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 やっと,加藤陽子さんの書いた「この国のかたちを見つめ直す」を読むことができました。
 日本学術会議会員の任命問題は,2020年(令和2年)9月,菅義偉内閣総理大臣が,日本学術会議が推薦した会員候補のうちの一部を任命しなかった問題です。このときに任命されなかった学者さんのひとりが加藤陽子さんでした。
 加藤陽子さんは,山川出版社が発行する高等学校教科書「詳説日本史」の執筆者のひとりとして,以前から名前だけは知っていました。また,時折,テレビに出演するのを見たことはありますが,それ以上のことは知りませんでした。それが,奇しくも,日本学術会議会員の任命問題で興味をもったことから,加藤陽子さんの書いた「この国のかたちを見つめ直す」という本を読んでみようと思ったわけだから,皮肉な話です。

 加藤陽子さんは東京大学大学院人文社会系研究科教授で専攻は日本近現代史です。「この国のかたちを見つめ直す」は,毎日新聞に連載されたものを編集したものです。
 奇しくも,「とある事件」によって,実質的な幕を閉じた安倍晋三長期政権でした。その結果,長き間にこの政権が何をしてきたのかが明らかになったわけですが,それは,劣化した日本の政治と政治家,民主主義の基本をないがしろにしその根幹を揺るがし続けた政権だった,ということです。
 安倍晋三政権は,こうした現実を報道しようとする側を罵倒することで委縮させ,任命権をちらつかせることで官僚を手玉にとることで忖度が横行し,国民を無知にしておいて,好き勝手にやりたい放題だったのですが,この著者は真摯な目で見つめ,そのことをわかりやすく語ってしまうわけだから,そりゃ,政治家の厄介者となってしまったのでしょう。
 しかしまあ,日本学術会議会員の任命問題は,無知な国民の眠りを覚まし,政治家の本当の意図が明らかにされたのだから,それだけでも,菅義偉内閣総理大臣は失敗したということです。

 この本の中で何度も語られているのは,記録を残さない政府,ということですが,このことは,この国は反省をしない,総括をしないということにつながります。それは,反省をすれば,責任が問われるからです。さらに悪質なのは,資料を破棄し,なかったことにしてしまったことです。それが,何事も何か事件が起きれば公聴会を開いてそのすべてと責任者を明らかにするというアメリカの民主主義とは真逆な世界です。つまり,日本の民主主義といわれるものは,あくまで借りものであり,その本質は国民主権ではなく,いつまでも,江戸時代の殿様国家だということです。それは,そもそも,日本人自体が日本人を知らない,ということがその根本だろうと私は思っています。そしてまた,都合の悪い過去は捨ててしまうというのは,政治家こそ,この国を誇りに思っていないということの裏返しでしょう。
 本の題名は,司馬遼太郎さんの書いた「この国のかたち」に基づいています。「この国のかたち」は,司馬遼太郎さんさんが「日本とはどういう国なのか」と23歳の自分自身に手紙を書くようなエッセイです。はるか昔,私はこの本を読んだことがあります。
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 召集されて軍隊を経験した23歳だった司馬遼太郎さんは,戦争に負け終戦の放送を聴いたあと「なんとおろかな国に生れたことか」と思ったのだそうです。そして「なぜ近代日本はあのような愚かな戦争をしたのか、それを解明したい」「昔はそうではなかったのではないか」ということが動機で,鎌倉・室町期や江戸・明治期のころのことを小説に書いてきました。そして,昭和の軍人たちが国家そのものを賭けにしたようなことは昔にはなかった,と確信するにいたるのです。
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 「この国のかたちを見つめ直す」を読んで感じたのは,学者さんは,仕事とはいえタフだなあということです。学問を軽視するこの国では,どんなに正論を吐こうが研究に裏付けられた施策を提言しようが,まったく無力であり,「政治家の思惑」だけでことを進めるているだけだから,そんなことをいくらしようと意味がないと私など白けているのですが,それに対して,学者さんは学問は無力ではないという信念をもち続けているからです。
 それにしても,結局のところ,このごろ起きた「とある事件」によって,「政治家の思惑」というのは,確かな信念や学識などに裏づけられていたものではなくて,単に,支持母体のひとつである某宗教団体が意図している思想の受け売りに過ぎなかったということが明白になってしまったのです。そして,単に,地盤を受け継いだ,体制に寄り掛かることが得策だと思っている世襲議員は,いかなる手段を講じようと当選さえすればいいと考えていただけだった,ということが明らかになって,このごろは,私をさらに白けらせています。
 この本が書かれたのが,とある「事件」をきっかけとした,そうした宗教団体の問題が起きる以前であったことが惜しまれます。

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