私は,20代のころ,マーラーの交響曲が大好きでした。
 実際には,曲が長いということ以外には,あまり共通点はないのですが,当時はブルックナーとマーラーは対比させて語られていました。私も,こうした対比に影響されて,ブルックナーとマーラーをこよなく愛聴していたのですが,ブルックナーの墨絵のような落着き,自然の風の音に比べて,マーラーの交響曲の色彩的な音色に少しうんざりしてしばらく聴かなくなりました。
 R・シュトラウスもそうですが,私は,オーケストラが鳴り響く音楽というのがどうも苦手です。
 歳をかさね,今は,R・シュトラウスの「最後の4つの歌」と共に,マーラーの交響曲は,第4番,「大地の歌」そして,第9番に魅力を感じます。これらの音楽には,東洋的な無常観と厭世観、そして,別離という共通点があります。

 マーラーの最高傑作といわれる交響曲「大地の歌」は,2003年11月7日に行われたNHK交響楽団第1499回定期公演の演奏が印象に残っています。このときの指揮者は広上淳一さんで,私は,ライブで聴いて感動した思い出があります。
 彼は,この演奏を最後に,しばらく,マーラーから遠ざかっていました。
 2014年5月28日のNHK交響楽団第1783回定期公演,とうとう,広上淳一さんは第4番の演奏で再びマーラーに帰ってきました。この交響曲は,歌詞に「少年の魔法の角笛」を用いていることから、同様の歌詞を持つ交響曲第2番、交響曲第3番とともに、「角笛三部作」としても語られます。また、「大いなる喜びへの賛歌」という標題でよばれることもあります。

 マーラーの交響曲の中で最も親しみやすいものであると思いますが,曲全体に横たわる不気味さが,また,この曲の魅力でもあります。
 私は,このコンサートをFMのライブ中継で聴いたのですが,メリハリの利いた,そして,聴かせどころをしっかりと押さえた演奏に引き込まれました。そして,第4楽章でうたうソプラノのローザ・フェオラさんが,また,絶品でした。
 曲の最後はテンポをゆるめて,詩の原題である「天国にはバイオリンがいっぱい」という天上の音楽の描写となって静かに消えていくのですが,「天上的」とは考えにくい重苦しいハープの爪弾きとコントラバスの最低音だけが残るのです。
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 天国のバイオリンとは,実は,死神のバイオリンではないのか
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 これは,機関誌「フィルハーモニー」に村井翔さんが書かれていたことばです。
 この日の観客は,この曲の最後に幻惑されてしまったのか,曲が終わってもしばらくの間,心地のよい沈黙が続き,やがて,惜しみない拍手がいつまでも続くのでした。
 やはり,こうした曲の最後は,こうでなければいけません。この沈黙が,この日の演奏の価値をさらに高めたのでした。

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