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 私の購読しているアメリカの天文雑誌「SKY & TELESCOPE」(電子版)の6月号に「7 Earth-Size Planets Orbit Dim Star.」という記事がありました。そしてまた,先日のNHKEテレの番組「サイエンスZERO」でもこの話題が取り上げらていました。
 記事にある「Dim Star」とは「赤色矮星」のことです。「矮星」というのは小さい星ということですが「赤色矮星」のほかにも「白色矮星」や「褐色矮星」というものがあるので間違いやすいのです。「白色矮星」(white dwarf)とは主系列星(main sequence star =恒星の一生において壮年期にあたる星)ではなく恒星の終末期にとりうる形態のひとつです。一方「褐色矮星」(brown dwarf)は、質量が木星のような惑星よりは大きく「赤色矮星」よりは小さな天体で,質量が小さすぎるために恒星になることができなかったものです。それに対して「赤色矮星」(red dwarf)は、太陽のような主系列星だけれども特に小さい恒星を指します。恒星は大きいほど寿命が短いので,太陽は100億年程度であるのに対して赤色矮星は数百億年以上と考えられています。

 もともとは,太陽系外に地球のような惑星を探すときに,太陽のような大きさの恒星のまわりをまわる惑星系を対象としていました。赤色矮星のまわりをまわる惑星系を探すという発想自体がなかったのです。それが,今回,やはり赤色矮星のまわりをまわる約4光年先の「プロキシマ・ケンタウリb」同様,約40光年先,みずがめ座(1番目の写真のなかの「+」の場所)にある「トラピスト1」という18.8等星の「赤色矮星」のまわりに7つの岩石でできた惑星が公転しているということがわかったのです。7つの惑星は,内側から b,c, d, e, f,g と呼ばれていて,大きさは地球くらいのサイズで岩石でできていると思われるのです。
 惑星に生命が存在する可能性のある恒星のまわりの領域を「ハビタブルゾーン」というのですが,太陽系では地球と火星がその領域にあります。今回発見された7つの惑星のうちでは e,f,g がそうです。
 「トラピスト」(TRAPPIST)とは「Transiting Planets and Planetesimals Small Telescope–South」という望遠鏡の頭文字からとったものです。「トラピスト」は,ベルギーのリエージュ大学とスイスのジュネーブ天文台が合同で南米チリにあるラ・シーヤ天文台(La Silla Observatory)に設置した彗星や太陽系外惑星の調査を目的とするリモートコントロールの望遠鏡です。函館に「トラピスト修道院」という施設がありますが,この「トラピスト」という呼び名は,フランス起源のカトリック修道会である「トラピスト会」へのオマージュでもあります。

 この「トラピスト1」をまわる惑星の発見は,地球と同じような大きさの岩石惑星がはじめて,それも同時に7つも発見されて,生命体の存在を確認できるかもしれないということで大きな話題となっているのです。
 しかし,私がずっと最も疑問に思っていて,しかも,ほどんど誰も指摘していないことがあります。
 このことを書く前に,地球上の生命について考えてみます。
 地球が誕生したのは45億6,700万年前といわれています。そして,はじめての「生命」である「マンガンカルシウムクラスター」が誕生したのが38億年前で,「シアノバクテリア」の発生は27億年前のできごとです。はじめて多細胞生命の誕生したのが6億3.000年前で,先カンブリア時代が始まったのが5億2,000万年前です。恐竜が2億年前から地球上に君臨して,6,600万年前に小惑星の衝突で絶滅しました。地球は誕生以来これだけの歴史のなかで何度かの全球凍結と生命の大絶滅期を経験しました。こうしたのち,人類の先祖が1億年前あたりに発生し,500万年前ごろに二足歩行を開始しました。原人はわずか60万年前,クロマニヨン人に至っては20万年前です。人類文化の発生などわずか5,000年前,地球の歴史の 1,000,000分の1 のできごとなのです。
 傲慢な人類のことだから,未来永劫人類は生き続けると思っていますが,実は,人類の歴史など恐竜の繁栄した期間とも比べものにならないほど短く,有史以来相も変わらず戦ごっこに精をだしているので,核戦争でまもなく自滅し放射能汚染で生命の存在できない惑星にしてしまうか,あるいは,そうでなくとも小惑星が衝突して,近々,といっても数千年から数万年後でしょうが,恐竜のようにあっという間に絶滅してしまうことでしょう。
 そう考えると,地球上に知的生命が存在している期間どころか,多細胞生物よりも高等な生命が存在している期間など,地球の寿命のうちのほんのわずかの間に過ぎないわけです。だから,もし,太陽系外に知的生命がいて,地球を観察していたとしても,その地球に高等な生命が存在しているほんのわずかな期間に遭遇することのほうがまれであると考えれらます。
 このように,太陽系外に生命がいたとして -おそらくいるでしょうが- 「シアノバクテリア」程度の生命の存在が確認できる可能性はあるでしょうが,その天体に知的生命の存在する期間に,同じように地球上のわずかの期間生息している知的生命である人類が偶然それを観察できることのほうが奇跡であるのではないか,と私は思うわけです。知的生命がずっと存在しているわけではないからです。
 地球外生命の発見といっても,そうした指摘がほとんどされないことを,私はいつも不思議に思うのです。もし,ある天体に,かつて知的生命が生存しそれが滅んだ残骸が見つかれば,傲慢な人類の未来への警鐘となることでしょう。

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地球は6回目の絶滅期に突入か?-生命の起源が面白い①
人類の生存期間はたかだかそれだけ-生命の起源が面白い②
小惑星衝突が人類の繁栄を作った-生命の起源が面白い③
映画「アバター」-「プロキシマ・ケンタウリb」に生命が?