以前,東京大学木曽観測所のシュミット望遠鏡について書いたこのブログに,
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最も口径の大きなシュミット望遠鏡は1960年,ドイツのカール・シュヴァルツシルト天文台(Karl Schwarzschild Observatory )に作られた口径134センチメートルのものでしたが,現在は使われていません。
その次に大きいのが,1949年アメリカのパロマ天文台に作られ,現在「サミュエル・オシン望遠鏡」(The Samuel Oschin telescope)とよばれている口径126センチメートルのものです。現在は写真乾板をCCDに変えて,準惑星の発見などに活躍しています。
そして,3番目がオーストラリアのサディングスプリング天文台にある口径124センチメートルの「UKシュミット式望遠鏡」(UK Schmidt Telescope)で,その次が,この木曽観測所にある口径105センチメートルのシュミット望遠鏡です。
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と書きましたので,今回はパロマ天文台のシュミット望遠鏡について書きます。
この6月に念願かなって訪れたパロマ天文台には,1948年に完成した口径200インチ(5.08メートル)の反射望遠鏡のほかに,同じく1948年に完成した「サミュエル・オシン望遠鏡」があります。
天体観測の方法が変わって使いみちがなくなっていたこのシュミット望遠鏡の広い視野を使って,数多くの太陽系外縁天体(TNO)を発見したのが,マイケル・ブラウン博士(Michael E. Brown)でした。
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「サミュエル・オシン望遠鏡」は「オシン・シュミット」ともよばれています。このシュミット望遠鏡の名前は起業家で慈善家であったサミュエル・オシン(Samuel Oschin)にちなみます。サミュエル・オシンは,1914年,オハイオ州デイトンでユダヤ人の家庭に生まれました。10歳のときから彼は煙突の清掃作業という仕事をはじめました。その後,デトロイトの「ブリッグス・マニュファクチャリング」に就職し,第二次世界大戦中にアメリカ陸軍と空軍に飛行機の部品を供給する大規模な契約を獲得しました。そして,戦後は帰還兵からの需要の増加をサポートするために工場を家具の製造に変換しました。さらに,1946年にロサンゼルスに移住しエアコン事業をはじめ,その次には,住宅需要を見て不動産開発と建設会社を開始しましした。その後,カリフォルニア州パコイマで貯蓄ローン協会を購入し、州全体で27の支店に成長させました。
こうして,製造業,銀行業,投資業,不動産開発と立て続けにビジネスを成功させたしたサミュエル・オシンは財団を設立し,天文学,医学,教育,芸術など多くの分野で慈善活動を行いました。彼のパロマー天文台への寛大な寄付によって,このシュミット望遠鏡は彼の名前がつけられたのです。
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いつも思うのですが,アメリカは,カーネギーにしろ,ローウェルにしろ,人生で成功を収めた人がすることは日本のそれとはまったく違います。
「サミュエル・オシン望遠鏡」は,1948年に造られた当初は,10インチ×14インチの写真乾板を使用していました。1980年代半ばには補正板を色収差の少ないガラスに置き換えられ、より高品質の画像が生成されるようになりました。
この望遠鏡が行っているプログラムのひとつに地球近傍小惑星追跡プログラム(Near-Earth Asteroid Tracking=NEAT)があります。これは,2001年秋からはじまった天の赤道付近の帯状領域のマッピング観測を行う「Palomar Quasar Equatorial Survey Team =QUEST Variability survey」(QUEST変光サーベイ)です。
この探索プロジェクトで使用するために,2000年以降,東京大学木曽観測所のシュミット望遠鏡同様,写真乾板はCCDカメラに置き換わり,同時に補正板もより広い範囲の波長に透明なガラスに交換されました。最初に搭載されたCCDカメラは3つの別々の4K×4Kセンサーを南北線に配置し,総視野は3.75平方度で,近地球小惑星を捜索(NEAT)する目的で使用されました。2003年から2007年にかけてクエーサーを観測するために,CCDを28個4列の112個で構成した2,400×600ピクセルの合計161メガピクセルのものに変更されましたが,それは当時画素数最大のCCDカメラでした。この新しいカメラで,2003年11月14日にセドナを発見,また,約40個のカイパーベルト天体を発見しました。
さらに,2009年には,カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡用に構築された12,288×8,192ピクセルの合計100メガピクセルのCCDカメラに変更されましたが,これは7.8平方度の視野しかありませした。そこで,2017年に,47平方度の視野をもつ16×6144×6160の合計606メガピクセルCCDカメラとなりました。
現在は,シュミット望遠鏡は完全に自動化され,リモートで制御されて,収集されたデータは高性能ワイヤレス研究教育ネットワークを介して送信されています。
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