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●「輝ける未来」の現実●
 ウドバーハジーセンターの展示は私には非常に興味深いところだったので,もうしばらく続けます。
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 子供のころに夢中になったことはその後もずっと影響を与えるもので,そうした記憶は歳をとっても消え去るものではない。
 私が子供のころは,鉄腕アトムの時代で,現在実用化された科学技術の黎明期だった。だれもが輝ける未来を信じていた。そのワクワク感は今とは絶世のものがあるが,こうした憧れがその後の興味に役に立っているのである。興味もないのにむりやりドリルをやらせても何も上達しない。

 そのころに読んだ雑誌とか本を今手にすると,書いてある内容がとてもよく理解できるので,さらに興味が増す。そして,そのころに憧れた宇宙ロケットをはじめとするやさまざまな機材の,まさにその「ホンモノ」がここにあるのだから,私の気分は最高であった。
 そうした「モノ」のおこぼれは日本の博物館や科学館にも少しは展示されているのだが,その多くは模型だったり,たとえホンモノがあってもきわめて規模が小さかったりするから,やはり,アメリカに足を運ばなければ,この喜びは味わえるのもではない。
 今日は,そのなかでも,私が特に興味深かった宇宙開発に関するいくつかものを紹介したい。

 まず1番目の写真は,1926年にゴダードが実験した人類初の液体燃料ロケットのレプリカである。
 ロバート・ハッチングズ・ゴダード(Robert Hutchings Goddard)は「ロケットの父」と呼ばれる。彼自身の非社交的な性格もあって,生前に業績が評価されることはなかったという。 
 このロケットの打ち上げはマサチューセッツ州オーバーンで行われたが,その歴史的な出来事について彼は「液体推薬を使用するロケットの最初の飛行は昨日エフィーおばさんの農場で行われた」と書いた。
 「ネル」と名付けられたこのロケットは2.5秒間に41フィート上昇したが,それは液体燃料推進の可能性を実証した重要な実験だった。しかし,彼の研究は時代を先取りしすぎていたためにマッドサイエンティスト扱いされ,しばしば嘲笑の対象になった。
 ニューヨーク・タイムズ紙は,物質が存在しない真空中ではロケットが飛行できないことなど「誰でも知っている」とし,ゴダードは「高校で習う知識すら持っていないようだ」と酷評した。
 人類の歴史はこうしたことの繰り返しである。

 2番目は「マーズパスワインダー」の模型である。「マーズパスファインダー」 (Mars Pathfinder) はNASAが行った火星探査計画とその探査機群の総称である。マーズパスファインダー探査機は火星地表に着陸する探査車(マーズローバー)を中心とし,ローバーを火星まで送り届けるための宇宙機,ローバーを着陸させるためのエアバッグを装備した着陸機,それらを保護するエントリーカプセルからなる。
 1996年12月に地球を発ち,1997年7月に火星に着陸し,1万6,000枚の写真と大量の大気や岩石のデータを送信してきた。 

 そして,最後は「タイタンⅠ」ロケットのエンジン部分である。「タイタンⅠ」 (TitanI)はアメリカ合衆国が開発した初の多段式大陸間弾道ミサイル (ICBM)で,アメリカ空軍で運用され,後に衛星打ち上げ用のタイタンロケットシリーズに発展した。
 このグレン・L・マーティン(のちのにマーティン社)によって生産されたタイタンⅠは液体燃料ロケットエンジンを用いた2段式ミサイルであり,これを発展させたタイタンⅡ(TitanII)ももともとは大陸間弾道ミサイルだが,私には,このタイタンⅡを利用したジェミニ宇宙船のほうに非常に印象が深いのである。

 ここは有名な博物館だから,個人旅行で来るには不便とはいえワシントンDCから距離的に近いからツアーバスなら簡単に来ることもできるので,世界中の多くの観光客が来ていた。彼らは,ワーッと現れて,スペースシャトル「ディスカバリー」のまえで写真を撮って,そのまま帰っていく。私が昨年の秋に行ったニュージーランドのテカポ湖で星空を見にきていたツアー客もまた,せっかくの満天の星空を見ても,その素晴らしさのほとんどを味わうこともなく単に満天の星をめずらしそうに見るだけであった。
 目の前にある素晴らしいものの素晴らしさがわかるようになるには,子どものころの原体験が必要なのであろう。そういった意味でも,若いころは,ドリル学習でお金を浪費する暇などないのである。