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 横道誠さんの書いた「ある大学教員の日常と非日常」を読みました。
 この本を知ったきっかけは朝日新聞の読書欄だとばかり思っていたのですが,調べても存在しないので,私の勘違いでしょう。しかも,私は,もっと大きな間違いをしていたのです。それは,横道という名前から,映画「横道世之介」と同類の本だと思っていたことです。実際は横道誠さんは「横道世之介」とはまったく関係はありません。
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 「横道世之介」は吉田修一さんの書いた小説で,2008年から2009年まで毎日新聞に連載され,2013年に映画化されました。
 バブル期の1987年,大学進学のために長崎から上京してきた青年・横道世之介が,お人好しな性格から流されるままにサンバサークルに入り,一目惚れした年上の女性・千春に弟のふりをしてくれと頼まれたり、世間知らずの社長令嬢・祥子に振り回されたり,友人の倉持に金を貸したりといった様々な人々と出会いながら忙しい1年間を過ごす,というものです。
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 ですが,私はこれまで小説「横道世之介」を読んだわけでもなく,映画「横道世之介」を見たわけでもありませんでした。今回,偶然,U-NEXTで映画「横道世之介」を見ることができたのですが,横道世之介の品のなさと物語のあまりのくだらなさに嫌気がさして,途中で挫折しました。

 本の紹介に戻ります。
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 横道誠さんは1979年生まれで京都府立大学文学部准教授,専門は文学・当事者研究です。
 本来はドイツ文学者ですが,40歳で自閉スペクトラム症と注意欠如・多動症を診断されて以来,発達障害の当事者仲間との交流や自助グループの運営にも力を入れ,その諸経験を当事者批評という新しい学術的・創作的ジャンルに活用しようと模索しています。
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だそうです。
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 サバティカルリーブを利用して,10年ぶりにウィーンへ研究旅行に行くべく,羽田空港に赴いた著者を待っていたのは出国許可がおりないというまさかの措置でした。
 「ある大学教員の日常と非日常」は,発達障害特性を持つ著者が,コロナ禍,ウクライナ侵攻の最中に,数々の苦難を乗り越え日本を出国し,ウィーンに到着。ウィーンでの研究者たちとの交流,ダボス,ベルリン,アウシュヴィッツへの訪問などの,めくるめく迷宮めぐりの記録です。
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というのが,この本の紹介です。

 サバティカルリーブ(sabbatical leave)というのは,大学教員が研究するための休暇のことです。
 欧米では一般的な制度で,一定の年数勤務した大学教員が,本来の職務から離れ,数か月から1年ほど国内外の研究機関で研究活動に従事するというもので,様々な大学で導入されているようです。しかし,実情は,文部科学省の2011年(平成23年)の資料によると,国立大学教員数が62,682人であるのに対して取得者がわずか210人と,およそ0.3パーセントだったそうです。それは,働きすぎの文化と空気の支配のえげつない日本では,制度はあっても運用できていない大学も多いということが原因といわれています。
 サバティカルリーブとは違いますが,私が現役のころに勤めていた組織では,夏休みは6月から9月の間に自由にとれるとあったので,忖度など一切しないし同調意識もない私は,規則通り6月や9月に1週間程度の休みをとって海外旅行をしていたのですが,上司は何やかやと嫌味をいいました。また,ほとんどの人は,周囲の目を気にしてお盆に休んでいました。本当にバカみたいでした。これが日本であり,日本人です。
 私は,人生,仕事に明け暮れて一生をおくるなんてバカげていて,元の仕事に戻れるという保証だけあれば無給でいいから,たとえば10年勤めていたら1年は無理でも1か月程度条件なしの休みが取れる,といったような制度があればいいのに,と思ったことがありました。でないと,多くの人は海外旅行もできず人生が終わります。

 話を戻しまして,この本で,横道誠さんは 「障害があるということは,ふだんから被災しながら生きているようなものだ。著名人の誰かがそのような発言をしたと思うのだが,いま調べてみても誰かわからない。いずれにせよ,僕はこの言葉に大いに首肯できる。僕たちの日常は,災難だらけなのだから,障害者とは日常的な被災者なのだ」と書いています。
 この本は,そんな著者が海外に旅立つときにちょうどコロナ禍が襲ってしまい,さまざまな苦労のあげく,なんとかオーストリアの地に降り立った,というその顛末が語られるという内容です。私がおもしろいと感じたのは,私が世界でもっとも行ってよかったと思う,そして,また行きたいと思う国のひとつであるオーストリアについて,日本とオーストリアのコロナ禍の捉え方の違いというものも含め,詳しく書かれているところでした。
 それ以外のところは,私には期待外れでした。たとえば「羽田空港に赴いた著者を待っていたのは出国許可がおりないというまさかの措置だった」という部分ですが,それは,コロナ禍によるものでは全くなくて,単に,パスポートが期限切れだった,というだけの話で,私は白けました。ただし,日本に帰国するときの手続きやさまざまな日程変更のところは,真実だけに興味深い内容でした。
 報道などには時折出てきたのですが,実際に,コロナ禍のころに海外に行かなければならなかった,あるいは,帰国しなければならなかった,という人の体験談が,もっと語られてもいいと思いますが,噂では聴いていても,なかなか真実が見えません。

 横道誠さんは,この本で「障害者はふだんから迷宮のなかをさまよっているようなもの」と書いていますが,障害者でなくともそれは同じことだし,さらに,平和ボケをしているこの国では,国民の多くが,馬鹿のひとつ覚えで,何の予防効果もないのにいつまでもマスクマスクと騒いでいるだけだし,政府はさらに迷走をし,混乱に拍車をかけている。それはまるで,迷宮というより迷路の中をいつまでも行ったり来たりしているだけというのが,この本で私が感じたことでした。


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「しない・させない・させられない」とは
「Dans la vie on ne regrette que ce qu'on n'a pas fait.」とは

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