私は京都に住んでいませんが,これまで,毎月のように京都に足を運んでは,さまざまな名所・旧跡を訪ね歩きました。ガイドブックに載っているところで行ったことのないところはありませんし,それとともに,多くの体験をしました。近ごろは,そんな熱も冷めてしまって,時折,桜の季節,五山の送り火,そして,秋の紅葉の便りに誘われては,訪れるだけになってしまいました。
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 いつも,このブログで書いているように,旅は,人が非日常という世界に浸ることで,その目的を果たします。そして,旅先での様々な体験や出会いが,人生の宝物になります。
 そんなわけで,私にとっての京都の旅は,単なる観光旅行ではなく,もっと,その地に根づいた何かを得ることのできる,そんなものであればいいなあ,と考えているのですが,いわば,そんな「DEEPな京都」を魅力的に描いた,すてきな本に巡り合いました。
 それは,「京都の平熱」(講談社学術文庫)という本です。著者である鷲田清一さんは,京都大学文学部出身で大阪大学の名誉教授です。
 この本の内容は,京都市バスの201系統,この路線は,京都駅を出発して,七条通を東に,そして,東大路道を北に,さらに,北大路道を西に,そして,千本堂を南に,最後に,再び七条通りを京都駅にもどるという,京都市の外周をくるりと1周するのですが,この路線に沿って,寺社・仏閣,地元の食堂,そして,京都人の暮らしぶりを,深い洞察力で綴ったものです。
 書かれてあることには,著者の深い知識に裏づけられたしっかりとした思想があるので,それが,この本でしか味わえない優れた魅力になっています。

 私がこの本で初めて知ったことは,まず,京都のラーメン文化でした。つまり,京都は,元祖ラーメン王国なのだというくだりでした。さらに,銭湯は京都の隠れた文化だということですし,島津製作所の技術が日本のマネキンを作ったという話に至っては,まさに,その地に住んでいたとしても,誰しも知っているようなことではありません。学問の神様の北野天満宮は知っていても,松原道にある安井神社が縁切りの神様などということは,ガイドブックを片手に旅をしていては絶対にわかりません。
 おまけに,蓮華谷の三奇人,吉田の三奇人,下賀茂の三奇人,古門前の三奇人などなどの奇人伝説やら,「着倒れ」として京都の公立学校には制服なかった,だとか,おうどん,おねぎなど「お」をつける文化,ひいては,「本当の旬は盛りのあとにくる」を読んでみて,私のこころは,すっかり京都の虜になってしまったわけです。

 京都弁には「こおと」という言葉があるそうです。「あんさん,きょうのお召もん,こおとどすなあ」などと言われてしまったら,もう,この地に根を下ろしていなければ,絶対にわからない,しかし,根を下ろしてしまったとしたら,今度は,恐ろしくて暮らせないなあ,などと思ってしまうわけです。
 私は,この本を読んで,すっかり,自分の中で冬眠をしていた京都熱が復活してしまいました。
 そんなわけで,これをきっかけに,私も,201系統に乗って,DEEPな京都旅行を開始してしまう決心をしたのです。

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きょうの写真の「夢」は,高台寺で写したものですが,「夢」にちなんだ話も,この本に紹介されています。
また,旅館「紫」は,京都花見小路にあります。もとはお茶屋さんだったところで,ここに泊まると,外から,舞妓さんのおこぼの音が聞こえてきて,とても素敵です。

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