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これほど精神的に「ヤワな」私が,よくも60年以上生きてこられたものだと,このごろつくづく思います。打たれ弱く,すぐに動揺し,嫌なことがあるとずっとそれを気にする,ガラスのような精神の私でも,なんとか,いわゆる世の中の「定年」といわれる歳まで無事に? 生きてきました。
人が生きるのに必要なのは,何はなくとも第一に健康ですが,その次が,精神的に強いということです。打たれ強く,嫌なことはすぐに忘れられる,という人を,本当にうらやましく思います。私のような,すぐに傷つき,立ち直れず,いつまでもそれを引きずっていては,もし,私に何かの才能があったとしても,何もモノになりません。才能がなかったからこそ,生き延びられたのでしょう。
そんなことを思うと,一芸に秀でた人は,本当に偉大だと,これまで以上に尊敬するようになりました。
その筆頭が勝負に生きる人たちです。スポーツ選手とか囲碁や将棋の棋士のように,毎日,勝ち負けのある人生なんて,私は想像するだけでぞっとします。ほんとうに感心します。私など,応援している人が負けただけで,本人以上に落ち込んでしまいます。
飽き性の私は,もし才能があったとしても,学者にも音楽家にもなれません。学者さんは,何かの研究に打ちこんでいても,それが趣味ならともかく,仕事としてなら途中で飽きちゃっても逃げ場もありません。音楽家も,毎日のように,それも,好きな曲目ばかりならともかくも,自分の好きでもない曲も演奏しなければならない,そして,難解な曲であってもできないといえないから,日々練習して演奏ができるようにしなければならない,なんていうことは,私には,これもまた,想像もつきません。
芸能人もまた,,毎回,人に見られ,評価されて生きるなんて,さぞかしストレスがたまることでしょう。どうしてそんな生き方ができるのだろうと友人と話していたら,「私を見て! 見て!」という性格だからできるんだよ,と言われたのですが,そんな性格をもつ人がいるなんて,私には想像もつきません。
しかし,よほど精神的に特別にタフな人を除けば,私ほどひどくなくても,やはり,だれしも,傷つくし落ち込むこともあるでしょう。そこで,それをいやすための手段というものがいろいろあるわけです。
アルコールに頼る人も少なくありません。飲んで飲んで忘れる,というような手段です。しかし,一番体に悪そうです。温泉につかる,というのも効果がありそうです。これは私にも経験があります。温泉が体の血行をよくして,元気になるのでしょうが,これは体にもよさそうです。
クラシック音楽もまた,効果があります。先日,Eテレで放送されたNHK交響楽団の演奏会で指揮者の井上道義さんが,こんなことを言っていました。「音楽は死にそうな病に直面している人には何の力もないけれど,人生の困難に直面している人には必ず力になる」と。おそらく,宗教もまた,人の精神の弱さを補填するためにあるのでしょう。それで救われる人もあれば,その逆に,弱い人をだますことを企てる人も存在するのが,人の世の常です。
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いずれにしても,精神というのは,形として見えないだけに,それを把握するのは困難ですが,人が生きる力の源は,精神の強さがもっとも大切なようです。私も,楽しく生活するために,いまさら精神の強さを磨くことはむりとしても,せめて,何があっても動じない鈍感さだけでも身につけていきたいものだと思います。