セントラルアベニュー駅で少し待ったら逆向きの電車が来たので,とにかくそれに乗って,マートルアベニュー駅まで戻った。
ホームをから階段で地上に降りると,そこは,東京のどこかの下町のようなところであった。もう,私には,何が何だかわからなかったけれども,ともかく,ホージーストリート駅まで行けばいいわけだから,何とかなると言い聞かせた。
駅を出ると,地下鉄の係員がいて,あわただしく代替バスの案内をしていた。
なにか日本みたいだ,と妙におかしかった。
だんだんとミュージカルの開演時間が迫ってきたことだし,別に,今ここで代替バスに乗ってホテルに戻らなくても,ブロードウェイに引き返してミュージカルを見ればいいとも思ったが,あのものすごく無愛想なおばさんがバスにのんな,とにらんでいるし,気の小さい私は,もうどうにでもなれと,バスに乗ることにした。
それにしても,このあとミュージカルを見てから,深夜にここに戻って,今のように代替バスでホテルに戻るなどという恐ろしいことは不可能に思えた。第一,深夜に代替バスなんであるんかいな? だから,このあとミュージカルを見に行くにしてもここで一度予行演習をしなくてはいけないと思った。
それに,予約したホテルには2泊するので,その翌日もマンハッタンの夜景ツアーのあとで,この代替バスでホテルに戻って来なくてはならないのだ。私は,安価なだけの理由で,こんなところにホテルを予約したことをつくづく後悔した。
ホテルが地下鉄の駅の隣だから便利だと思って決めたのに,地下鉄が走っていないなんて,これでは詐欺ではないか。
私はこの時点で,今晩ミュージカルを見ることはあきらめた。
いくらこれまでアメリカでいろんなことを経験したといっても,今回のトラブルは,絶望的だった。
バスの運転手に,「ハーセル行くか」と聞いたが,発音が悪いみたいで,なかなか通じなかった。わたしはずっと「ハーセル」だと思っていたが,「ハーセル」でなくて,「ホージー」と発音するのであった。
命まではとられないだろう,最悪の場合はここからタクシーに乗ればいいではないか,ともうどうにでもなれと腹をくくり,バスに乗り込んで,座っていたが,バスは次の電車が来るのを待っているようで,なかなか発車しなかった。時間はどんどん過ぎていくし,3時間も余裕があると思っていたが,もう,すでに1時間以上過ぎてしまっていた。
やがて,次の電車の乗客も乗りこんでバスが出発したのだが,今度は,道が大渋滞で,バスがなかなか前に進めなかった。もう,いい加減にしてくれ,と思った。
そのうち,どうにかバスが動き出したのだが,はじめは地下鉄の高架下を走っていたので,わからないなりにも,ホージーストリートの駅は見つかると思っていたのに,バスは渋滞する高架下の道から進路を変えて,訳のわからないところを走りはじめた。
必死に運転手の言うことを聞いていたら,しばらくして,どうやら,「ホージーストリート」と言ったらしい。
私は,戸惑いながらもそこでバスを降りた。降りるときに,無愛想な女性が,向こう向こうと言って,指を指した。それは,「ホージーストリート」は降りた場所から1ブロック後ろの道だということを言っていたということを後で知ったのだった。
バスを降りた途端に,私は頭が白くなった。周りを見回しても,ホテルらしきものはどこにもなかったし,警官もいないし,タクシーもなかった。ここがどこなのか,全くわからなかった。道の名前すらわからなかったし,たとえわかったとしても,その道がどこへつながっているか見当もつかなかった。
後で知ったことだが,実は,私が代替バスを降りた地下鉄Jラインの「ホージーストリート」駅はホテルに隣接する「ホージーストリート」駅とは違うものだった。この時は,そんなこととは全く知らなかった。だから,もし,代替バスでなく,そのまま地下鉄が走っていて「ホージーストリート」駅で降りることができたとしても,降りた時点で,同じようにパニックになったのである。
これから書くこともまた,帰国後にわかったことだが,地下鉄のJラインの高架が通っている道は「ブロードウェイ」という名前の道で,代替バスの走っていた道はその一本北を平行に走るブッシュウィックストリートであった。私の降りたところがエルダートストリートとブッシュウィックストリートの角で,1ブロック後ろへブッシュウィックストリートを戻ると,そこがホージーストリートであった。
私は,この時点では,地下鉄の駅に行けばホテルがあると思っていたのだが,そこへ行くにはどの方向を目指せばいいかがわからなかった。まわりを見回したら,美容院があったので,道を聞こうと店の中に入って,ホテル場所の地名を書いた紙を見せて,道を尋ねた。
店員どうしがスペイン語で何やら話して,まず,ホージーストリートは1ブロックこの店の後ろだと言った。そして,目指すホテルにはバスで行くといい,と言った。
しかし,私は,ここでまたバスに乗ることにしても,バスがいつ来るかもわからず,だから何時に着くかもわからないなあと思った。それに,ホテルはそこからそれほど遠いところだとも思っていなかったので,歩いていく,と言ったら,ホージーストリートを北の方へ向かって行けと言われた。
私は,代替バスが地下鉄の線路から北のほうに進路を変えたので,ホテルはてっきり南の方にあると思っていたので,間違ったことを教えてくれたのではないかととまどったが,素直に指示に従って北に行くことにした。
・・
言われたとおり歩いていくと,どんどんと,下町の住宅街に入っていった。道を通行止めにしてお祭りをやっていたりした。そのあたり,セサミストリートにでてくるような,ニューヨークの下町だった。英語以外の言葉が飛び交っていた。
ここは怖い所なのか,そうでもないのかさえ,さっぱりわからなかった。そして,ゆけどもゆけども,ホテルの場所がどこかなど,皆目見当がつかなかった。
今にして思えば,パトカーの1台も見かけなかったわけだから,案外と治安のよいところだったのかもしれない。が,そのときは,足が震えていた。まだ,明るかったので,なんとかなるわい,と思ってはいたものの,そして,確かに歩いていた道はホージーストリートだったので方向はともかくこの道を歩いている限り何とかなるとは思っていたものの,英語が通じそうにない場所でもあり,自分が自分でないような,でも,いつもこういう事態になっても最後には何とかなっているし,みたいな不思議な楽観気分でいた。
・・
帰国してからグーグルのストレートビューで見てみると,その場所は,たしかに素敵なところじゃあないか。映画やらテレビドラマに出てくるニューヨークの下町これぞブルックリン! そのものじゃあないか,と思った。だから,この場所がどこなのかとてもよくわかった今となっては,今度ニューヨークへ行ったときは,ぜひ,またここを訪れてのんびりと歩いて見たいなあと思っているのだった。
だから旅はやめられない。
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土曜日の朝7時からNHKBS1で「ワールドWAVEモーニング」という番組をやっています。というか,3月29日がその番組の最終回でした。その番組の中に「@NYC」というコーナーがあったのですが,これがすばらしいコーナーでした。土曜日の早朝,コーヒーを飲みながら気分はニューヨーク,なんて素敵でしょう。ということで,このコーナーで昨日取り上げられた内容について紹介しましょう。
6月はトニー賞。それに関連して,ブロードウェイの新作の話題でした。
今年の新作は「アラジン」(Araddin)。作曲は「美女と野獣」のアラン・メンケンさん。「マジソン郡の橋」(The bridges of Madison County)。これは素晴らしい! 私の大好きな小説&映画のミュージカル化です。そして,「ロッキー」(Rocky)。シルベスター・スタローンが自らプロデュースです。リバイバル作品の中では「ラ・ミゼラブル」(Les Miserable)。6年ぶりの復活です。
今年もトニー賞が楽しみです。
このブログで書いているように,ニューヨークは距離の違いだけで,東京へ行くのと変わりません。レンタカーを借りる必要もありません。また,ふらっと行ってみたいなあ,と思ったことでした。
なお,この「ワールドWAVEモーニング」の後番組「キャッチ!世界の視点」でも「@NYC」は継続するそうなので楽しみです。やっぱ,アメリカはいいわ。