技術革新は必要で,それがないと人間の進歩もないわけですが,その速度が速すぎると,その進歩を追いかけているだけで,本当に何が便利なのかわからなくなってしまいます。パソコンや,カメラなども進歩が早くて,日々新しい情報を追いかけていないと,すぐに置いてきぼりにされてしまいます。
 しかし,こうした進歩に接していると,それらを追いかけていった方が有益なものと,どうでもよいものがあることがわかります。たとえば,デジタルカメラは,毎年,どんどんと新しい機種が発売されて,雑誌の記事やさまざまなブログを賑わせています。それらは宣伝だから,やれ「買い」だのと,誠にかまびすしいのですが,使いこなせるようになる前に,また,新たな機種が出るのでは,それを追いかけていても消化不良になってしまうだけです。
 これでは,やたらとたくさんの問題集に手を出して,しかし,何も身につかない出来の悪い学生の勉強法と同じです。
 私は,カタログや雑誌の記事から知識を得て,結局はそうした宣伝にまんまと乗せられていた愚かな昔を思い出し,しかし,実際に自分で写真を撮るようになってみて,そんな知識はほとんど空言であることをがわかって,そう思うするようになりました。

 私がずっと使っている望遠鏡は,今から30年近く前に30万円ほど出して買ったものですが,今もそれをもちだしては,月に数度,少し遠出して星の写真を撮りに出かけるのを楽しみにしています。
 そうした古い望遠鏡を本当に使い込んでみると,それは,自分の思っている以上にずいぶんと工夫して作られているんだなあと実感します。器械はしゃべらないのでわからないのですが,もし,口があれば,器械たちは,本当はもっと主張したいことがたくさんあるように思うのです。
 それなのに,使う方がそれを十分に認識していないので,きっと生れもった性能のそのほとんどが活用されることもなくそのうちに捨てられて,くやしがっているのではないかと思うようになりました。

 プロならともかく,所詮は趣味で楽しんでいるのだから,最新技術などを追いかける必要もないのかもしれません。絶えず新しい技術を追いかけることが楽しみな人もいるでしょうから,それは人それぞれですが,私は,限られたお金で人生を楽しみたい,そして,やりたいことが一杯あるのだから,そうしたたえず新しいものを追い求めてお金を使うよりも,新しいものに比べればずいぶんと性能の劣るところもあるだろうけれど,長年連れ添った自分の器機を大切に使ってやることのほうがいいなあと,思うようになりました。
 他人の持っているものと比べる必要もないし,自分の持っているものでささやかに楽しむことこそが一興なのです。

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