公開されたばかりの映画「ネブラスカ -ふたつの心をつなぐ旅-」(Nebraska)を見ました。
かつて,「ストレイト・ストーリー」という,老いをテーマにしたロード・ムービーがありましたが,この映画もそれに勝るとも劣らない素敵な映画でした。
私は,アメリカ合衆国50州制覇の夢があるのですが,まだ,ネブラスカ州には行ったことがありません。この映画を見た理由は,アメリカ映画の中で一番魅力的だと思っている「ロード・ムービー」だということと,そして,ネブラスカ州をテーマにしているということ,そうしたきわめて単純ものでしたが,見終わった後の満足感は,予想をはるかに超えるものでした。
映画の冒頭は,年老いた主人公が住んでいるモンタナ州ビリングスです。そして,私にとって因縁のインターステイツ90,そして,ワイオミング州を通って,サウスダコタ州マウントラッシュモア,そこから,大平原続くネブラスカ州… と映像が続くとあっては,これ以上のわくわく感はありませんでした。この映画は,そうしてはじまりました。
ネブラスカ州には行ったことはないけれども,2012年に行ったノースダコタ州よりもさらに田舎(に見えた)ということにも驚きました。確かに,ネブラスカ州のもっとも有名なものはトーネードです。
なお,この映画で出てきたネブラスカ州ホーソーンは実在せず,ノーフォークのプレインビュー(Plainview, Norfolk)で撮影されました。
年老いた主人公ウディ・グラントは,100万ドルの賞金が当たったいう古典的なインチキを信じて,その賞金を受け取りにネブラスカ州の州都リンカーンまで歩いて行こうとします。それを留められず,仕方なく付き合うことになった息子との,その道中で起こるきわめて人間的な様々な出会いと醜さ,そして,やさしさが,この映画の内容です。
実は,ウディは,かつて戦争に傷つき、その結果酒びたりになった過去があるのです。そうした過去を持つ男たちが、今日の社会を支えてきたことは日本も同じです。それは,単に,老人の頑固と醜さでは片付けられない一面なのです。
主人公ウディとたえず憎まれ口をたたく口うるさい妻ケイト・グラントは,私の両親に瓜二つでした。そして,また,私にも,ロス・グラントのような弟(映画では兄ですが)がいます。だから,私は,その息子のデイビッド・グラントに同化して,この映画を見ました。
-物語の最後に待つ、人生最高の当たりくじをあなたにも- とは,この映画の宣伝文句ですけれども,私は,人生に当たりくじなどない,だけど,当たりくじなど必要ないと気づきました。
沢木耕太郎さんは,朝日新聞の「銀の街から」で,「老いるとは,たぶん,自由に『移動』する手段と方法を徐々に失っていくことに他ならないのだ」と書いていますが,私は,老いに抵抗するのではなく,素直に受け入れて生きていこうと改めて決意することができたのでした。
この映画も,また,「人生には救いがない」ということを,再確認するものではあったけれども,なぜか,見終わった時に,心が温かくなりました。きっと,この老人のささやかな誇りを成就させてあげることができた息子さんの心に触れることができたからなのでしょう。
見る前は,この映画がどういった結末を迎えるのだろうかと心配しましたが,いい意味で予想を裏切りました。ただし,ネブラスカ州のもつ色彩自体がモノクロだから,あえて,この映画を全編モノクロにする必要などなかったのになあ,と残念に思いました。蛇足ですが。
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ネブラスカ州にはまだ行ったことがないので,写真がありません。きょうの写真は,マウントラシュモアとサウスダコタ州のインターステイツ90とノースダコタ州のカントリーロードです。