【Summary】
In December 2024, I listened to NHKFM's broadcast of Fabio Luisi conducting Beethoven's Ninth Symphony with the NHK Symphony Orchestra, recorded on December 17. Compared to my recent satisfying experiences with recordings by Günter Wand and Seiji Ozawa, Luisi's unusually fast tempo left me disappointed and uncomfortable, lacking depth and emotion.
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2024年12月25日,NHKFMで「N響第9演奏会」を聴きました。指揮はファビオ・ルイージさん,12月17日に行われたものの録音です。
これを聴いたころの私の精神状態をまず説明しましょう。
私がこのごろのめりこんでいるのは,YouTube の NDRKlassik チャンネルで聴くことができるギュンター・ヴァント指揮のブルックナーの交響曲です。そしてまた,この日の午前中は,YouTube で,2017年10月に行われた水戸室内管弦楽団第100回記念定期演奏会で小澤征爾さんが最後に指揮をしたベートーヴェンの交響曲第9番の第4楽章を見ました。これらは本当にすばらしいもので,私は満ち足りていたのです。
そこに流れてきたNHKFMの「ファビオ・ルイージの第9」。私はこれにすっかり興ざめしてしまいました。そして,不快になりました。あまり批判はしたくないのですが,ファビオ・ルイージさんの指示するテンポ。これが私にはまったくだめで,やたら速ければいい,というものではないだろう,これでは感動のかけらもない,と思いました。
私は,ここ50年以上,ラジオやテレビで,そして,ときには実際に会場で「N響の第9」を聴いています。子供のころ,はじめて触れた「N響の第9」は,教育テレビといった現在のEテレで岩城宏之が指揮をしていたものです。それ以来,生で聴くのが夢だったのですが,はじめてNHKホールで聴いたのは1975年のことでした。
ただし,私は,年末にN響第9演奏会に行くことを恒例にしている,という趣味はありません。ただ,私の気に入った指揮者とソリストのときのN響第9演奏会ならば,聴きにいこうと思っているだけです。そうした理由から,最近私がN響第9演奏会に行ったのは,2015年のパーヴォ・ヤルヴィ指揮と2016年のヘルベルト・ブロムシュテッド指揮のものでした。そしてまた,今でも聴きにいかなかったことを後悔しているのは,2011年のスタニスラフ・スクロヴァチェフスキ指揮のものです。
なお,2009年のクルト・マズア指揮では,第3楽章の出だしで指揮者の指示するテンポを演奏せず,指揮者が曲を止めてしまうというハプニングがありましたが,このころのN響は「N響の第9」というテンポが存在していて,指揮者の指示するテンポが「N響の第9」と違っていたことからきたものだったようです。
昨年の下野竜也さんが指揮した「N響の第9」は聴きにいかなかったのですが,後日,NHKFMとEテレで触れて,引き込まれました。特に女性のソリストがふたりともすばらしかった。
今年もまた,行くことはなかったのですが,9月19日にNHK交響楽団の定期公演Bプログラムでファビオ・ルイージさんが指揮をしたベートーヴェンの交響曲第7番の第4楽章が異常に速かったので,今回の交響曲第9番もものすごく速いのではないか,と半ば期待し,危惧もしました。そしてやはり,というか…。
交響曲第7番の第4楽章の速さは,それはそれはそれでありかな,とも思ったのですが,交響曲第9番はそれとは性格が異なります。このごろのベートーヴェンの交響曲は,第9番に限らず,速いのが流行していて,それがベートーヴェンの自筆譜にある速度記号どおりらしいのですが,私が若いころは,これはベートーヴェン時代のメトロノームの影響であって,そんな速いテンポでは演奏できないから間違いだと習いました。それに,当時は,朝比奈隆指揮する大阪フィルハーモニー交響楽団の交響曲第9番では2管編成を倍にするなど,演奏者も今より数を増やし,テンポも重々しく,威厳をもたせるなど,現在の演奏とは真逆のものでした。
2015年のパーヴォ・ヤルヴィ指揮の交響曲第9番も異常に速かったのですが,それは高級スポーツカーでアウトバーンを颯爽と走るようなさわやかさと気品がありました。しかし,今年のファビオ・ルイージ指揮の交響曲第9番は,ランドクルーザーで未舗装の石ころだらけの山道をとんでもない速度でガタガタいわせながら走るという様に私には思えました。これだけの速さの演奏がめっちゃくちゃにならないのはNHK交響楽団のうまさですが,これでは楽譜をなぞるだけで精一杯だし,ソリストが自分の味を出す余裕などなく,したがって,深みも感じられませんでした。
話は少し発展します。
以前書いたことがあるのですが,2020年01月17日に行われたNHK交響楽団第1931回定期公演で,ツィモン・バルトというピアニストが演奏したブラームスのピアノ協奏曲第2番が,今回とは逆にあまりに遅く不快で,この演奏が今も私のトラウマとなっていて,大好きだったブラームスのピアノ協奏曲第2番を聴くたびに暗い気持ちが襲います。また,2024年9月14日のNHK交響楽団第2016回定期公演でのファビオ・ルイージ指揮するブルックナーの交響曲第8番の第1稿もだめで,こんなの聴いていたらブルックナーが嫌いになりそう,と思いました。そして,それ以来,ブルックナーの交響曲第8番の第1稿には拒否反応を起こすほどになってしまいました。
このように,演奏会には,自分には不向きな演奏で,聴きにいかなければよかった,聴かなければよかった,というものもあるのです。
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●「N響の第9」歴代指揮者
2024年:ファビオ・ルイージ
2023年:下野竜也
2022年:井上道義
2021年:尾高忠明
2020年:パブロ・エラス・カサド
2019年:シモーネ・ヤング
2018年:マレク・ヤノフスキ
2017年:クリストフ・エッシェンバッハ
2016年:ヘルベルト・ブロムシュテット
2015年:パーヴォ・ヤルヴィ
2014年:フランソワ・グザヴィエ・ロト
2013年:エド・デ・ワールト
2012年:ロジャー・ノリントン
2011年:スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ
2010年:ヘルムート・リリング
2009年:クルト・マズア
2008年:レナード・スラットキン
2007年:アンドリュー・リットン
2006年:上岡敏之
2005年:ウラディミール・アシュケナージ
2004年:クシシュトフ・ペンデレツキ
2003年:マティアス・バーメルト
2002年:大野和士
2001年:ハインツ・ワルベルク
2000年:スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ
1999年:準・メルクル
1998年:イルジー・コウト
1997年:シャルル・デュトワ
1996年:シャルル・デュトワ
1995年:エフゲニー・スヴェトラーノフ
1994年:イルジー・ビェロフラーヴェク
1993年:エリアフ・インバル
1992年:若杉弘
1991年:ウーヴェ・ムント
1990年:ハインツ・ワルベルク
1989年:若杉弘
1988年:フェルディナント・ライトナー
1987年:ベリスラフ・クロブチャール
1986年:オトマール・スウィトナー
1985年:ヘルベルト・ブロムシュテット
1984年:ヴァーツラフ・ノイマン
1983年:ペーター・ギュルケ
1982年:オトマール・スウィトナー
1981年:ズデニェク・コシュラー
1980年:ラルフ・ワイケルト
1979年:イルジー・ビェロフラーヴェク
1978年:オトマール・スウィトナー
1977年:ホルスト・シュタイン
1976年:フェルディナント・ライトナー
1975年:ロヴロ・フォン・マタチッチ
1974年:オトマール・スウィトナー
1973年:ロヴロ・フォン・マタチッチ
1972年:ジョセフ・ローゼンシュトック
1971年:オトマール・スウィトナー
1970年:ヴォルフガング・サヴァリッシュ
1969年:岩城宏之
1968年:岩城宏之
1967年:ロヴロ・フォン・マタチッチ
1966年:ロヴロ・フォン・マタチッチ
1965年:ヨーゼフ・カイルベルト
1964年:アレクサンダー・ルンプフ
1963年:ウィルヘルム・ロイブナー
1962年:小澤征爾(中止)
1961年:ウィルヘルム・シュヒター
1960年:ウィルヘルム・シュヒター
1959年:ウィルヘルム・シュヒター
1958年:ヴィルヘルム・ロイブナー
1957年:ヴィルヘルム・ロイブナー
1956年:ジョセフ・ローゼンシュトック
1955年:ニクラウス・エッシェンバッハ
1954年:ニクラウス・エッシェンバッハ
1953年:ジャン・マルティノン
1952年:クルト・ヴェス
1951年:なし
1950年:山田和男
1949年:レオニード・クロイツァー
1948年:尾高尚忠
1947年:尾高尚忠
1946年:尾高尚忠
1945年:ジョセフ・ローゼンシュトック
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「Dans la vie on ne regrette que ce qu'on n'a pas fait.」とは
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