ずっと心配だったのは,ミュージカルが終わった後のことであった。
今晩泊まるブルックリンにあるホテル「レッドカーペットイン」にはレンタカーで到着して,ひとまずチェックインこそしたものの,チェックイン後,ホテルからレンタカーでジョン・F・ケネディ国際空港に行って,そこでレンタカーを返却してしまった。車という手段を失った私のこのあとの計画では,そのまま,空港からヤンキースタジアムのあるブロンクスへ地下鉄で行き,その次に地下鉄でブロードワイへ行ってミュージカルを見て,ミュージカルが終わった深夜に,ブロードウェイから地下鉄でホテルまで戻るというものであった。
しかし,深夜に地下鉄で戻ることにいまひとつ自信がなかった。
何せ,安価なことと地下鉄の駅の隣にあるということだけを理由に,高価なマンハッタンをさけて予約した不案内なブルックリンのホテルであった。帰国した今でこそ,ホテルがどこにあってどのように行けばいいのかよくわかるが,旅行中は,ホテルがブルックリンのどこにあるかさえ明確でなかったし,そこが治安のよいところかどうかも知らなかった。
一応,出発する前に,インターネットから地図を印刷し,地下鉄の最寄の駅も調べてあったが,やはり土地勘がないので不安であった。しかも,ホテルのあったところは,想像とは違って,けっこうやばそうなところであった。
値段が高くても、マンハッタンのホテルを予約しておけばよかったのにと後悔した。
もしも深夜に道に迷ってしまったら「大変なこと」だけでは済まないのであった。
車は車で別の心配があるが、車という移動手段を持たないというのは、別の慎重さが必要なのだった。そこで,MLBを見たあと,ミュージカルの開演には,まだ3時間もあったので,ホテルへ行っても1時間くらいで往復できるだろうから,バカらしい気もしたが,深夜に帰る練習として,一度,ホテルに行って経路を確認してみようと思った。そして,再び戻ってきて食事をすれば,ミュージカルの開演にちょうどよい時間になるように思えた。
この決断が,大変な事態に遭遇することになってしまったのだったが,また,深夜に無事にホテルに戻ることにもつながった。
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事前に調べてあったことは,私の予約したホテルは,地下鉄の「ホージーストリート」(Halsay St.)駅の隣ということであった。
今では,グーグルアースで,およそ世界中の街並みを写真で見ることができるし,ストリートビューを使えば,特にアメリカの都会は,まるで,そこを歩いているかのように,ものすごく鮮明な写真でみることができるようになったので,レッドカーペットインの建物も,その横にある地下鉄の入口もどうなっているかは知っていた。しかし,それだけではわからない「何か」があるのだった。
だから、旅をするのがおもしろい,ということも言えるのだけれど…。
地下鉄の「ホージーストリート」駅は,私が調べた限り,地下鉄「Jライン」の駅であった。マンハッタンからイーストリバーを地上の橋で越えて,ブルックリンを東に7駅である。この,「Halsey St」も,地図に書いてあっても,読み方がわからなかった。
外国の地名は読み方がわからない。だから,道を聞くのも大変なのである。
イーストリバーを越える地下鉄の路線はいろいろあるが,川底をトンネルで走るものと地上の橋で越えるものがある。きっと,それは建設された時代によるのであろう。