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☆1日目 7月21日(土)
 朝,自宅からバス停まで徒歩3分。バス停の手前の信号のない交差点で車に引かれかけた。一旦停車をすべき交差点を無視した小型車が,突然,自分の前を猛スピードで通り過ぎた。本当にびっくりした。あと1秒でも違ったら,今,この世にいなかっただろう。後ろを歩いていた人は,完全に私は引かれた,と思ったそうだ。あとで,バス停で,その人に,そう話しかけられた。
 しかし,自分には,不思議と動揺はなかった。ただ,旅行する前に死んでしまってはたまらんわ,とは思った。でも,こんなことから旅が始まれば,この先は,よいことしか起こらないであろう。そのときは,そう思った。そして,実際,そうなった。
 やがてバスが来て,そして,バスは名鉄の駅に到着して,座席指定特急に乗って,10時過ぎ中部国際空港に到着した。

 まだ出発には早く閑散としていたデルタ航空のカウンタで,チェックインの手続きをしようとすると,飛行機がオーバーブッキングなので,変更してくれる人を探していると言われた。別にスケジュールにこだわっている旅でもないので,ハプニングはすべて受け入れよう,と思った。だから,現地の到着時間さえ,これ以上遅くならなければいいですよ,と答えた。はじめから面白そうな旅だと思った。
 隣のカウンタに来た別の人にも同じことを言っていたようだったが,その人は冗談じゃないと断っていた。
 きっと,人生の面白い経験なんて,こういうことの積み重ねが差になってくるのだろう。
 人生なんて,死ぬまでの暇つぶしに過ぎない。どうして,地位をもとめる哀れな人たちは,みんな偉そうに権威を振りかざしたり,深刻ぶって仕事をしたりしているのだろう。5年前,一度,仕事をやめたとき,しみじみとそう思った。その気持ちは,今のほうが,もっと強い。
 自分には,やりたいことが一杯ある。だから,そんなくだらないことに時間をかけたり,中身がないからこそ地位にこだわるしかないような,そんなくだらない人たちを相手にしたりしている時間はないのだ。

 とにかく,当初予約してあったデトロイト便,名古屋-デトロイト間の時間がかかりすぎる。それに,デトロイトで次のフライトまでの待ち時間が5時間以上もあるので,変更してもらえるなら大歓迎だった。
 聞いたところによると,変更して,関西国際空港発シアトル行きになるのだそうだ。
 当初は,「名古屋-デトロイト-ミネアポリス-ラピッドシティ」。それが,「大阪-シアトル-ソルトレイクシティ-ラピッドシティ」になる。この方が距離的にもうんと近いではないか。当然,当初の予定より遅く出発しても,到着は30分以上早い。さらに,大阪-シアトルはビジネスクラスに変更になって,しかも,おまけに200ドルのクーポンと20ドルの食事券が付くということだ。こんなよい話はそうあるものではない。
 ということで,早速,変更の手続きをしてもらった。
 関西国際空港への行き方を教えてもらって,それに従って,また,中部国際空港から名鉄特急で名古屋に引き返し,新幹線で新大阪まで行き,特急はるかに乗り継いで,関西国際空港に行くことになった。
 この移動にかかる費用は,後日返金してくれるという話だ。
 それはそれとして,気安く変更を受け入れたけれど,大阪へ行くだけの日本円の持ち合わせがないのだった。こういうこともあるので,日本円を多少多めに用意しておけばよかった,と一瞬思ったが,よく考えてみると,クレジット払いでJRのチケットが購入できるので,別段何事もないのだった。名古屋駅で,一番早く関西国際空港へ行く乗車券を下さい,と言ってチケットを購入して,早々に新幹線に飛び乗った。

 名古屋を出発した新幹線の車内からは,出発して5分もしないうちに,早朝に出た自宅が車内から眺められて,自分はいったい何をやっているのやら,と,おかしくなった。家を出て3時間もたったのに,まだ,出国どころか,自宅に戻ってきてしまったみたいだ。
 やがて1時間もしないうちに新大阪駅に到着した。新大阪駅で,NHK交響楽団のコンサートマスターの堀正文さんを目撃した。そういえば,新幹線の車内にもバイオリンを持った女性が乗っていた。彼女もN響の団員かもしれない。N響は,この時期,大阪でのコンサートツアーだ。
 それやこれや,ビジネススクラスに変更になったり,意外な人に遭遇したりと,今回も強運だらけだった。はじめからいろんなことがあって,面白い旅になりそうだ。
 新大阪で,特急はるかに乗り換え,初めて見る新大阪から関西国際空港への車窓を楽しみながら,中部国際空港から2時間もしないで,関西国際空港に到着した。午後1時頃のことだった。