これまでずっと探していたのは,なるべく近場で過ごしやすい宿でした。
私は海外ではずいぶんと宿泊経験があるのに,日本ではあまり泊りがけの旅をしたことがありません。海外にはモーテルという気軽な宿泊施設がどこにでもあるのですが,日本の宿というのはやたら高級なホテルや「おもてなし」の好きな日本旅館,あるいはその逆に古く小汚い小さな旅館といったものばかりです。都会には便利なビジネスホテルがありますが,それでも駐車場が狭かったり一旦駐車すると途中で出入りが大変だったりして,案外と外出がままならない場合が多いものです。
さらに私が理想とするのは,ホテルの庭から満天の星空がみられるような,あるいは早朝になると小鳥の鳴き声が聞こえるような,そんな緑の美しいところです。私はそんなところに泊まって1日中音楽を聴きながら本を読んでいたり,気が向けばふらっと出かけてコーヒーでも飲んで帰ってきたりと,そんな過ごし方のできる宿を探しているのです。
昔,別荘を持っている人に招かれたことがありました。そのとき,別荘というのは何と不便で面倒なモノかということが身に染みました。
到着してまずしなくてはならないのが掃除であったり,冬場であれば水道が凍ってしまっていたりと,まるで別荘を維持管理するために出かけるようなものでした。今はそういったことを管理をしてくれるという別荘もあるようですが,それでも,別荘があれば休日はそこへしか行かなくなります。そんなめんどうなモノをもつお金があれば,そのお金で自由にいろんなところに行くほうがずっと理にかなっています。それは個人天文台を作っても同様で,一旦そんなモノをもつと,盗難が心配であったり維持が大変だったりと,決して楽しいものではありません。
要するに,モノというのはなるべくは所有しないほうがずっと幸せになれるのです。
そう考えると,私の理想とする宿を見つけるためには,まずはいろんなところに出かけてみて実際に宿泊してみて探すのが一番なのでしょう。目的は人それぞれなので,口コミ情報だけではわかりません。
今回泊まったペンションは昔スキー場があった山の中腹でしたが,スキー場はすでに閉鎖されてしまったので,あたりは寂れていました。このペンションに来る途中は別荘地でしたが,先に書いたように,別荘というのは結局は維持がたいへんなので,次第にその数が減っているそうです。
別荘の多くは大きな会社の保養所ですが,そもそも,お休みのときまで会社の保養所ですごすというのは,仕事を忘れたいのに会社にいるときと同じ人たちと顔を合わせるわけで,そんなものは楽しくないでしょう。また,なかには勘違いをして,そういう場でも仕事の話しか話題のない人もいるというのが日本という国です。そこで,会社の保養所のようのような社員福利厚生施設は時代遅れとなって,こうした保養所も減っているのです。
それにしても,この国はリゾートを作ってもどこも中途半端で,ハワイにあるような徹底的に豪華なリゾートでもなければ,自然保護を徹底して普段都会に住んでいては接することができない満天の星空が見られたり花が咲き魚が泳ぐといった自然と一体となったようなそんな場所でもなく,頭で考えただけの「便利さ」を追求してその場限りの予算を取って開発をして,その後の維持をしないものだから,その結果老朽化して潰れたマーケットがあったり,錆だらけの手すりに草ぼうぼうの散策道があったりと,とてもリゾート気分になれるような場所がありません。
私の泊まったところはそうした別荘地からは少し離れていたので人も少なく静かで落ち着いた場所でした。
あいにく天気が悪く,この晩は星は見られませんでしたが,晴れていたら日本でも比較的マシな星空が見られそうでした。ただし,周りは山が迫っていて視野が狭いのが難点でした。それを承知なら問題ないでしょう。
さらに,車で10分も行けは木曽福島町に行くことができるので,町を散策したり食事をしたりするにも便利な場所でした。
自宅からそれほど遠くないのに,遠くに来た気持ちになれるのも最高でした。
木曽路はJRの中央本線が長野まで走るので名古屋に住む人には身近な存在です。道路は国道19号線が木曽路の谷間を走っています。
中央自動車道ができたとき,そのルートが中津川市を過ぎると恵那山トンネルを通って伊那谷に行ってしまうように作られた結果,木曽谷は寂れていきましたが,逆にその結果,今になって昔からの中山道の雰囲気が残ったのが幸いでした。
少し以前は,国道19号線が中津川を過ぎたあたりで慢性的に大渋滞をしてなかなな抜けられず,これが木曽谷にいくのを敬遠する理由になっていました。今もけっこう混んでいるので,さらに改良する余地があると思うのですが,それでもバイパスができて2車線になったので,以前ほどは渋滞しないのも救いです。
私はこれを機会に,これからは木曽谷に出かけてみようと思ったことでした。