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ワールンバングル国立公園の入口,とはいってもゲートがあるわけではないのですが,そこに進む道路を走っていくと,サイディングスプリング天文台の大きな案内板のある三叉路に出会います。その三叉路を案内標示に従って右折すると,やがて少し険しい山道になって,それがサイデンスプリング天文台に向かう道路です。
進んでいくと,この先,天文台のゲートがあるわけではなく,直接,一般見学用の駐車場まで行くことができます。このように,いろんな面でオーストラリアというのはゆるい国です。
サイデンスプリング天文台は昨年の3月にも来ましたが,こんな不便な場所にまさか1年後に再び来るとは思いませんでした。

私の手元に「天体写真NOW No.1」という本があります。この本は1978年(昭和53年)に発行されたものですから今からかれこれ40年も前のものですが,この本にサイデンスプリング天文台の主砲3.9メートルアングロサクソン望遠鏡が特集として載っています。この望遠鏡は1973年に完成したものです。馬蹄形の赤道儀架台は日本の三菱電機が作りました。また,大きな反射鏡を作ったのは岡山にある188センチメートルを作ったのと同じイギリスのグラブパーキンソン社です。その当時,南半球には大きな天体望遠鏡がありませんでした。オーストラリアは電波望遠鏡の分野で華々しい成果をあげていたので,新しく作られた光学望遠鏡の分野でも大いに期待されたものです。
この望遠鏡は今も現役です。ただし,現在,南半球の天体望遠鏡の多くは南アメリカのアンデス山脈に続々と設置されて大活躍をしていて,オーストラリアの影が薄いのはどうしてなのでしょう。いろんな事情があるのでしょうが,アメリカやヨーロッパからなら南アメリカは遠くないのですが,日本からだと南アメリカよりもオーストラリアのほうがずっと近いので,こうした場所に日本の天文台が作られててもよさそうに思います。ハワイは北半球なので,南半球に天文台を作るのも必要です。しかし,アンデス山脈は遠いし,オーストラリアなら天候も悪くなく,条件がよさそうに思うのですが……。標高が低いこと,そして,シドニーから車で5時間もかかるという点がネックなのでしょうか?

前回来たときは,開館している時間だったのにもかかわらず,なぜかビジターセンターが閉館していました。しかも何も表示がなく,閉館していた事情がさっぱりわかりませんでした。今回はちゃんと開館していたので,ビジターセンターにある展示を見ることができました。ここにはレストランもあるのですが,お昼には早かったので,残念ながら利用する機会はありませんでした。
展示を見てから,望遠鏡のドームに行きました。これは昨年も見たものです。階段とエレベータがあって,5階まで登ると見学ブースがあって,ガラス窓越しに巨大な望遠鏡を見ることができます。この望遠鏡は,現在世界中で作られているデジタル新時代の望遠鏡とは設計が本質的に異なっていて,古いのは否めません。
日々発展する科学技術は,巨額な費用を使ってこうした機器を作っても,技術の進化が早すぎてそれが十分に活躍できるのはわずか数十年にすぎません。なかなか大変な時代です。

おもしろいのは,こうした,山の中にあってしかも都会から決して近く施設なのに,けっこう多くの見学者が訪れていることです。日本では,わずか2~3時間で行くことができるこうした天文台のような施設でも,ほとんど見学者もいないし,ビジターセンターにも大した展示がない,ましてや,レストランどころか喫茶コーナーすらないことです。
このことは何も天文台に限りません。海外から有名な絵画が来たときだけ異常に混雑する美術館や,観光バスで大挙して訪れる正倉院展などには,日ごろは絵画や歴史にほとんど興味がないような人が押しかける反面,地方にある常設の博物館や美術館にはほとんど人がいません。日本人というのは,もともと知的好奇心がないのでしょう。そして自分というものがないものだから,宣伝に踊らされると大挙して同じ行動をとるのです。これが人と比べることと点数をとるだけが目的の,本当の文化を育んでいない教育の成果なのかもしれません。

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