●パドラーズインで夕食をとる。●
ベランダにイスを出して,ずっと海を見て1日を過ごしたのだが,今では,この日に何をしたのか,まったく記憶がない。とにかく,何も記録がない。車に乗ってどこかに出かけたこともないし,テレビもつけなかった。
お昼はいつだったか買ってきたカップヌードルを食べたような気もするが,それがこのときだっだかどうかも定かでない。写真もないからわからない。
ともかく,何もしないというのはかなり退屈だと思うだろうが,海を眺めていると,時間を忘れるのだ。
人生暇つぶし。なので,暇をつぶす方法をたくさん知っていることが生きるコツなのだろうが,それがもっとも難しいことのように思う。特に,私のように,普段,何もしないでいるとすぐにイライラするなどという性格は,最も生きることが下手なのだろう。
しかし,仕事は別として,暇なときに何かをしたとしても,それはしなけらばならないことでなければ,要するに,してもしなくても同じなのではないか,と思うわけで,むしろ,何かをすることで他人に迷惑をかけることも数多くあるのだ,とこのごろ感じるようになった。
さて,そんなわけで,海を眺めていたら夕食の時間になった。 この旅の最後の晩は,モロカイ島でもっとも贅沢だと私が思っていたパドラーズイン(Paddlers Inn)というバーを併設したレストランに行くことにした。
これまでここに行かなかったのは,ここが飲み屋だと思っていたことに加えて,「地球の歩き方」にはこの店で使えるクレジットカードがVISAだけと書かれてあったのが最大の理由であった。私は,この旅にはVISAカードを持っていかなかった。
特に海外では,私は,現金を使うということはほとんどなく,たとえ飲み物1本買うにも,クレジットカードを使う。だから,わずかの現金しか持っていなかったのだ。
事前の情報では,モロカイ島は,少し前の日本のようなところで,Wifiもクレジットカードも使えないと思ったほうがよいところらしかった。しかし,実際はそう困ることもなく,コンドミニアムではWifiがつながったし,ほとんどの場合クレジットカードが使えた。
そんなわけで,わずかしか現金を持っていなかったが,これまでほとんど現金を使わなかったために,というか,お金を使うところもほとんどなかったために,手元の現金はまったく減ることもなかったので,この晩,たとえ夕食を現金で支払っても大丈夫という見込みが立ったので, 入ってみることにしたのだった。
入ってみると,私のほかに初老の夫婦がいただけだった。彼らはカウンタに腰かけて,おいしそうにアルコールを楽しんでいた。
ここは,オーストラリアの田舎町で入ったことがあるタバーン,つまり,お酒も飲めるレストランという感じのところで,とても居心地がよかった。また,かしこまった場所でもなかった。メニューも高級そうなものはなく,ハンバーガーがいろいろあるくらいのものだったが,それでも,ここはこの島でもっともマシなレストランであった。もう少し遅く来れば,ライブ演奏をやっていることもあるということで,店内の端にはステージもあったが,この晩,それが行われたのかどうかは知らない。
ライブ演奏といえば,ハワイは,レジャーランドのような日本人観光客のあふれるオアフ島は別としても,ハワイ島でもカウアイ島でもマウイ島でも,なかなか雰囲気のいいライブ演奏のつきのレストランがあって,私もこれまで楽しんだ経験がある。まあしかし,モロカイ島では,それは望めないだろう。
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食事を終えて支払いをしようとしたとき,このお店でもほとんどすべてのクレジットカードが使えることがわかり,拍子抜けした。それはともかくとして,最後の晩にいい思い出ができた。そしてまた,私のモロカイ島の,食事をする場所もない,という印象もこれで払拭されることとなった。
それにしても,次回,もし,モロカイ島に行くことがあれば,連日,朝はカネミツベーカリーで朝食をとり,昼はカネミツベーカリーで買っておいたパンを食べ,夜はパドラーズインで夕食を繰り返すしかないのだろうか。