火星と地球は太陽をひとつの焦点とするそれぞれの楕円軌道を運動しています。それぞれ異なる周期で太陽のまわりを公転しているので,惑星どうしの位置関係はいつも変化しています。内側を公転している惑星ほど公転のスピードが速いので,火星の内側にある地球は公転周期が365日で,火星の公転周期687日に約780日,つまり約2年2か月の周期で追いつき追い越します。
地球の楕円軌道に比べて火星の軌道はつぶれた楕円形をしているので,最接近時の距離が毎回異なり,近いとき(大接近)で約5,500万キロメートル,遠いとき(小接近)は約1億キロメートルと約2倍にもになります。
大接近が起きるのは15年おきで,それが今年2018年7月31日というわけです。今回の大接近では火星と地球の距離は5,759万キロメートル,このころの火星はマイナス2.8等の明るさで輝きます。前回2003年には地球と火星は5,576万キロメートルまで接近したので,今回はこれには少しおよびませんが,いずれにしても,15年ぶりの大接近となります。
何事も話題づくりとそれに付随したお金儲けが資本主義社会に生きる人々の目的なので,この火星の大接近もまた,月の大接近を「スーパームーン」ということに習って「スーパーマーズ」といって人々の興味を駆り立て,これを商戦とばかりに,望遠鏡をはじめてとした火星グッズを売ろうとさまざまな工夫をしています。
しかし,古の昔より,というのは大げさですが,私の子供のころからずっと,望遠鏡というのはとかく誤解を招く商品のようです。人々はその形から望遠鏡というイメージをいだきこそすれ,それを購入して満足に使いこないしている人がなんと少ないことでしょうか。おそらくそのほとんどは買って一度か二度使っただけで,あとは部屋の飾り物と化していることでしょう。しかし置物にすれば大きすぎるし,決して安いものではありませんからもったいない話です。
私は星を見ることを楽しみとしているのですが,30年も昔に買った小さな望遠鏡を1台もっているだけです。望遠鏡に限らず何ものも豪華な買い物をする人がいますが,そうしたノリで買っても望遠鏡は使っていないときの置き場に困る代表ではないかと推察します。
私が持っているのは口径がわずか7.6センチの小さな屈折望遠鏡ですから,当然,性能もたいしたことはありません。しかし,おそらくこの望遠鏡を30年間使い続けている数少ないひとりではないかと自負しています。そして,今でもこの望遠鏡がもっている性能の限りが発揮できるように,様々な工夫をするのを楽しんでいます。
現在火星は夜8時ごろに東の空に見えるようになります。そのころは西の空には木星,南の空には土星も輝いています。
明るい木星はすぐにわかりますが,それに比べれば土星は1等星とはいえ暗いものです。なかでも火星はひときわ明るく見られます。
私は日ごろ,火星に明るい星というイメージがないので,この明るさを異常に感じるほどです。それだけ接近しているということなのでしょう。
こういう姿を見ると,だれしも拡大して見てみたいとか写真に収めてみたいと思うわけで,そうした人をターゲットにして,望遠鏡売り場や文具売り場,はたまた書店にまで,大きなポスターが張られていたりします。
しかし,こんなことを書くと業界の人に嫌われますが,本にあるような立派な姿を見たければ,望遠鏡を買うよりも天文台の一般公開に出かけるのが一番です。天文台の大きな望遠鏡の接眼レンズにスマホを近づければ写真だって簡単に写せます。係りの人に聞くと写し方を教えてくれます。
ということで,今日の写真の上から3枚はそうした天文台の望遠鏡を使って私がかつて写したものです。それと比較するために,私の小さな望遠鏡で昨日写したものが下の3枚です。いうまでもなくそれぞれ上から火星,木星,土星です。
現在は写した写真をコンピュータで画像処理したり,ビデオ映像として記録してそれを加工したりして,すばらしいものに仕上げている人の写真が天文雑誌を飾っているので,だれでも簡単にそんな写真が写せると思っている人がいますが,それには手間と暇と財力が必要で,実際はこんなものです。しかし,手間と暇と財力をかけなくても,たとえ小さな像であっても,自分で工夫して写真を写したり時間を忘れて星を眺めるだけで老後の趣味としては十分楽しいものです。
日本では,火星が地球に最も接近するその3日前,7月28日の明け方午前4時30分ごろから皆既月食が見られます。夜が明ける30分前の沈みそうな西の空の満月に地球の影が入ります。沈む赤い月に寄り添うような赤い火星! こんなもの見たことがありません。私は,実は火星よりもこの皆既月食のほうが楽しみなのです。
☆ミミミ
火星最接近-誰が「スーパーマーズ」などと言い始めたのか?