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 私は,30分以上,ホージーストリートを北,だと思っていたが,実際は北東に向かって歩いただろうか,やがて,ホージーストリートは突き当りになって,そこで終わりになった。すると,右手に,見慣れたホテルがあった。
 ずっと不安ではあったが,ホテルのある地名と同じ名前のストリートを歩いているのだから,何とかなるとは思っていたが,それにしても遠かった。そして,ホテルに隣接して,見覚えある地下鉄の駅の入口がちゃんとあった。
 なんだか,キツネにつままれたようであった。
 何と,地下鉄はJラインではなくて,Lラインではないか! まさか,同じ名前の別の駅があるなどという,日本ではありえないことになっているなんて夢にも思わなかった。

 ここで事態は好転した。
 この時点で,ミュージカルの開始まであと1時間もなかったが,これならなんとか間に合いそうな気がした。
 そして,ミュージカルが終わっても,こういうことなら何の問題もなく戻ってこられることもわかった。このホテルに2泊しても何ら問題がないこともわかった。
 私は,ホテルの場所さえ確認できればそれでよいわけだから,すぐにここから地下鉄に乗ってブロードウェイに引き返すことにした。
 私の気ままな旅は,いつもこんな感じになる。

 ホテルに隣接した「ホージーストリート」駅の入口を降りると,そこは,マンハッタンとは反対側行きのホームにしか行くことができなかった。マンハッタン方向は,一度地上に出て,道を横断した向こうの入口から降りなければならないのであった。
 ボストンでもそうであったが,日本とは違って,地下鉄の上りと下りに地下での連絡通路がない。
 一旦地上に出て,道路を横断して,道の向こうの入口を探した。
 反対側の入口は,商業店舗の横に隠れるようにあったので,その場所を見つけるのに少し苦労したが,ちょうど道を横断するときに一緒になった若者が地下鉄を利用するようで,地下鉄の入口に向かって歩いていくので入口を見つけることができた。
 階段を降りていくと,まるで30年前にもどったような鉄格子に囲まれた改札口に出た。
 改札を入ると,「ホージーストリート」という表示がくすんだ壁に書かれた,広告もない暗いホームに出た。
 ホームで待っていると,これまでの人の苦労も知らず,何事もなかったかのように,地下鉄がホームに入ってきた。
 これなら何の問題もなく深夜に戻ってこられると,ほっとしたと同時に,どっと力が抜けた。
 何か,これまでに起こったことがすべて夢のようだった。とともに,今回もまた,何とかなったのだった。
 ケネディ空港からマンハッタンに行く地下鉄Eラインは最新式のきれいなものであったが,この地下鉄Lラインは外見は変わらないが,古びていた。でも,間違えて乗ったJラインはもっと古びていた。
 けれど,古きよきニューヨークの香りがした。
 わずかこれだけの経験であったけれど,ブルックリンというところがどういったところか少しずつわかってきた。それは,はじめて東京に来て,渋谷駅から地下鉄銀座線に乗って,浅草駅で降りるような感じ,とでもいえばわかっていただけようか。

 これも後で知ったことだが,私は地下鉄Jラインが「マートレストリート」駅で迂回してMラインの路線に曲がってしまったので,あわてて次の駅で降りて引き返したのだったが,次の駅で降りずに,そのままあと2駅乗っていれば,Lラインの「マートレストリート」駅(ここも同じ名前だ)に到着して,そこでLラインに乗り換えることができて,ホテル横の「ホージーストリート」駅は,その次の駅だったのだった。
 こんなわけで,私は,道に迷ったことで,ブルックリンについて,非常に詳しくなった。
 こういうことは,行く前にどれだけ調べてもわからない。まさに百聞は一見にしかずなのである。
  ・・
 結局,私は,このようなことがあって,ブルックリンがマンハッタンよりも好きになった。
 くすんだニューヨーク。ビリージョエルの「ピアノマン」の歌がきこえるような,そんなニューヨークはいいなあ。