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 小説を読むなど時間の浪費,とこのごろ持ち時間の少なくなった私は思うようになってきて,しばらく1冊の小説も読まなくなっていたのですが,何となく手にとった「六人の嘘つきな大学生」の数ページを読むでもなく見はじめたとき,思わず夢中になって,一挙に読み終えてしまいました。
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 成長著しいIT企業「スピラリンクス」がはじめて行う新卒採用。最終選考に残った6人の就活生に与えられた課題は,1か月後までにチームを作り上げ,ディスカッションをするというものだった。
 全員で内定を得るため,波多野祥吾は5人の学生と交流を深めていくが,本番直前に課題の変更が通達される。それは「6人の中からひとりの内定者を決める」こと。
 仲間だったはずの6人は、ひとつの席を奪い合うライバルになった。
 内定を賭けた議論が進む中,6通の封筒が発見される。個人名が書かれた封筒を空けると「●●は人殺し」だという告発文が入っていた。彼ら6人の嘘と罪とは。そして「犯人」の目的とは。
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というのが,読み終えたあとで知ったこの小説の紹介文ですが,そんな知識すらなく私は夢中になったのです。
 2021年に刊行されたというから,もう2年近く前ですが,この本に出合えてよかったです。漫画化され,実写映画化も予定されているということです。
 作者は浅倉秋成さんで,この名前ははじめて知りました。2012年に第13回「講談社BOX新人賞Powers」でPowersを受賞した長編小説「ノワール・レヴナント」で作家デビューしたと書かれてあり,その後も話題作を続々と発表しているとありましたが,学歴などはわかりません。また,そんなものはどうでもいいです。

 この本を読みながら,私は「エピメニデスのパラドックス」(Epimenides paradox)を思い出していました。
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 「エピメニデスのパラドックス」とは,古代ギリシャ7賢人のひとりであるエピメニデスにまつわる論理的逆説のことで,「クレタ人はみな嘘つきだ」という命題の真偽を問う際,クレタ人であるエピメニデスが真実を述べているとするとクレタ人はみな嘘つきになり,嘘を述べていたとするとクレタ人はみな正直になり,発話の主体であるエピメニデスが正直ものか嘘つきかであることと矛盾する、というものです。
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 この小説は「エピメニデスのパラドックス」ではありませんが,とてもよくできています。全体が複雑に絡み合った糸のようで,そのほんのわずかなほつれからすべてが解決していきます。
 最後の一歩手前までドキドキハラハラ,そして,おもしろいエンディングを予感させられる小説は数多くあるのですが,最後にがっかり,なんていうことも少なくありません。
 しかし,この小説はそうではなく,しかも,読後感が悪くないのです。 内容にまったく無駄がなく,密度が濃いのもよいところです。

 この小説は,大学生の就職活動をもとにしているので,私のような「不良老人」には,それとともに,若い人は大変だ,という,「かわいそう感」ももってしまいます。
 私が若いころは,就職なんて,大学からもらった推薦書だけで受かっちゃうような時代で,今のように,エントリーシートだとか集団面接なんてなかったわけですから,今とはまったくちがいます。
 しかし,学校の入学試験もそうだけれど,どんなに手の込んだ選抜をしても,その反対に適当にくじで決めても,そう違いはない,というのが私の持論です。適当に選んでも,向いていない人は自分から辞めてしまうか落伍してしまうから,最終的には同じなのです。向いてもいないことを無理にやってもロクなこともありませんし。
 この国は,万事「責任逃れのやったふり」だから,大学も厳しい入学試験を過ぎれば,大した勉強をしなくても卒業できるし,会社もまた,今のような選考をしたところで,その多くは入社3年ほどで転職してしまう,というのが現実だと聞いています。
 そうしたことも含めて,この小説はミステリーではあっても,事件の解決という面でだけではなく,今どきの若者の実態も考え方もよくわかりますし,若者を応援したくなる小説でもあります。

無題


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