「月刊天文ガイド」を創刊号のころから知る私たちにとって「三種の神器」にあたる本はおそらく「イケヤ・セキ彗星写真集」「広角レンズによる星野写真集」「日本の天文台」であろうと思われます。
私が星に興味をもったときはすでに「イケヤ・セキ彗星写真集」はその数年まえに発行されてしまっていましたが,「広角レンズによる星野写真集」と「日本の天文台」は購入することができたので,毎日のように飽きもせずこれらの本を眺めて育ちました。
実は,私が興味をもったころはまだ「イケヤ・セキ彗星写真集」は出版社に在庫があったのですが,子供の知恵ではそんなことは気づかなかったので,それが手に入らないことが残念でした。しかし,いつも眺めていた本というのは知らないうちに薄汚れたり,いつの間にかどこかにいってしまうものであり,どうでもよいようなものはいつまでも手元にあるものです。そんなわけで,私の愛読していた「広角レンズによる星野写真集」と「日本の天文台」もそのうち行方不明となってしまいました。
歳をとると子供のころの原風景が懐かしくなるもので,私はこの3冊の本が無性に手元に欲しくなりました。いくら本棚をさがしても,昔絶対に手元にあったはずの本は見つからず,見つからなければより一層欲しくなるのでした。近年はネットオークションや古書のウェブページがあるので,それをこまめに探しました。そして,まず「イケヤ・セキ彗星写真集」を手に入れました。その後,「広角レンズによる星野写真集」も見つけました。同時に,生まれてはじめて買った「月刊天文ガイド」の1968年3月号も見つけました。「月刊天文ガイド」はこの号をはじめとして10年以上は買い続けたのですが,その置き場所に困ってすべて手放してしまいました。しかし,このはじめの1冊だけはどうしてもまた欲しかったのです。
どうしてもなかなか手に入らなかったのが「日本の天文台」でした。あるときは3万円近くの値がついているものもありましたが,それではあまりに高価です。
今回,それを私はずいぶんと安くやっと手に入れたのです。この本は1976年当時に日本にあった公設・私設の天文台を写真とともにまとめたものですが,やっと手元に戻ったこの本を改めて見ると,当時の記憶がだんだんと蘇ってきました。そのうち,手に取ったときに同じような感慨を覚えた本があるのを思い出しました。それは,やはり今から40年ほど前に出版されたアメリカ大リーグのボールパークをまとめた写真集でした。それはともに,当時の,今となっては古臭い施設をまとめた写真集なのでした。こういうものを「古きよき時代」というのです。
今から40年以上も昔,この本に載っていた天文台に,私は憧れました。その後,実際足を運んだところも少なくありません。この当時の日本の天文台のうちで,いまでも現役なのはどれくらいあるのでしょうか? おそらく1割もありますまい。現実は,こうした当時の望遠鏡が今役に立つようなときは限られているのです。というよりも,完全に時代おくれなのです。それは,ひとつには機材が古いということにあり,もうひとつは日本の空が絶望的に星が見えないくらい悪くなったということにあるのです。
天文台がアマチュア天文ファンの「聖地」でありえた時代,天文台は,当時の青少年のドリームランドでした。なにかこうした施設にはものすごい夢とロマンが満ち溢れていたように思えました。そうした想いが動機付けとなって,当時の青少年は夢や知識が増したのです。そう考えると,単に「時代遅れ」といって,今,こういう施設を葬り去ってはいけないように思います。この本に再び巡り合って,私も,再び,こうした「聖地」の巡礼をしたいものだと,改めて思ったことでした。