私は就職してからずっと,56歳で早期退職をするつもりで計画的に生きてきたのだけれど,上司のパワハラで,思いがけなく51歳で退職をしてしまいました。その後は,セミリタイヤを決め込んで,好きなことをして生きてきました。その結果,これまでに書いたように,私は,自由に生きるのには,贅沢をする必要などなくて,精神的に満ち足りることが一番大切だと思うようになりました。
 私が時々行く海外旅行を贅沢だという人がいますけれど,そういう人に限って,実際は,私が海外旅行をするお金の何十倍ものお金をつぎ込んで外車を買っていたり,多額の住宅ローンを抱えていたりするのです。価値観や生き方は人それぞれですが,時間やお金の使い方もまた同じことなのです。他人と比べる必要はありません。自分は散財しておいて人を羨むのはお金の使い方が間違っているのでしょう。

 NHK総合で放送している「55歳からのハローライフ」というドラマは,村上龍さんの書いた本をもとにした5編の作品です。私は,原作は読んだことがないので,このドラマの出来不出来とかいうことでなくて,ドラマに描かれた人たちについて,私が思う感想というか評価を,生意気にも書いてみたいと思います。所詮,物語だから,現実以上に典型的な人物像が描かれているわけで,早期退職者の先輩である私にはこういうことを書く資格が少しはありそうだしね。
 第1話の主人公は,58歳で早期退職をしてキャンピングカーで自由に旅をするという生き方を家族に反対されて,もう一度再就職を目指す,という人の話でした。
 番組のホームページには,次のようにあらすじが書かれています。
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 58歳で早期退職した富裕太郎(リリー・フランキー)は「キャンピングカーを買って旅に出る」という老後の計画を妻(戸田恵子)から拒否されます。
 既に手付金だけは支払っていたので,富裕の時間も宙ぶらりんに。仕方なく再就職先を探すことにしますが,現実は想像以上に厳しい。若いキャリアカウンセラーから無能さを指摘され,相談に行った取引先の社長からも相手にされず,次第に心身のバランスを崩していき...。
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 この物語を見て,皆さんはどう思いましたか。私は,ドラマで描かれていたこの主人公の贅沢な暮らし向きから考えて,主人公の行動は矛盾していると思いました。
 一言でいうと,まったく共感できない。
 もし,早期退職をして,そういった生き方をしたいのなら,それまでの生活をもっと質素にして計画的に生きればよかったのです。ここに描かれている主人公は,仕事人間が退職間近になって,これまでの自分の人生がこれでよかったかと改めて考えてしまう,とか,これまで顧みなかった家庭や妻なのに,勝手に自分の将来の夢を押しつけてしまう,とかいう,つまり典型的な日本の仕事人間の不器用な生き方そのものです。
 若い人たちにもその予備軍はいっぱいいます。
 ゴルフに趣味のコーヒー,それに,贅沢なマイホームを手に入れるための住宅ローン,それに子供の結婚資金の心配。そんなことは,早期退職をして,自由に生きようとする人のすることではないのです。これまでそんな人並み(以上の)の生活をおくっておいて,さらに早期退職をして自分の夢を実現しようなんていうのは,虫が良すぎますし,考えが甘すぎます。
 それに,一旦は辞めておいて,家族に自分の夢を反対されたからといって,また,再就職をめざすなんて,全くやっていることが矛盾しています。実際,この主人公,仕事一筋に生きてきたっていっても,何の能力もないじゃない。組織の中では,自分の地位を自分の力と勘違いしてやたらと威張っているくせに家庭で居場所のない人,たくさんいます。
 アメリカには,リタイヤ後はキャンピングカーでアメリカ中を夫婦でまわっている人を多く見かけるけれど,それば,国が広いこと,見どころがたくさんあること,キャンピングカーを停めて1泊する場所が整備されていること,などがきちんとしているからです。そんなことも知らないで,狭い日本でキャンピングカーを買ってどうするの? と私は思います。そういうこと自体,この主人公は何もわかっていないわけなのです。いわば,世間知らずです。
 この物語では,そういうことすべてを,このキャンピングカーが象徴しているわけです。

 せっかく退職してもまだ仕事に未練がある,というのも,私のまわりにもたくさんいる,定年退職してもすることもなく,いつまでも再任用にこだわる仕事人間の不器用な生き方そのものです。まわりからは,煙たがられていたり,迷惑がられていたりするのに,それを気づいていないのは本人だけ…。私も街に出たとき,せっかく退職したのに,また満員電車に乗って第2の職場に向かう知人にばったり偶然会うことがよくあるのですが,そういうとき,この人仕事以外にすることないんだろうか? と憐れんでしまいます。
 この物語の冒頭に出てくる,主人公の友人の,退職後はカナダに移住するという夢もまた,文字通り夢物語です。
 カナダへ行く,なんていうことは,別に移住などしなくても行きたいときに行くだけのことです。第一,子供のいるところに身を寄せるなんて,子供が迷惑… 旅慣れた人なら,そう考えます。旅なんていうのは慣れている人には簡単にできることで,敷居が低いのです。だから,こういう夢は,ツアー旅行しかできない,自分では簡単に旅ひとつできない人が考えることなのです。
 旅にあこがれたり,新しい生活にあこがれても,なにも移住まですることはないのです。旅は非日常であるから旅なのであって,住んでしまえば,どこでも同じ。それに老後は,病気をしたときのこととかを考えると,所詮,日本人は日本人。そういうリスクを冒してまで移住までする必要もない。私はそう思います。
 この主人公たちの生き方というのは,所詮,私のまわりにいる,私と同じくらいの年齢の,これまでざんざん贅沢を楽しんで来たり,無計画に生きてきたり,職場で上司面していたりしたくせに,本当は生きるのが下手で,仕事を辞めたり旅に出たりする勇気すらない,そのくせ,私の生き方を羨んでいるような人たちと同じなのです。
 きっと世の中にはそんな人が多いんだろうなあ,って,このドラマを見て,私は改めて思いました。58歳にもなって,なさけないことです。

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