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 2016年,アメリカ合衆国50州制覇を遂げるまで,ほぼ,アメリカ以外には興味がなかった私は,その呪縛が解けて以来,まず目を向けたのが,南半球の星空とハワイでした。さらに,NHKEテレで放送された語学番組「旅するドイツ語」の舞台となったオーストリア・ウィーンを見て,急に行きたくなったヨーロッパでした。
 そこで,2017年から2019年にかけて,アメリカ本土に加えて,南半球のオーストラリアとニュージーランド,ヨーロッパのオーストリア,フィンランド,エストニア,そして,ハワイのマウイ島,モロカイ島など,何かにとりつかれたように,足を運びました。
 コロナ禍の今にして,この3年間で,私は,行きたいと思っていた海外の場所のそのほとんどに行くことができたのは,まさに,奇跡でした。
 それらの場所の多くは,また,行く機会があれば,ぜひ行ってみたいと思うところでしたが,その中でも,とりわけ奥が深い,魅力のある場所はオーストリアでした。

 旅行とともに,私が大好きなのは,クラシック音楽を聴くことです。モーツアルト,ベートーヴェンなどの古典派の作曲家はもちろんですが,私がよく接する曲は,ブルックナー,ブラームスなどの作曲家の作品です。以前,ブルックナーとマーラーが同じように語られたことがあって,私も,その影響で,マーラーの音楽を好んで聴いていたことがあるのですが,墨絵のようなブルックナーの音楽に比べて,色彩豊かなマーラーの音楽からは,しばらく遠ざかっていました。
 2018年にはじめてオーストリアのウィーンに出かけて,マーラーの住んだ家や,墓,また,マーラーが指揮者として活躍していたウィーン国立歌劇場などに訪れて以来,再び,マーラーに対する興味が戻りました。このころはまだ,クリムト,シーラなどの美術も知らなかったし,学生時代に世界史をほとんど習わなかった私は,ハプスブルグ家もわかりませんでした。それが,そうしたことに触れ,また,世紀末ウィーンという,それまでは言葉くらいしかしらなかったこの歴史を知るにつけ,この地の文化の奥深さに感動し,それとともに,マーラーの音楽が,そうした時代すべてを反映していることに驚くとともに,そのすばらしさを再発見したのです。

 そんな折に知ったのが,岩波現代文庫「マーラーと世紀末ウィーン」という本でした。
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 マーラーの作品の真の新しさやおもしろさは,世紀末ウィーンの文化史全体に目を広げてはじめて明らかになる。著者は同時代人クリムト,ワーグナー,フロイト,アドラーらの活動をも視野に入れ,彼らの夢と現実のありようを描きだす。また,現在,彼の音楽のどのような側面が注目され,それが現代文化のいかなる状況を表現しているのかを問う。
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という内容のこの本は,私が知りたかったことが網羅されたすばらしいものでした。
 この本はすでに絶版となっていますが,幸運にも私は,新古本を手に入れることができました。
 読んでいると,この時代の文化が私のこころの中に溶け込んでくるようで,本当に幸せになれます。ウィーンで,音楽だけでなく,多くの美術品なども見てきて本当によかったと思うし,マーラーの音楽の本当の意味もやっとわかりかけてきたように感じます。
 この本は,いつも持ち歩いていて,時間があれば,手に取ります。そうすることで,少しでも,この時代のかおりを味わうことができる気がするからです。

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