日本ではじめて彗星を独立発見したのは1903年(明治36年)の井上四郎さんだそうです。その次が1919年(大正8年)の佐々木哲夫さん,そして,山崎正光さんと続くそうですが,山崎正光さんが発見したのがクロンメリン彗星(27P Crommelin)です。クロンメリン彗星は,周期27.4年のいわゆる天王星属の周期彗星です。
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1928年(昭和3年),岩手県の水沢緯度観測所に天文技師として務めていた山崎正光さんが発見した彗星は,のち,大英天文協会のクロンメリン博士が軌道を調べたところ,1818年に出現したポン彗星(1818II Pons)と1873年に出現したコッジャ・ウィンネッケ彗星(1873VII Coggia-Winnecke)と同じ彗星であることが判明したので,残念ながら山崎さんの名はつかず,クロンメリン彗星とよばれることになりました。
これには次のようなおもしろい事情があります。
クロンメリン彗星は,もともと3つの別々の彗星として考えられていたポン彗星,コッジャ・ウィンネッケ彗星,フォーブズ彗星(1928III Forbes)が,1929年,クロンメリン博士(Andrew Claude de la Cherois Crommelin)の軌道計算によって同一の彗星であることが判明し,それを受けて「ポン・コッジャ・ウインネッケ・フォーブズ彗星」(Comet Pons-Coggia-Winnecke-Forbes)となりました。そののち,軌道を計算したクロンメリン博士にちなんで,1948年に「クロンメリン彗星」とよばれるようになったのです。
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ポン彗星は,1818年2月23日,フランスのジャン・ルイ・ポンさん(Jean-Louis Pons)がくじら座に最初に発見しました。
2月27日の観測を最後に天候が悪化し,その後はこの彗星を見ることはできなかったので,軌道計算で算出された値には大きな誤差があり,周期が特定できませんでした。
コッジャ・ウィンネッケ彗星は,1873年11月10日,フランスのジェローム・E・コッジャさん(Jerome Eugene Coggia)が,その翌日にはフリードリヒ・A・T・ヴィネッケさん(Friedrich August Theodor Winnecke)がヘルクレス座で発見したものです。
その後,数個の観測がされましたが,11月16日を最後に見失われてしまいました。
また,フォーブズ彗星は,1928年11月19日,南アフリカのアレクサンダー・フォーブズさん(Alexander Irvine Forbes)が約6等星で発見したもので,この彗星は12月24日まで世界中で追跡されました。日本の山崎正光さんが発見したのはこの彗星なのですが,実は,アレクサンダー・フォーブスさんの発見より前の10月26日に発見していたのです。詳細なスケッチを取り,その後の動きまで観測し,現在の国立天文台である当時の東京天文台に発見の通報をしていましたが,その後は悪天と月明かりで11月10日まで観測することができず,見失なわれてしまいました。
10月26日のフォーブズ氏の発見を受けて,東京天文台は山崎正光さんが記録したスケッチを元に,クロンメリン氏が軌道計算をし,山崎正光さんとアレクサンダー・フォーブスさんの発見したふたつの彗星が同じものであることが明らかになりました。
彗星に名前こそつきませんでしたが,山崎正光さんは彗星発見の功労が認められ,アメリカ太平洋天文学会からドノホー賞が授与されました。
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「しない・させない・させられない」とは
「Dans la vie on ne regrette que ce qu'on n'a pas fait.」とは