●宇宙を飛んだカメラ●
アメリカの有人宇宙計画は多くのカメラで記録された。
アポロ計画で使用されたのは,スウェーデンの「ハッセルブラッド」(Hasselblad)製だった。「ハッセルブラッド」がNASAや宇宙飛行士に好まれたのは,比較的簡単に操作できたことと,カートリッジ式のフィルムが使われていて撮影途中に光の状況が変わったときでも簡単にフィルムを交換できたことによる。
アポロ計画ではNASAの依頼で「500EL」の改良版が開発された。この「ハッセルブラッド・エレクトリック・データ・カメラ(EDC)」は,宇宙空間での利用に特化したレンズとガラスプレートを備えたものである。宇宙飛行士たちは,この「ハッセルブラッドEDC」をアポロ8号の月周回ミッションの段階から使い始め,1969年の人類初の月面着陸の時には,ニール・アームストロング船長とバズ・オルドリン飛行士がそれぞれひとつずつこのカメラを手にしていた。
撮影したフィルムだけが地球に持ち帰られたために,現在,月面には月に降りた宇宙飛行士がそれぞれもっていった12台の「ハッセルブラッドEDC」が残されている。
その後,アメリカの有人宇宙計画では,日本の「ニコン」製のカメラが使用された。1971年,アポロ15号ではNASA特別仕様の「ニコン Photomic FTN」が使用された。1980年に「ニコンF3」をベースとしたモータードライブ付き「F3スモールカメラ」と長尺フィルム用「F3ビッグカメラ」を納入し,翌年打ち上げられたスペースシャトル・コロンビアに搭載された。さらに1991年には「ニコンF4」と「ニコンF4S」を納入した。
デジタルカメラ時代に移行してもニコンが使われる。2008年に「ニコンD2XS」を納入,2009年には国際宇宙ステーション内の記録撮影用として「ニコンD3S」11台と交換レンズ「AF-S NIKKOR 14-24mm f2.8G ED」7本が納入され,2010年に打ち上げられたスペースシャトル・ディスカバリーによって宇宙に運ばれた。
また,現在,国際宇宙ステーションには「ニコンD3S」1台,「ニコンD2XS」8台,「NIKKOR」レンズ36本,スピードライト「SB-800」7台 などが常備されているという。
一方で,宇宙飛行士スコット・ケリーや,イタリア初の女性宇宙飛行士サマンサ・クリストフォレッティなどの乗組員たちは,国際宇宙ステーションのあちこちに設置されたキヤノンの動画撮影用カメラで,オーロラなど地球上の美しい光景を窓越しから捉えている。こうした撮影に備えて,宇宙飛行士たちは,汚れや傷のない映像を撮影するために,ひとつの窓の内側パネルも取り換えたのだという。
この動画の撮影過程で,カメラは地球を7,000回以上周回し,最終的にその距離はおよそ3億420万kmにも及んだ。
このように,宇宙開発で使われている映像機器は,ハッセルブラッドからニコンへ,そしてキヤノンへと,一般に我々が使っているものと同じように変化していることが興味深い。
しかも,こうしたカメラは,初期のころは一般に使われているものを改造していたが,現在は市販のものと同じものが搭載されるようになっていて,機器の性能が向上していることが伺いしれる。
ウドバーハジーセンターには,こうしたカメラもまた,展示されていたから,私は興味深く見ることができた。