試合はすでに4回の裏であった。私が新しいヤンキースタジアムに来て,はじめて打席で見たのがイチロー選手であったのが,また,偶然とはいえ,信じられない驚きであった。イチロー選手は,3塁内野安打を放った。と,そう思っていたが,帰国後,これを書きながら調べてみると,3塁のエラーであった。
私の隣の席に座っていたのは,シンシナチから所用あってニューヨークに来たついでに野球見物のヤングガイであった。
結果を書くと,この試合は貧打戦であった。対戦相手は,タンパベイ・レイズであったが,ヤンキースは0-1で完封負けをした。この試合に限ったことではないが,この年のヤンキース打線は,全く迫力がなかった。
この日,イチローは2番であったが,ヤンキースには,ロビンソン・カノーとアルフォンソ・ソリアーノ以外,期待できそうな打者がいない。とにかく,高いお金を出して各球団から獲得した選手はみんな年齢が高くなって,故障だらけであった。2006年までの強いヤンキースのときと選手が変わらず,歳だけ重ねていった感じであった。
このころのヤンキースは,下部組織もダメだし,フロントも無策だし,このジョー・ジラーディという元ヤンキースの捕手だった監督は,毎日,猫の目のように打順を変えるので,もし,私が選手だったら調子を保つのも大変だと思った。
イチロー選手の打順も毎日変わるし,出場しないこともあった。
私は,イチロー選手のファンであるからこういう書き方はしたくないが,冷静に見て,彼がチームに入るとチームが斜陽になるのか,たまたまそういう時期に加入するのか,そのどちらなのかは知らないが,今年のヤンキースの雰囲気はイチロー選手が入団してから順位を急降下させた10年前のシアトル・マリナーズと同じように感じる。
隣のヤングガイは予定があるのか,「アメリカで楽しんで」と言って,7回くらいで帰っていった。
私の今日の目的は,チケットを持っている明日の試合が雨天で中止になったときの保険を兼ねて,ヤンキースタジアムに来ることだったから,試合を見るのはほどほどにして,ヤンキースタジアムを歩き回った。
ボストンのフェンウェイパークに比べれば,とてもつなく豪華で広い球場であった。しかし,正直にいって,私は,ヤンキースタジアムはすごいとは思ったが,もう一度行くとなれば,ぜったいフェンウェイパークのほうがいい。
ヤンキースタジアムは,バックネット裏の席は,革張りであった。聞くところによると,席の裏にレストランがあるそうで,注文すると座席まで持ってきてくれるのだそうだ。そして,このレストランは,この金持ちシートの客しか利用できない。いわば,この球場は,格差社会のミニチュア模型のようなところであった。
ともかく,このヤンキースタジアムは,きっと,アメリカのMLBの球場の中で,一番日本人になじみがあって一番多くの人が訪れるところだと思うので,あえてここで写真を載せる必要もないかもしれないが,私もたくさん写真を写したので,この球場の様子を写真でご覧ください。
センター下にあるのが「モニュメントパーク」とよばれる一角である。この球場の名物のひとつで,球団史に足跡を残した貢献者たちのレリーフが所狭しと並んでいる。試合開始前なら,ここに入ることができるのだが,だれしも,この球場に行けば一度は見たいと思うので,この狭い所に入るにはかなりの時間並ぶ必要がある。ぜひ,ここに行きたいのであれば,開門と同時に,このモニュメントパークに最も近いゲートから入って並ぶ必要があろう。
また,アメリカの球場を訪れた人にはおわかりだと思うが,このヤンキースタジアムも客席の奥はずっとコンコースになっていて,売店が並んでいる。あるいは,この写真のように,試合を見ながら飲み物を飲んだりすることができる場所がある。
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ボールパークに限らず,こうした施設を訪れたときに,私は日本と全く違う価値観を感じる。
アメリカでは楽しむためのさまざまな工夫が,いたるところにある。
日本では,たとえば,名古屋ドームでは,食堂からはグランドが見えない。国技館の食堂からも土俵が見えない。そして,会場全体も狭く,個人の楽しみで見にいくのに,応援を強要される。
アメリカの野球にはテレビ中継で試合の内容をみることだけでは決してわからないおもしろさがやまほどある。
しかし,それでも,ヤンキースタジアムには,他の球場ほどは,観客楽しませる工夫がないように感じた。やはり,ここは殿様商売なのである。いや,野球そのものに自信があるからこれで十分だということなのかもしれないし,事実,そうなのである。