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●夢にまで見た200インチ望遠鏡●
 宇宙の構造,宇宙の物質,星と宇宙の進化のなぞを解くことを目的とした口径200インチの反射望遠鏡を建設するため,1928年,ジョージ・エレリー・ヘールさんは600万ドルの寄付をロックフェラー財団に訴えた。建設場所として選ばれたのがパロマ山であった。
 しかし,直径200インチ反射鏡のガラス材をつくるには多くの困難があった。ニューヨークにあったコーニング・ガラス社で耐熱のパイレックスガラスの巨大な塊が何回もの失敗のあとでやっと鋳型に流し込まれたのが1934年の暮れであった。冷却炉の中で10か月もかかって焼きなましが終わった。
 ガラス材はパサディナのカリフォルニア工科大学の研磨工場に運ばれ,11年の歳月を費やして鏡は100万分の1センチメートル以下の誤差で磨かれた。こうして完成された反射鏡は,厚さが76センチメートルもあり,重さを減らすために裏側がハニカム構造になっていて,重さは約20トンに抑えられた。ガラスの表面は,たった30グラムのアルミニウムでメッキされた。
 望遠鏡の鏡筒は,長さ約18メートル,直径7メートル,重さ125トンで,300トン以上の支柱の中で油の入ったペアリングで鏡が支えられた。
 望遠鏡が完成したのは1948年であったが,ヘールさんは望遠鏡の完成を見ることもなく,1938年に亡くなった。

 この望遠鏡は現在も現役であるが,さすがに設計が古く,その維持が大変そうである。
 現在,1枚鏡の最大口径の望遠鏡は,ハワイ島マウナケア山頂にある日本のすばる望遠鏡であるが,現代の大望遠鏡のほどんとは,1枚の反射鏡ではなく六角形の多くの反射鏡を集めて大口径とし,それぞれの鏡が同じ場所に焦点を結ぶようにコンピュータで調整している。
 パロマ天文台の200インチ望遠鏡の1枚鏡は自重でたわまないように分厚いが,最新型のすばる望遠鏡は1枚鏡ではあるが非常に薄く,たわむことを逆に利用して,それをコンピュータで制御している。
 また,パロマ天文台の駆動装置は赤道儀式で,その欠点である天の北極あたりの視野が見られないという欠点を克服するために馬蹄形をしている。それに対して,スバル望遠鏡をはじめとして,現代の最新式の大望遠鏡は,大げさな赤道儀ではなく径儀台となっていて,コンピュータで制御し追尾を行っている。
 このように,パロマ天文台の200インチ望遠鏡は,コンピュータでの制御ができなかった時代のものなので,現代の大望遠鏡とは根本的に設計が異なっている。パロマ天文台の200インチ望遠鏡は,「1枚鏡の赤道儀」として最後の大望遠鏡である。

 見学ツアーは,まず,ドームの入口の前でこうした望遠鏡の歴史をレクチャーしてから,いよいよドームに入った。ドームの1階部分では反射鏡の再メッキができる工場があった。それらの装置の説明ののち,端にある階段を上って,ついに,望遠鏡のある2階に登ることができた。夢にまで見た望遠鏡との目の前での対面であった。
 ドームはものすごく巨大で,外観もピカピカ,今も現役の200インチ望遠鏡はしっかりと整備されていて,ドーム内もきちんと整理整頓がされていた。
 ツアーは私の期待をはるかに超えるものであった。私のような専門家でなく単に興味本位で見学に来た日本人に対しても質問すると十分に時間をとって丁寧に答えてもらえた。
 こうして私は,昨年のウィルソン山のふたつの歴史的な反射望遠鏡に続いて,この年は,フラグスタッフにあるローウェル天文台のふたつの歴史的な望遠鏡,そして,パロマ天文台の200インチ望遠鏡と,夢に見たアメリカの有名な望遠鏡たちを,それもすべて,ガラス越しでなく目の前で見て,さらには触れることができたのだった。

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 私はこの後日本に帰ってから木曽観測所のシュミット望遠鏡をこれもまたドームに入って目の前で見学する機会があった。そのときのことはすでにブログに書いた。木曽観測所のシュミット望遠鏡もまた設計は古いが,関係者のさまざまな努力で今も現役で使用されている。
 しかし,ドームの外観はさび,望遠鏡もテープで補修がしてあったりして痛々しかった。また,ドーム内はいかにも日本の研究施設然として,きちんと整理整頓がされておらず,使わなくなった機材なども無造作に置かれていた。また,パロマ天文台の200インチ望遠鏡のような再メッキ工場が1階部分にあるわけでもなく,ミラーを外して,外部にもっていかなけらばならないという話であった。
 私はこういうものを比較するたびに,本当に日本は学問や文化に金をかけない国だなあとつくづく情けなくなってくる。さらに,この4月には,日本の天文学に関する予算が減らされて,水沢観測所や野辺山観測所の研究が従来のように行えなくなったという話も聞いた。
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