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 朝日新聞の読書欄で宇宙物理学者の須藤靖さんの紹介する本は,そのどれも私には興味深く,読んでみたいと思うものばかりであることに,喜びを感じます。
 そんな本のひとつが,5月22日に紹介された「数学に魅せられて,科学を見失う 物理学と「美しさ」の罠」という本でした。この本は原題を「Lost in Math : How Beauty Leads Physics Astray」といい,著者はサビーネ・ホッセンフェルダー(Sabine Hossenfelder)という 量子重力理論などを専門とする理論物理学者です。

 本の内容は
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 物理学の基盤的領域では,実験で検証されないまま理論が乱立する時代がすでに30年以上の長きに渡っていて,既存の理論を超えようとしては失敗し続けてきたと著者はいう。
 それら理論の正当性のよりどころとされてきたのは,数学的な「美しさ」や「自然さ」ということだが,なぜ多くの物理学者がこうした基準を信奉するのか? 革新的な理論の美が前世紀に成功をもたらした美の延長上にあると考える根拠はどこにあるのか? そして,超対称性,余剰次元の物理,暗黒物質の粒子,多宇宙… なども,その信念がはらむ錯覚の産物だとしたら? 
 研究者たち自身の語りを通じて浮かび上がるのは,一般の人が抱く,物理学の究極に向けて進撃を続けるイメージとは異なり,空振り続きの実験結果にとまどい,理論の足場の不確かさと苦闘する姿である。
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というものです。
 つまり,「物理学は数学の美しさのなかで道を見失っているのだろうか? と本書は探針を投じるのです。

 理論物理学は,実は,かなり前から行き詰まっていて,それは「実験の大規模化」がひとつの要因ということです。
 日常のエネルギースケールで発見できることは発見し尽くされてしまい,ここから先に進むには,さらに巨大な実験装置を建設しなければならないのですが,それが地球の規模を越えるところまで来てしまったのです。それはまた,天文学も同じです。
 また,このごろ話題となっている素粒子物理学や宇宙論で発表されてきたヒッグス粒子や重力波などの数々の理論は,20世紀の半ばに予言されていたものが今になってようやく観測されたものであって,ここ30年間に発表された理論ではないのです。
 そこで,それ以降の理論は未だ実証されていないのですが,そうした理論を多くの物理学者が正しいと「確信」している理由,それは「美しい」からだというのです。物理学者が「美しい」と思うのは
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①理論がシンプルであること(simplicity)
②理論のなかに恣意的に見える定数値や極端に大きかったり小さかったする無次元量が出てこないこと(naturalness)
③その理論によって一見無関係な対象や分野が思いがけないかたちでつながること(elegance)
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なのだそうです。

 では,理論的であるはずの物理学で,理論が「美しい」などいう主観的な基準で正しいと信じられるその根拠は,ケプラー、ニュートンの時代からずっとそれでうまくいってきたから,ということだそうです。しかし,実際には,現代の理論は,超対称性理論にしても「美しい」形の理論は保持できていないのです。
 そこで,もはや「美しい」という基準に頼るような理論の構築はうまくいかないのではないか? ということになるわけです。「美しい」という基準を科学に持ち込むことについて,物理学者たちは無反省すぎるのではないかと,著者は語るわけです。
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  Someone needs to talk me out of my growing suspicion that theoretical physicists are collectively delusional, unable or unwilling to recognize their unscientific procedures.
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 理論物理学者たちは,総体として自己欺瞞的であって,自分たちが非科学的な手続きをとっていることを認めたがらないか,あるいは,その能力がない集団なのではないか。そういった私の中に膨らむ疑念をだれかに晴らしてもらわないといけない。
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 私は,以前にも書いたように,人類が作り上げた「数学」を使用することで物理学がこの世の現象を語ることができる,というのは幻想であって,創造主は人類にそんな能力を授けてはいない,と思っています。これまでの歴史が語るように,「美しい」という数式で一旦は認知された理論が,その後に覆され,そして,複雑化していく様が,まさにそれを実証しているように思えます。そもそも,素粒子が現在予想されているようにたくさんあるわけがないでしょう。これまでの理論が破綻すると,新たなものを想定する,そんなことを繰り返しているのは,むしろ,真実から遠ざかっているだけのように,私には感じられます。
 創造主は,人類が現在想定している理論のような,そんな複雑なものは作っておらず,この世の現象はもっと単純に,それこそ「美しく」書き表せるのだ,と私は思っています。しかし,その真実にたどり着けないのは,人類にはそんな能力が授かっていないからなのでしょう。
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 現在,宇宙全体の質量のうち,人間が知っているものはわずか5パーセントにすぎず,わからない残りの95パーセントは,26.5パーセントのダークマターと68.5パーセントのダークエネルギーが占めているということです。しかし,そもそも「ダーク」(dark)というのは「わからない」の意であることから,実は何もわかっていないのであり,それを煙に巻いて,ダークマターとかダークエネルギーと名づけることで,一般の人に,さも,わかっているかのように錯覚させているだけで,実際は,人類はそのほとんど何も知らないのです。
 …というようなことを私はこれまでずっと思っていたのですが,この本は,そうした私の思いを語ってくれていることに,意を強くしました。

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