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 日本から見ることができる星空についてはすぐれたガイドブックがたくさんあります。なかでも今から40年ほど前に誠文堂新光社から出版された藤井旭さんの書いた「全天星雲星団ガイドブック」という本は今でもとても役に立ちます。しかし,この本は南半球から見ることのできる星空についても若干は取り上げられていますが,初版されたときは南天の部分はなく,後から付け足した改訂版なので,日本から見ることができる部分の記述に比べればやや不十分です。
 しかし,40年も前だというのに,そのころはすでに「103a」という名前の白黒ですが散光星雲が写せるフィルムがあったおかげで,現在,デジタルカメラと画像処理ソフトの発達で脚光を浴びている天体の記述がすでにたくさんあるので,内容が古くなく今でも使えるので助かります。それでも,現在は,その当時はほとんど知られていなかったような写真写りのよい天体がずいぶんと有名になり,私のような古い知識しか持ち合わせてない者には,こんな天体知らないぞ,聞いたことないぞ,というものが多くあります。

 このように,南天の星空には,もともと情報が不足していることに加えて,最近になって有名になった天体がたくさんあって,日本に帰ってきたあとではじめてそれを知って,改めて,写してきた写真にそれが写っているかを確かめてたり,落胆したり,そんなことを繰り返しています。
 双眼鏡で見ることができる天体や望遠鏡で拡大してみると見事なもの,あるいは,写真でしか写せないもの,それも,広角レンズのほうが美しく写るものや望遠レンズのほうがよいもの,といったような,きちんとした説明のある入門者用の南半球で見ることのできる天体の解説書があればいいのになあといつも思います。
 それにまた,このごろは,一般の人には手が出ないような高価な機材やテクニックを使って写したような写真集ばかりで,見ているには楽しいのですが,自分で写すには参考になりません。もう一度藤井旭さんに40年若返ってもらって,最新の情報を加えてこの本を新しく作ってもらえないものかと思います。

 さて,おおいぬ座の南,ほ座というところに「ガム星雲」というものがあります。
 先に書いた「全天星雲星団ガイドブック」にもすでに書かれている天体なのですが,この本の記述がほかの天体の説明にくらべて簡単すぎて,どこの場所をどのくらいの画角のレンズで写せばいいのかさえよくわかりません。おそらく,出版間際にその時の最新の情報として付け加えたのでしょう。
 「ガム星雲」(Gum Nebula or Gum 12)とは,おおいぬ座の南にあるほ座からとも座にかけて,なんと40度以上にも広がる超新星残骸です。この天体は太陽系からおよそ1,300光年に位置していて暗くて識別することが困難であって,かつ,日本からは地平線ぎりぎりまでしか昇らない散光星雲状の天体です。これは約100万年前に起こった超新星爆発の残骸が大きく拡散したもので,今も拡散していると考えられています。
 「ガム」という名は,この星雲を研究したオーストラリアの天文学者コリン・スタンリー・ガム(Colin Stanley Gum )にちなむのもで,キャンベラ郊外のストロムロ山天文台=下の写真(Mount Stromlo Observatory)の広域カメラを用いて観測を行って発見した天体を「A study of diffuse southern H-alpha nebulae」というカタログにして1955年に発行しました。今日「ガムカタログ」(Gum catalog)と呼ばれているこのカタログには南天の84個の輝線星雲を収録していて,ガム星雲はそのうちの12番のものです。
 なお,ストロムロ山天文台は,2003年1月18日の山火事によって5基の望遠鏡,作業場,建物が倒壊しました。現在は修復が進めれれています。

 今日の写真は,私がこの春に行ったハワイ・マウイ島のハレアカラで写したものですが,やはり,北半球のハワイでは南天の天体はいまひとつです。私は,はじめは南十字星が見られれば満足だったのですが,やはり,南半球に行かなければと思うようになりました。そして,それがかなった今は,この美しい南半球の星空のことをもっときちんと知りたいと思うようになってきました。

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