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私のきままかつ軟弱な中山道歩き。
今回は,いつもと違って宿場間の街道歩きではなく福島宿の散策だけですが,そのまえに,木曽にある天文台の紹介からはじめます。
私はこの先,中山道歩きを楽しむために,木曽谷にある宿場をどのように行こうか思案していました。それと同時に,日本でも星のきれいな場所がないものかとずっと考えていました。さらにもうひとつ,木曽にある天文台にまた行ってみたくなりました。
木曽には105センチシュミットカメラ望遠鏡がある東京大学の木曽観測所という天文台があって,望遠鏡をガラス越しに見ることができます。これまで2度ほどすでに見にいったことがあるのですが,それをまた見にいきたくなったのです。
そんなことを考えながらいろいろと調べていくうちに,木曽駒高原に1件のペンションを見つけました。どうやらそこは夜になると空には満天の星空が見られるようでした。
名古屋から木曽福島までは車で2時間半ほどで,1か月前に私が行ったオーストラリアのブリスベンから星を見るために宿泊した町バランディーンまでの所要時間とだいたい同じです。そこで,とりあえず行ってみて,条件がよけれはこれからは何度も出かけてみようかなと思い,予約をしてみました。
今回は途中で天文台に寄ってから,予約したペンションに行って宿泊,もし晴れたら星を見て,次の日に木曽の福島宿を歩いてみる,という計画でした。
出発したのは6月8日金曜日の午後1時でしたが,天文台の公開は午後5時までということだったので,この時間で十分に間に合います。
木曽観測所は長野県木曽郡の標高1,130メートルの山の上にあります。1970年に発行された「月刊天文ガイド」の別冊「日本の天文台」には木曽観測所は載っていません。それは,この天文台が作られたのが1974年だからです。それでもすでに44年になります。この施設を舞台としたドラマ「木曽オリオン」が2014年に放送されました。
この天文台は,東京天文台の5番目の観測所として開設され,1988年に東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センターの観測施設となりました。主力の望遠鏡は口径105センチのシュミットカメラ望遠鏡で日本光学(現在のニコン)が作ったものです。
シュミットカメラ望遠鏡(Schmidt telescope )というのは屈折・反射望遠鏡です。まず,4次関数で表される非球面の薄いレンズで光を屈折させて球面収差を除去したのちに球面鏡の主鏡で反射させて,収差がほとんどないシャープな像を結ばせるものです。明るく広い写野を得られ,かつ,中心部から周辺部までピントが合うという特徴をもっていますが,像面が凸球面になるので像を記録する焦点板を湾曲させなければならないことが欠点です。
世界にある口径が100センチメートルを超える大きなシュミットカメラ望遠鏡は,1960年に完成したドイツ・タウテンブルクのカール・シュヴァルツシルト天文台(Karl Schwarzschild Observatory )の口径134センチメートル,1949年完成のアメリカ・パロマー天文台の口径126センチメートル「サミュエル・オシン」望遠鏡(the Samuel Oschin telescope),1973年完成のオーストラリア・サイディング・スプリング天文台(Siding Spring Observatory)にある口径124センチメートルのUKシュミット式望遠鏡(UK Schmidt Telescope ),そして,1974年に完成した東京大学木曽観測所にある口径105センチメートルと4台しかありません。
木曽観測所のシュミットカメラ望遠鏡は,完成した当時は焦点板に甲板を設置して写真撮影をしていましたが,2018年現在は,超高視野(9度)のCMOS動画カメラとなっているそうです。9度といえば私の使っている視野の広い双眼鏡と同じです。
私はこの望遠鏡が大好きなのですが,実際のところ,現在ではかなり冷遇されているように感じてしまいます。大口径の望遠鏡がつくれないシュミットカメラは今では時代遅れなのでしょう。それにまた,星を見るのに適した場所がほどんどない日本にあって,木曽というのはまだマシな場所だと思うのですが,開設以来,この望遠鏡の他には30センチという今ではアマチュアの使っている望遠鏡ほどの小さな望遠鏡しかない,というのも不思議な気がします。今や,日本国内にはこうした施設を作る意味がないのでしょう。ただし,敷地には新しく名古屋大学宇宙地球環境研究所のパラボラアンテナが4基設置されていました。
久しぶりに行ってみて思ったのは,ドームも錆びが出てきて,ずいぶんと老朽化してしまったなあということでした。望遠鏡を見学するスペースも古びてしまっていて,訪問者も数日にひとりくらいのものでした。展示スペースもありましたが,訪問者が少ないので寂しそうでした。アメリカやオーストラリアに比べて,日本にあるこうした施設はどこも見学用の設備が非常にお粗末で,お金がないんだなあと実感しました。
外に出るとあいにく天気が悪くなって少し雨が降ってきたので,帰ることにしました。この私の大好きな望遠鏡がいつまでも活躍して学問の発達に貢献するのを祈って,天文台を後にしました。
☆ミミミ
星を見るのも大変だ-ドラマ「木曽オリオン」に捧ぐ