような「Suprime-Cam(SC)」と名付けられた主焦点カメラに「主焦点補正光学系」と呼ばれる複雑なレンズユニットを搭載していて,主鏡からの光の収差補正だけでなく,大気による星の光のにじみをも補正して焦点を自動で検出する機能が備えられているのだそうです。
まさに,時代が違うという感じです。
・・
かくいう私は,これまでは,月や惑星を写すときは少しずつピントをずらしながら何枚も写しておいてあとで一番ピントがあっているものを選んでいましたし,長時間露出の必要な星を写すときは,カメラのプレビュー画面を拡大して明るい1等星でピント合わせをしていましたが,これがなかなか大変でした。
今は,4番目の写真のような「バーティノフマスク」というものを知ったので,それを自作して使っています。
このマスクを対物レンズの前に取り付けてカメラのプレビュー画面で明るい星を使ってピント合わせをすると,5番目の写真のように,星の光がこのスリットを通ったときに焦点が合った状態だと左右対称に回折光がでるので,簡単でとても正確にピントを合わせることができるのです。
どんなに苦労をして写そうが,写真はピントが合っていないと意味がない… 何事も「ピンボケ」ではいけないのです。
◇◇◇
I wish you are a Happy Halloween 2016.