発売されたばかりの新潮新書「フィンランドの教育はなぜ世界一なのか」を読みました。
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人口約550万人,小国ながらもPISA(15歳児童の学習到達度国際比較)で多分野において一位を獲得,近年は幸福度も世界一となったフィンランド。その教育を我が子に受けさせてみたら,入学式も,運動会も,テストも,制服も,部活も,偏差値もなかった。小学校から大学まで無償,シンプルで合理的な制度,人生観を育む独特の授業… AI時代に対応した理想的な教育の姿を示す。
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というのが,この本の紹介です。
さらに,この本の「はじめに」から引用してみましょう。
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フィンランドの教育が目指すものは,子どもひとりひとりが自分を発展させ,自分らしく成長していくことである。それは,知識を習得したり,学力を高めたり,偏差値を上げたりすることではない。いかに学ぶかを学ぶこと,創造的,批判的思考を身につけ,自分自身の考えを持つこと,アクティブで良識ある市民として成長することである。
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私は,昨年の2月,はじめてフィンランドに行くまで,フィンランドには興味がありませんでしたが,一度行ってみて,フィンランドが「世界一幸せな国」であることを知って驚くとともに,大好きになりました。どうやら,そうした人は私だけではないようで,フィンランド大好きという人がまわりにも一杯います。そして,私もその後,フィンランドについていろいろ調べていくうちに,この国は本当にそんなに素晴らしいのだろうか,それは事実なのだろうかと思うことをたくさん見聞きし,知りました。そうしたときに書店で見つけたのがこの本です。この本を読んでみて,私が見聞きしたことが現実だということがわかりました。
どんな国にも長所があれは短所もあります。いいことばかりではありません。それは当然です。この本には,そうしたフィンランドに存在する問題点についてもきちんと書いてあるのがまた,よいのです。
フィンランドという国について知らない人こそ,この国がどんな国なのか,そして,この本にはどんなことが書かれているか,実際に本を読んでみてください。おそらく,フィンランドが夢のようなすばらしい国だということがわかることでしょう。あるいはこんなことを知ってしまうと,日本に住んでいてこれまで培ってきた価値観や人生観が吹っ飛んでしまうかもしれません。そもそも日本語もフィンランド語も英語とはかけ離れた言語なのに,成人のほとんどが英語の話せるフィンランド人とそれができない日本人を考えるだけでどちらの教育が優れているかは明白でしょう。
この本に書かれているのは,日本やフィンランドの教育の現実だけではないのです。この本では,それぞれの国の教育制度から見えてくる,人が生きるということはどういうことなのか,人というのは国にとってどういう存在なのかという,もっと本質的なことが問われているのです。このように,この本が問いかけているのはとても奥深いものです。そして,読み進むうちに,そうした「哲学」を日本の教育では全く学んでいないことを知るのです。
そんなフィンランドですが,私ははじめて行って以来,何度か行く機会がありましたし,これからも出かけます。フィンランドに行ってみると,このすばらしい国から何かが学べないかと多くの日本人が留学をしたり研究に訪れているのに出会います。しかし,彼らがそこからいったい何を学んでくるのか? 今日,日本で行われている改革とやらは,大学の入試改革をはじめとして,残念ながら,フィンランドとは真逆なことばかりです。
私も日本に生まれたから,この国の保護を受けているし,この国が嫌いなわけはありません。だからこそ,将来を憂い,何とかならないものかと思っています。しかし,何度も外国に出かけ,外から日本をみる機会が増えてくると,日本では,政治も,教育も,産業も,インフラも,そうした何もかもが急激にボロボロになって劣化していく様を痛いほど感じます。今や,この,何をやってもうまくいかず,より事態が悪化していく様子に接するにつけ,パロディを見ているような,悪い夢を見ているような,そんな気がするようになりました。そして,あきらめとともに,何が起きても「またやっちまったか」というような出来事ばかりで,まるで喜劇を見ているかようにおかしくてしかたがなくなりました。
しかし,そんな危機的な実態であることすら認識しておらず,今も30年も前の価値観で生きていて,相も変わらず精神論を唱え,日本社会に対する批判的な意見を聞くと耳を塞ぎなかったことにし,さらにはそれを小ばかにするような主張をして得意がっている人たちさえものすごく多いことにもまた驚き,同時にに失望感を味わいます。
フィンランドと対比したとき,今日の日本社会があまりに劣化していることを危惧するとともに,この国が今まさに滅びゆく姿でないことを心から祈ります。
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知らなかった国①-隣国に翻弄されてきたフィンランド