引っ越しを機に断捨離をした私は,手元にはほとんど本が残っていないのですが,今も生き残っているのは,何度も読んだ小説や専門書の類ばかりです。その中に,ただ1冊だけ,まだ一度も読み切っていない本がありました。それは「青年は荒野をめざす」でした。
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「青年は荒野をめざす」は五木寛之さんが1967年に書いた小説で「週刊平凡パンチ」に連載されました。
小説は全部で8章にわれていて,20歳になったばかりの若者がヨーロッパに旅に出て,ジャズ音楽と女と酒を経験しながら,自分発見をするものです。
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以前,ブログに
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海外旅行に出かけられなくなった私がここ数年選択したのは,さまざまな「彷徨」でした。
「彷徨」とは,あてもなく歩きまわること,さまようことをいいます。(「彷徨」の)使用例として「青春の彷徨」(がありますが),「青春の彷徨」に関してひとつ紹介すると,20歳のジュンの冒険を求めた「青春の彷徨」を描いたという,1967年に五木寛之さんの書いた小説「青年は荒野をめざす」があります。
いいなあ,栄光の1960年代。
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と書いたとき,まともにこの本を深く読んでいないことに気づいて,捨てずに持ってきたのです。そして,今,やっと読了しました。
「週刊平凡パンチ」も,この小説も,私より少し上の「団塊の世代」が若いころの必読書でした。今,私が当時の「週刊平凡パンチ」を読むとどう感じるのだろう,と思ったりもするのですが,このころに青春を過ごした私より少し上の人たちは,けっこう背伸びをして,こうした雑誌に影響されてそれぞれの人生を生きてきたわけです。
私が若いころは,まだ,海外旅行は身近なものではありませんでした。そのころに,この小説に憧れて,北欧を旅して,自慢げにその経験を語った人と国内の旅先で出会ったことがありますが,その話を聞きながら,私は,何か夢物語のように感じました。当時の私には,北欧なんて一生行くことのないだろう別世界だと思われました。
そうした「団塊の世代」の先輩たちは,学園紛争とか,けっこうむちゃくちゃやっていて,そうした姿を見て,しかも,大いに迷惑をこうむって育った次の私たちは「しらけ世代」といって,夢よりも現実の,冷めた若者たちでした。そんな若者のひとりだった私も,この小説のような旅ははじめっからする気もなかったのですが,人生はわからないものです。歳をとった今になって,逆に夢の中で生きるようになって,冒険心が沸き起こり,縁がないと思っていた北欧だったのに,フィンランドには2度も行ったし,さらには,何度も何度も行ったアメリカやオーストラリアでは,日本を捨ててやってきたという多くの日本人を知ったし,旅先でも結構おもしろいことをたくさん経験しました。
小説はあくまで小説だから,旅先で小説のような経験はできない,と実際に旅をしたことのない人は思うのでしょうが,そんなことはないのです。旅先でその国の女性と恋に落ちる,ということはさすがにそれほどはないでしょうが,同じように旅に出て,旅先で知り合った日本人の女性といい関係になるといったことは,決して現実離れしてはいないし,さらに,私にはわからない世界だけれど,音楽をやる若者たちであるなら,仲間意識が芽生えて,小説までもいかなくとも,決して,ジュンのような体験をすることはあり得ないことでもないように思います。
「青年は荒野をめざす」を読み終えてから,ネット上にある多くのレビューを読んでみました。
レビューのほとんどは,おそらく,その「団塊の世代」の人たちが書いたものに思えましたが,私がおもしろいなあ,と感じたのは,本の中身の感想よりも,そのレビューを書いた人たちのそれぞれの人生が垣間見えたことでした。
今も,そうした青春に憧れを抱いていて,この小説の主人公をまぶしく感じているような,しかし,自分は海外にすらいったことがない,または,旅に出てやりたい放題の青春をおくった,そして,今もそのときのことが忘れられない万年青年だったり,あるいは,そんな冒険をする勇気も知恵もないけれど,そんな若者を世間知らずとバカにしくさって,世渡りだけはうまくて,地位だけ偉くなって,そして,引退したのに,未だに偉そうに先輩風を吹かして若者を説教するような,そんなオヤジだったり,そのような人たちの姿が浮かぶのです。
そのなかから,いくつかピックアップして,一部を引用してみます。
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〇とにかく若者は夢を見なくてはいけない。ジャズ小説であり,エンターテインメントであり,そして路地裏から見た「世界」であるこの小説が,その格好の道案内として今でも通用するだろう。
〇「荒野」って小説に出て来た少年がいつも読んでいたので、気になって読んでみた。そしたら高度経済成長の日本にぼんやりとした不満を持った中流育ちの青年が海外に飛び出して魅力的な金髪女性とセックスするって内容だったから、正直に言ってあの少年にはがっかりした。
〇ハタチ前後で読んだらきっともっとおもしろかっただろうな。真に受けて海外に飛び出したかもな。
〇それにしても五木寛之って適当だよな。ラストの手紙と本編矛盾してるし。すっごい気になったわ。 〇 常識的に考えた世界で行われる,善悪の行為を超えたところに音楽はあって,人を感動させる。 人の感動なんて善悪を超越したところにある。
〇自分はジュンがそれらの出会いを通じ一歩一歩成長していく姿にとても励まされた。
〇昔,バックパックひとつで世界一周の旅に出かけていたそんな雰囲気を思い出したいのだろうか。人間が若く見えるのは歳ではない。本がよぶのか自分がよび寄せるのか,そのときにベストな本と出会うことがたまにある。この本がまさにそれだった。
〇舞台は60年代なんだからこれでいいのだ。当時に生きていなかったから,いくら現在の尺度で判断しようとしても無駄だ。
〇展開が,時が経てばずいぶん青臭いと苦笑するかも知れない。だけど,青臭さを感じられることを大真面目に言葉にできたこの小説が生まれた時代がうらやましいことに変わりはない。
〇60年代や70年代ああたりにジャズ喫茶でコーヒーを片手にこの本に熱中して異国に夢を求めて旅する主人公に憧れていた若者がいたかも知れない。そんな過去の若者たちとの交錯に思いを馳せられるのもまたよかった。
〇海外へ行くことが特別なことだった時代,当時陸路でヨーロッパを目指した人たちの必携書がこの「青年は荒野をめざす」と小田実の「何でも見てやろう」だったとか。この小説は「スイングしなけりゃ意味が無」かったバガボンドたちを思いながら、パリで読むのも一興です。
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人生,一度っきり,青春は戻ってこない,のですよ,おじさんたち。若いころ,どんな夢を見て,そして,どんな大人になりましたか? そして,今もまだ,夢をもっていますか?
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月と金星と木星の大接近。
2月23日の夕方。
月の位置が変わりました。
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「しない・させない・させられない」とは
「Dans la vie on ne regrette que ce qu'on n'a pas fait.」とは