友人は,自分で,今日の予定を立てていたのにもかかわらず,どこへ行きたいかと聞いた。
私は,サンアントニオは,リバーウォークとアラモの砦くらいしか見どころは知らなかったので,まず,アラモの砦に行きたいと言った。なにせ,もう,10時過ぎであった。しかも,泊まっていたホテルの目の先でもあり,これまでにいくらでも行く機会があったのに,それを果たせないでいた。
友人は,そんなところはつまらないから,今日の予定の一番最後でいい,と主張した。
はじめて京都に旅行して,ともかく金閣寺(鹿苑寺金閣)に行きたいというのを,そんなところはつまらない,と言って,外国人にマイナーなお寺めぐりをすすめるようなものであった。しかも,昨日のことを考えると,きょう,一番最後でいいといったアラモの砦は,戻ってきたときにはすでに閉館時間を過ぎてしまっているのではないか,と思えた。
午前10時過ぎに出発するのであれば,この日の朝,自分ひとりで,朝一番に,アラモの砦など見学できたではないか。なにせ,ホテルから歩いて5分とかからない場所なのである。しかも,私は,友人に,そんなに忙しければ,自分ひとりで観光するから無理しなくていい,とまで連絡したのだが,それを彼女は無視した。
本当に,私は,サンアントニオに何をしにきたのであろうか,と思った。
しかし,この日友人が案内したところは,とてもすばらしいところであった。しかも,私ひとりでは,絶対に行くことができないところであった。それは,ほとんどの日本人には全くといっていいほど知名度のない名所であった。当然,私もこの日まで全く知らなかった。
サンアントニオの南部には,有名な古いミッションが四つ現存し,国立公園となっているのであった。
友人が行くと主張したのは,その場所であった。そこは,観光地化したアラモの砦なんかよりもずっとすばらいい所だと言った。そこが本当にすばらしいところだということをそのときは知らなかった私は,そこはかなり遠そうなところであったし,あまり気乗りがしなかった。しかし,まあ,どうでもよくなりつつあった私は,アメリカ人に自己主張をしても,日ごろの訓練ができていない日本人が勝てるわけもないと認め,友人の言いなりになることにした。
友人は,いつものように,iPhoneで行く場所を検索して,行き先を見つけたiPhoneの指示に従って,車を出発させた。
車は,目的地を目指して,サンアントニオの町中を走っていった。
ところが,ある交差点に差し掛かった時,友人は,突然,うしろのパトカー(といっても,ランドクルーザーのような車であった)に停車を命じられたと言って,車を道路わきに停めた。
私は,そのとき,いったい何が起こったのか,さっぱり理解ができなかった。
車線変更禁止の場所で車線変更でもしたのかいな,と思った。
しばらく,車の中でじっとしていると,後ろの車から,腕に入れ墨をした若いポリスが現れて,友人に,免許証となんらかの書類(車検証のようなものだろうか)の提示を求めた。提示すると,それを持って,ポリスはパトカーに戻り,また,しばらく待っていると,ポリスが戻ってきた。
私は,何を話しかけていいかもわからず,写真をとることもできず,動くとろくなことが起こらないだろうと緊張して,助手席に座っていた。