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 選曲のいきさつは知りませんが,井上道義さんは,様々なオーケストラとの最後の共演に際して,そのオーケストラにもっともふさわしい曲を当てているような気がします。神奈川フィルハーモニー管弦楽団との最後の共演は,フランスものを2曲と伊福部昭が作曲したものを2曲選びました。

 前半の,だれもがきっとどこかで聞いたとこがあると思われる馴染みのフランスものは,夢見心地になるファンタジーあふれた音楽ですが,こういう曲こそ,どれほど味のある演奏をするか,それとも,単にスコアをさらっているような味も素っ気もないものになるかで,聴く側が曲に入り込めるかどうかが決まるというものです。だから,こういう曲をアマチュアのオーケストラがやってはいけません。
 今回の演奏は,やはりプロというか,まことにすばらしいものでした。
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●管弦楽のための狂詩曲「スペイン」(España, rapsodie pour orchestre)
 シャブリエ(Alexis-Emmanuel Chabrier)が1883年に作曲した管弦楽曲です。
 シャブリエは作品の数が極めて少なく,演奏されるのはこの狂詩曲と「楽しい行進曲」など若干の作品のみです。この作品はシャブリエがスペインを旅行した際の情熱的な音楽の印象をもとにして作曲されたといわれています。
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●ドビッシー「夜想曲」(Nocturnes)
 ドビュッシー(Claude Achille Debussy が1897年から1899年にかけて作曲した管弦楽曲です。 
 「雲」「祭」「シレーヌ」の3曲からなる組曲となっています。

 後半は,「ゴジラ」で有名な伊福部昭のふたつの作品です。
 前回書いたように,2021年12月に井上道義さんが指揮をしたNHK交響楽団の公演の曲目は,前半がショスタコーヴィチの交響曲第1番で,後半が松田華音さんがピアノを弾いた伊福部昭の管弦楽のための「リトミカオスティナータ」と「日本狂詩曲」で,この日の後半の曲目がこれと同じものでした。
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●ピアノと管絃楽のための「リトミカオスティナータ」(Ritmica ostinata per pianoforte ed orchestra)
 伊福部昭が1961年に完成し,1969年に最初の改訂,次いで1971年に改訂した1楽章形式のピアノ協奏曲です。
 「リトミカオスティナータ」とは「執拗に反復する律動」という意味で,五拍子や七拍子といった日本語の韻文の奇数律動の反復を基礎として六音音階による旋律が展開するという楽曲。中国で見た四方の壁全面に仏像がはめ込まれた堂の迫力と感動が創作のヒントとなったといいます。
 かなり高度なピアノの技法が必要であり,体力が必要であるとしろうとの私は思うのですが,これを楽しそうに弾きこなしてしまう松田華音さんがすてきでした。また,いつものように,ソリストと対決するような井上道義さんの指揮がすごい迫力でした。
 この曲は,どこかしこに「ゴジラ」が潜んでるみたいで,それが突然現れてくるのです。
 松田華音さん,華音と書いて「かのん」とはなんとすばらしい名前でしょう。それにしても,先日聴いたヴァイオリンの服部百音さんもそうですけれど,生まれたときから親の期待を一身に受けて音楽家をめざしたような名前ですが,その重責たるやいかに…。
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●日本狂詩曲(Japanese Rhapsody)
 伊福部昭はじめての管弦楽曲で,1935年に完成した2楽章形式の曲です。狂詩曲というのは自由奔放な形式で民族的または叙事的な内容を表現したものです。演奏時間は約15分と短く,かつ,ノリのよい曲で,ピアノと管絃楽のための「リトミカオスティナータ」の酔い覚ましとして,また華々しいフィナーレには最適な曲でした。ビオラのソロがなまめかしく魅力的でした。
 外山雄三が1960年に作曲した「管弦楽のラプソディ」という曲がありますが,日本らしいという点でよく似ています。「管弦楽のラプソディ」のほうが作られたのは後ですが…。
 私は若いころは,このような曲がクラシック音楽といえるのかな,と思ったのですが,若気の至りでした。スメタナの「わが祖国」やシベリウスの「フィンランディア」などと同様,日本人の作曲するものは,こうした日本らしさがあるべきだと,今は思います。

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Buck Moon 2024.

55年前人類が月を歩いた日です。
写真は7月20日の月とスミソニアン航空宇宙博物館に展示されている月着陸船です。
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「しない・させない・させられない」とは
「Dans la vie on ne regrette que ce qu'on n'a pas fait.」とは

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