無題 (2)

 みつはしちかこさんの叙情まんが「小さな恋のものがたり」の第43集が出版されたとき,これが最後だという触れ込みだったので,
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 人はだれもが老いるのです。永遠はありません。だから,終わりがあるのです。
 そういう意味でも,第43集が発行されて,ちゃんとおしまいにすることができたことは,寂しくもあり,喜ばしいことでもあると思います。
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と,このブログに書いたものですが,その後,第44集が出版され,この度,さらに第45集が発売されました。

 「小さな恋のものがたり」は,みつはしちかこさんによる連続したストーリーのある4コマ漫画集で,背が低いことを気にしている女の子チッチ(小川チイコ)と背が高くハンサムなサリー(村上聡)の恋愛模様を描いた作品です。 
 1962年に当時あった雑誌「美しい十代」に連載が開始され,はじめて単行本としてまとめられて出版されたのが1967年というから,連載開始から58年,単行本の第1集の出版からはなんと53年になります。
 単行本は2007年の第41集までは毎年出版されていたのですが,そ以後中断し,4年後の2011年に42集が,その3年後の2014年に第43集が刊行されて,完結したはずだったのです。
 しかし,2018年に第44集が出版され,今回が第45集となります。
 第45集の紹介は次のとおりです。
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 サリーを想いながら過ごす“その後のチッチ"のものがたり。
 1962年に「美しい十代」で連載を開始して以来,ピュアな恋のストーリーと抒情的な描写で多くのファンを魅了し続けている「小さな恋のものがたり」。主人公の高校生チッチは,2014年発行の「小さな恋のものがたり第43集」で突然ボーイフレンドのサリーがスウェーデンに留学してしまい,恋にひとつの区切りをつけることになりました。
 第45集は,サリーを想いながら過ごすチッチの日常を四季折々の風景とともに描いた「その後のチッチ」の第2弾。親友のトンコなどクラスメイトたちとの心温まるエピソードのほか,マリちゃんのお兄ちゃんなど新キャラも。
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 いつも「閉店セール」をしている洋服屋さんのように,「小さな恋のものがたり」は,毎年刊行されていたころより,これでおわりだというようなあとがきがたびたび書かれてあったものですが,そんなことはお構いなしに延々と続き,第43集で「完全閉店セール」となったのにもかかわらず,それでもまだ続いています。
 私の手元には第1集から揃っているので,新刊が出たら揃えるしかないとばかり,この第45集もまた自然にすでに私の手元にあるのですけれど,まあ,今,この本を楽しみにしている人の多くはそんな人なのでしょう。若い人は,この作品の存在すら知らないかもしれません。
 しかし,これで終わりだろうと終わりでなかろうと,何度閉店セールをしようと新装開店セールをしようと,もはやそんなことは一切関係なく,このあわただしい社会の変化もまた関係なく,静かに流れる小川を時間を忘れて眺めて幸せに浸るような,そんな心地よさと変わらぬ安心感を抱きます。
 それにしても,私がわからないのが,どうして突然サリーが去ってしまった先がスウェーデンなのかということです。おそらくは手の届かないほど遠くということなのでしょうが,突拍子もないというか,スウェーデンでなければならない必然性がまったくわからないというか,あまりの意外性にとまどいます。と,そんなことを思いながら現実にもどれば,この時代,コロナ禍でもなければ,地球上のどんな地の果てであろうと,1日もあればすぐに飛んでいけるわけだし,今や,インターネットを通していつでも相手の顔を見ながら直に話もできるわけで,地球上の物理的な距離など遠いものでもありません。だから,これもまた,そんな現実とは無縁の古きよき時代のお話なのでしょう。
 「サザエさん」ともども,漫画の世界では,社会の変化も科学技術も関係ないし,登場人物が歳をとらないことを,ことのほかうらやましく思います。そうそう,朝日新聞の朝刊に連載している連載漫画「ののちゃん」は,絶対に意識してこのコロナ禍の時代にあえてそれをまったく無視して変わらぬ日常の世界を描いている(と私は思っている)ことに共感を覚えます。

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