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今から15年ほど前の1996年と1997年の春は,彗星の当たり年でした。
彗星はほうき星ともよばれ,最も有名なものはハレー彗星です。流れ星と勘違いされて星が尾を引いてスーッと流れるように思っている人もいますが,実際は,月のように毎晩少しずつ姿と位置を変えながらじっと夜空に見えています。ただし,光が弱いので,ほとんどのものは写真で知られているような尾を引いた勇士には見えず,望遠鏡を使ってやっとその綿菓子のような淡い姿が見られるだけです。
そんな彗星も,数年に1度,肉眼でもはっきりと見られる明るさで夜空に現れることがあります。
私は,これまで40数年にわたって,ベネット,コホーテク,アイラス・荒木・オルコック,ハレー,レビー,百武といった,その世界に詳しい人が羨ましくなるような大彗星をすべて見てきました。
その中でも,1996年と1997年の2年は,春先に「史上最大級」といわれた百武彗星とヘール・ボップ彗星を相次いで見ることができました。とりわけ,1997年の春に現れたヘール・ボップ彗星は,特にすさまじいものでした。
彗星は,太陽から遠く離れた暗いころに発見された時点で明るくなると予想されても,その予想が当たったためしがないので,前評判の高かったこのヘール・ボップ彗星も全く期待をしていませんでした。その前年に,突如として現れ,天空一杯に肉眼でもはっきりと確認できるほど長く尾をたなびかせるほど巨大に成長した百武彗星が現れました。その写真を多くの人たちに配ったことから,ヘール・ボップ彗星の写真も欲しいという声が多くあったので,そのプレッシャーと夜中に起きる辛さをやっとの思いで振り切って,3月の初旬,重い腰をあげ,夜中の高速道路を東へ東へと走ることになってしまったのでした。
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ところが,この目で見たヘール・ボップ彗星は,まだ,核とよばれる彗星の中心が地平線の下にあるというのに,尾だけが夜空に立ち上っていたのです。やがて核が地平線から姿を現すと,その核の明るさで一瞬夜空が明るくなるという,とんでもない状況を目の当たりにして,感激するやら涙は出てくるやらで,こんな興奮を味わったのは生まれてはじめてのことでした。
それ以来,1997年の春は,晴れていればヘール・ボップ彗星が気にかかり,ついに,毎晩のように90キロメートルの道のりを,彗星見たさに走り回ることになってしまったのでした。
実は,2013年の春に,パンスターズ彗星と名づけられたほうき星が,「史上最大級」という呼び声のもと,夜空に明るく輝くらしいといわれていたのですが,結果は,今回もまた「予想が当たったためしがない」ということが現実となってしまいました。ところが,2013年の冬に,アイソン彗星という名の彗星が,今度こそ,「史上最大級」で輝くらしいのです。果たして,今度こそその予想が当たるのかどうか? いずれにしても,春,梅の花の咲くころになると,いつも,こうした出来事を思い出すのです。
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春はあけぼの。
やうやう白くなりゆく
やまぎはすこしあかりて
むらさきだちたる雲の
ほそくたなびきたる。
「枕草子」
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