地下鉄の路線図を見ると,6番街の下を南に走りセカンドアベニューあたりで東にまわってブルックリンに至る地下鉄のB,D,F,Mラインに乗って,イーストリバーの直前の駅エセックスストリート駅でJラインに乗り換えれは,容易にホージーストリート駅へ行くことができるようであった。
私は,このときまで,まさか,ニューヨークの地下鉄が,時間によって,乗り場が変わったり,あるいは,電車が運休停止になるなどということが日常茶飯事であるとは,夢にも思わなかった。また,同じ路線でも,駅によっては停まる電車と停まらない電車があることも知らなかった。さらに運が悪かったのは,今日が週末だということだった。ウィークデイなら,ほぼ通常に運行されているが,運休になるのは週末が多い。
そういえば,地下鉄のホームには,やたらとたくさんサービス変更の掲示があった。でも,まさかねえ,こんなことだとは知らなかったので,その掲示を読みもしなかった。
残念ながら,私は,これから起きたことを,正確に記することができない。
これを書きながら,そして,写してきた写真を探しながら,思い出そうとしているのだが,どうしても,記憶がひとつの線にならない。それに,ほとんど写真もない。きっと,かなり動揺していたらしい。そこで,なんとか思い出しながら書いていくことにする。
まず起きた事は,それがどこの駅であったのかは明確でない(おそらくは42ストリートブライアントパーク駅だろう)のだが,乗り換えようとした地下鉄のホームに行く途中で,ホームから駅員らしき男が,このホームには,もう電車は来ない,と言いながら,手を振って我々に向かって歩いてきたことだった。
私を含む乗客は,何が起きたか一瞬わからなかったのだが,そのホームに行っても仕方がないということだけはなんとか理解して,同じ方向に向かう別の地下鉄のラインのホームへ向かった。
それまでは走っていたのだから,この時間以降は,運休になったということであった。
私がはじめに乗ろうとした地下鉄が何であったのかは思い出せないが,私の写してきた写真に地下鉄Fラインの車内のものがあるので,私はここで予定を変更してFラインに乗ったらしいのである。
そして,Jラインに乗り換えるために,イーストリバー駅で下車した。イーストリバー駅でホームを移動して,少し待って,Jラインが来たので,これに乗り込んだ。
あとは,Jラインのホージーストリート駅で降りるだけであった。
Jラインは,イーストリバーを越える前に,地上に出た。地下鉄は高架になった。鉄骨がむき出しの,古い路線であった。
それはそれでいいのだが,私の向かうホテルに隣接したホージーストリート駅は,地上の駅ではない。ホテルに隣接した駅は,おぼろげな記憶によると,確かに地下にあった。一瞬,何かがおかしいなあとは思った。だが,私はこの地下鉄だと確信していたので,それほど疑問には思わなかった。ただし,イーストリバー駅からは,J,Z,Mラインが同じ方向に向かい,Mラインだけが途中で方向を変えるから,Mラインに乗り間違えなければいいと思っていた。実際は,ZラインはJラインと同じ路線を走るのだが,ホージーストリート駅は通過するから乗ってはいけない。私はそのことも知らなかった。
イーストリバー駅を過ぎて,ウィリアムズバーグブリッジでイーストリバーを越え,そのあとも地下鉄は高架のままさらに4つの駅を過ぎた。
その次のマートルアベニュー駅に着く前に,何やらの車内放送があって,サービスがなんとか言っていたが聞き逃した。ほかの乗客もなにやら戸惑っていた。やがて駅に着くと,多くの乗客が,やむを得ないという感じで下車していった。
私の目的地ホージーストリート駅まであと3駅であったので,私は,何か様子がおかしいとは感じたが,そのままその電車に乗っていた。
電車が駅を出ると,なんと,電車は大きく左にカーブして,間違えて乗ってはいけないと注意していたMラインの路線に向きを変えてしまった。私には,何が何だかわからなかった。そして,パニックになった。
やがて,電車はJラインではなくMラインの次の駅セントラルアベニューに到着した。このまま乗っていたらどこに行ってしまうか不安になったので,その駅で下車した。同じようにパニックになった乗客数人が同じように電車から降りた。私と同じ扉から降りた中国系らしきおばさんにどうなっているのか聞いたら,どうやら,Jラインはセントラルアベニュー駅から先が運行休止なので,地下鉄は別のMラインの路線を走って迂回をするので,Jラインの駅に行きたければ,1駅前の,多くの乗客が降りたマートルアベニュー駅から出る代替輸送のバスに乗り替える必要がある。だから,ここから1駅戻るのだと言った。
私は,ブルックリンなんてはじめて来たんだし,ホテルは駅の隣にあるから地図なんていらないと思っていたので,調べる手段もなく,わけがわならなくなった。それに,ニューヨークで,代替輸送のバスに乗るなんて,夢にも思っていなかった。おばさんはものすごく無愛想で,なにか怒っているような雰囲気だったので,怖くてちょっと離れていたけど,ものすごく無愛想な顔で「私についてきな」と言った。私がお礼をいうと「お礼などがらじゃない」と言って,さらにこわい顔で遠慮した。でも,こわいのは見かけだけで,実はとても親切なおばさんだった。