しない・させない・させられない

Dans la vie on ne regrette que ce qu'on n'a pas fait.

USA50州・MLB30球場を制覇し,南天・皆既日食・オーロラの3大願望を達成した不良老人の日記

タグ:「星好きの三大願望」

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☆ミミミ
 1月1日のブログに「今年もオーロラを見よう」と書いて,早くも実現しちゃいましたが,こうして私は昨年の8月に続いて半年に2度もオーロラを見ることができました。
 オーロラ,皆既日食,南半球の星座を見る… この「星好きの三大願望」はそのどれも敷居が高く,なかなか実現できるものではありません。天文雑誌にもツアーが載っていますからそれに参加するのが最も容易な方法でしょうが,決して安いものではないし,一般のツアーの場合も同様ですが,そうして高額の参加費を払って出かけても,あくまで天気次第なのです。
 私も,そのすべてを実現した今になって,改めてその困難さを思い知り,自分の強運に感謝しました。
 今日はそのなかで再びオーロラについて書きます。

 私は今から30年以上前の冬,ヨーロッパ旅行に向かう旅客機の窓からオーロラを見て以来,一度は地上からも見てみたいものだとずっと思ってはいたのですが,なかなかその機会がありませんでした。しかし,私のいい加減な性格から何事も真剣に調べる気もありませんでした。
 時間と余裕ができたので,ともかく一度行ってみてから改めて考えようと,夏のアラスカに出かけて,たった1日の晴れ間に偶然オーロラを見ることができました。しかし,それで満足できたのではなくて,逆にオーロラに魅了されてしまったわけです。
 そしてまた行ってみようと考えたのですが,再び行くとなると,アラスカは遠いのです。しかも,私の行った夏ならともかく,冬のアラスカは,お昼間にすることがほとんどありません。アラスカ行きの一般のオーロラツアーではチナ・ホットスプリングスリゾートというところで観察するのですが,大したところでもないリゾートの宿舎なのにそこに滞在するツアーは非常に高く,宿泊を安価なフェアバンクスのホテルにしてそこから日帰りでリゾートに出かけるものは,フェアバンクスからの移動距離が遠く大変です。しかも,アラスカまではチャーター便を利用しないと一旦シアトルまで行かねばならないので,そこからさらにアラスカまで行くのにはすごく時間がかかります。ただし,アラスカの利点は冬の晴天率が高いことです。
 
 そこで,今回私はフィンランドのロヴァニエミに出かけたのですが,ロヴァニエミはお昼間に出かけることができる見どころが多く,街もきれいでお店も多く,することがたくさんあって退屈しませんでした。ロヴァニエミはオーロラ抜きでも滞在していて楽しい街なのです。しかも日本からヘルシンキまで直行便があるので近く,料金も安く,ツアーに参加しなくても,個人で航空券を購入して簡単に行くことができます。ロバニエミの街中にはオーロラツアーを取り扱っている旅行社がたくさんあるので,オーロラを見にいくにはお薦めです。
 ただし,私は晴れたからよかったのですが,調べてみると,どうも晴天率がそれほど高くはないようです。そこで,ロヴァニエミでオーロラを見たければ,少なくとも4日くらいは連続でオーロラを見る機会を作るような計画にするべきでしょう。気温はマイナス20度以下になるのですが,防寒具さえあれば問題ありません。

 私がまだ行ったことのない場所で,これ以外に個人旅行でオーロラを見にいくのに適した場所としては,カナダのイエローナイフとアイスランドがあります。さらに,スウェーデンのキールナとノルウェーのトロムソがありますが,スウェーデンやノルウェーはフィンランドに行くことに比べれば直行便がないので乗り換える必要があり,しかも晴天率が高くないので,オーロラ目的なら行くのをやめた方がいいと私は思います。なかでも北極圏にあるトロムソは冬も暖かく美しい街ですが,降水量が非常に高いのです。
 その点,イエローナイフはかなりよさそうです。天候が安定していて晴天率も高いです。ただし,ものすごく寒いですし,お昼間にすることがあまりありません。
 アイスランドは首都のレイキャビック市内でもオーロラを見ることができるということなので,かなり魅力的ですし,観光をするにも見どころが多く,しかも,冬の気温も暖かで,オーロラを見るには最も条件がよさそうです。今月発売された天文雑誌には40万円近い値段のアイスランドオーロラツアーの広告がありましたが,レイキャビックまではヘルシンキを経由してレイキャビックまで行くフィンランド航空のフライトが往復で13万円ほどです。冬も暖かで雪の心配もないから現地でレンタカーを借りればどこにも自由に移動できるので,そんな高額のツアーなどに参加せずとももっと安価に個人でオーロラを楽しむことができそうです。私の次に行く第一候補です。

 一度は見ておこうと思っていたオーロラでしたが,一度見たら,一度どころか,これ以上素晴らしいものが地球上にあるのだろうか? とさえ思うようになって,私はすっかりオーロラの虜になってしまいました。もはや,世界遺産も大都市の夜景も,私にはど~でもいいのです。ということで,私はおそらく近いうちにまた,イエローナイフやアイスランドに出かけることになるのでしょう。
 今日のブログの写真ですが,1番目のものには流れ星が写っています。
 ちなみに,地球上でオーロラを見ることができる「オーロラべルト」と呼ばれる地帯は,磁極の北極が地軸の北極とはずれていてグリーンランドの北の端にあってその周囲に存在するので,「オーロラべルト」はアラスカでは緯度が低く,スカンジナビアでは緯度が高い場所になります。したがって,アラスカのフェアバンクスは北極圏よりも200キロも南にあり,ロバニエミは北極圏ということになるのです。

◇◇◇
「星好きの三大願望」-個人旅行でオーロラを見る方法①
「星好きの三大願望」-個人旅行でオーロラを見る方法②
「星好きの三大願望」-個人旅行でオーロラを見る方法③
2018年がやってきた①-今年もオーロラを見よう。

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 いきなりですが問題です。
  ・・・・・・
 トナカイは英語でカリブー(caribou)とレインディア(reindeer)というふたつの言い方があるのですが,この違いは何でしょうか?
 答え:レインディアは空が飛べるのです???
  ・・・・・・
というのを外輪船ツアーで聞きました。夢のある素敵なジョークです。レインディアの引くそりに乗るサンタクロースさんもさぞうれしいことでしょう。

 さて,今回の皆既日食の旅では,欲張ってついでにアラスカまで足をのばして,オーロラも見てしまいました。
 もともとは,アメリカ50州制覇をした後の行き先として,これからはハワイとアラスカとオセアニアを中心に旅をしようと思ったこと,オーロラは夏でも見られると知ったこと,さらには,この春にオーロラを見にいった知人が複数いてとても羨ましかったこと,そしてまた,これはすでに書きましたが,50州制覇とはえアラスカをまともに観光したことがなかったこと,アラスカは個人旅行では直行便がなくシアトル経由で行くことになるから,せっかくシアトルに行ったのならついでに行ってみようと思ったこと。それが,今回アラスカまで足をのばした理由でした。
 しかし,この旅の主の目的は皆既日食だったので,オーロラについては事前に何も調べておらず,行けば何とかなるだろうと,そうしたいい加減さでフェアバンクスに降り立ったわけです。

 夏とはいえ,機内からみたアラスカは雄大な大地が広がっていました。着陸後,空港も小さくのんびりしているところだなあ,というのが第一印象でした。他に到着した便もなく,バゲッジクレームも動いていませんでした。しばらく待ってカバンが出てきたので取り上げて,空港内のカウンタで予約しておいたレンタカーのキーを受け取って外に出ました。道路も空いていて,30分ほどでフェアバンクスのダウンタウンに着きました。
 夏のアラスカは冬のオーストラリアのようなところでしたが,広くはないとはいえダウンタウンは夜は街灯が明るくてオーロラどころか星もほとんど見えませんでした。ダウンタウンから郊外に出れば真っ暗な場所ばかりですが,オーロラは深夜に現れるので夜通し起きている必要があるから,オーロラを見るにはどこに行けばよいかを事前に調べておく必要があるのでした。ただし,晴れていて空が暗ければオーロラが現れる確率は思っている以上に高いものでした。
 すでに書いたように,私は偶然、チナホットスプリングスリゾートへ行き,結局オーロラを見ることができたわけですが,この私の行った日本からの団体ツアー御用達の場所が最適とはいえませんでした。結局,個人でオーロラを見にいくときは,私のようにフェアバンクスのダウンタウンに宿泊するのではなく,自由に車で移動できる夏の時期ならばフェアバンクス郊外に適当なロッジでも見つけてそこを定宿にするか,極寒の季節ならば,空港から送迎のあるロッジを予約しておくといった準備をする必要があったのでしょう。

 それよりも今回私が印象に残っているのは,ニュージーランドのテカポ湖畔同様,アラスカのチナホットスプリングスリゾートもまた,日本から脱出した多くの若い人(特に女性)がそこに住み着いて日本人観光客相手の仕事をしている姿でした。彼らがこの先どういう人生設計を立ててそこにいるのかは知りませんけれど,そして,それがどういうことを意味しているのかはわかりかねますけれど,私にはそのことのほうがとても衝撃的でした。
 しかし,考えてみれば,何年勤めてもキャリアアップもできず早朝から深夜まで仕事をするか,結婚して小さな家を買っても住宅ローンに追われるか,子供ができても何も身につかないのに他人と競うだけの教育に,そして,そんな子育てが終われば今度は親の介護にとお金と時間を浪費するかしかなく,若いうちから自分の老後の心配をして今の自分の夢に投資することもできず貯蓄に励み,日々の楽しみといっても仕事の後に飲みに行くか,大型連休になれば混雑する観光地で渋滞に巻き込まれるか,走る道路もないのに車を磨くのに精を出すしかない,そんな狭い日本で生きるよりはるかに幸せなのかもしれません。
 外の世界を見たことのない,あるいは,ツアー旅行でしか行ったことのない人たちの多くはこの国の異常さを知らず,日本はすばらしい国だと信じていますけれど……。

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 今日はまずオーロラを写す方法を簡単に紹介しましょう。オーロラを写すには,一眼レフカメラにできるだけ広角のレンズを用います。私は魚眼レンズを使いました。ISOは1600程度の高感度にして,絞りをできるだけ開きます。シャッタースピードは2秒から20秒くらいまで段階的に写して,その中から一番いいもものを選べばいいです。もちろん三脚は必要です。
 オーロラは簡単に写ります。肉眼で見えないオーロラも写りますし,肉眼で見えるものでも実際に見るよりも鮮やかに写ります。星空を写すのと同じ要領です。

 前回書いたように,オーロラを見るにはアラスカに出かけるのがおすすめですが,団体ツアー旅行が利用するチャーター便でなければアラスカへの直行便はありません。シアトル経由のツアー旅行もありますが,それではツアー旅行のメリットがまったくないので論外です。
 そこで個人旅行でアラスカ初体験をするにはまずシアトルまで行ってそこからアラスカに向かわなければいけません。そのとき,最ももよいのはシアトルからはアンカレッジに飛んで,アンカレッジからフェアバンクスまでドライブするかアラスカ鉄道に乗ってフェアバンクスに行くことです。帰りはフェアバンクスからシアトルに戻ります。アンカレッジからフェアバンクスに行く途中にはテナリ(マッキンレー)を見られます。
 ただし,アラスカ鉄道は日本からの団体ツアー客の定番コースなので,たくさんの日本人が乗っていると思われますから,個人旅行では,紅葉の美しい9月ならドライブの方がおすすめです。
 私は今回,残念ながら時間がなかったのでこのコースが取れず,直接フェアバンクスに行くことになったのが心残りです。 

 フェアバンクスは小さな町ですから,2日もあれば見どころはすべて回れます。少ない見どころのなかでは,3時間かけてチナリバーを往復する外輪船クルーズが一番のおすすめです。
 これは5月から9月の間だけ運行していて,事前予約が必須という話です。私は現地に着いてからネットで予約しましたが,個人なら何とかなりそうです。
 それ以外の見どころとしては,アラスカ大学フェアバンクス校にある博物館や,ファウンテンヘッドアンティークオート博物館があります。アラスカ大学フェアバンクス校の広さには驚きます。また,オート博物館はクラシックカーがたくさんあるのでお勧めですが場所が極めてわかりづらいです。 

 フェアバンクスはこれくらいしか行くところがありません。ただし,クリーマーズフィールドという野鳥公園では8月の終わりだけカナダヅルが渡ってきていて,すごくたくさんの野生のカナダヅルを見ることができます。また、パイオニアパークという古びた遊園地がありますが,子供向けです。ただし,ここは5月から9月ならば夕方に行くとサーモンベイクができます。
 ダウンタウンは狭いのでぶらぶら歩きも楽しいのですが,食事どころは,タイハウス(Thai House),バンタイ(Bahn Thai)といったタイレストランが有名です。というか,それくらいしかありません。私も食事に行ってみましたが,なかなかでした。
 このように,フェアバンクスは北海道の田舎町のようなところですから,もし,夏に行くのであれば車で遠出することも可能なので,4時間ほど北に走って北極圏まで行くとか,デナリを満喫するとかすれば可能性は無限にひろがります。また,冬に行くのであれば,スノーモービルとかアイスフィッシングとかスキーといったウィンタースポーツができるのでそれに挑戦すればオーロラ以外にも楽しみが広がります。

 9月のこの時期。成田からフェアバンクスまでのデルタ航空の往復航空券は8万円でおつりがきます。とても安いです。ただし,先に書いたように直行便がないので乗り換えの待ち時間も含めると21時間もかかります。ツアーならその10倍の値段がしますが,チャーター便を利用すれば6時間で行くことができまます。このように個人で行くとなると,一旦シアトルまで行ってそこで乗り継ぐことになるのですが,何がくだらないかというと,フェアバンクスからシアトルに向かった同じコースを,再びシアトルから成田に向かうときに飛ぶことです。
 こんなわけなので,アラスカに個人で行く人がほとんどいないのです。私も今回アラスカへ行ったのはシアトルに行ったついででした。したがって,アラスカについてはハワイと違って情報があまりありませんし,現地でも日本人の個人旅行者相手のツアーもほとんどありません。
 このように,個人旅行でアラスカに行ってオーロラを見るのは日本から遠いという意味で大変です。確かにオーロラは魅力的ですし,ハワイとはまったく違った魅力がありますが,私ですら再び行くとなると二の足を踏みます。もし今回オーロラを見ることができなかったら,またいつか行かなければ…… といった大きなトラウマになることでした。
 この夏シアトルに出かけてふと足をのばして寄っただけのアラスカで偶然オーロラを見ることができた,というのは,そういう意味でも非常に幸運なことでした。

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 オーロラが見られるのは北極点を中心としたベルト状の場所(オーロラべルト)で,そこに存在する町としてはアラスカ州のフェアバンクス,カナダのイエローナイフ,フィンランドのロバニエミ,スウェーデンのキールナ,ノルウェーのトロムソなどが有名です。南極点にも同様にオーロラベルトはありますが,海の上です。
 オーロラは寒い冬にしか見られないと思っている人も多いのですが,実際は1年中見られます。ただし,一般のオーロラは天の川程度の明るさなので,空が暗くないと見えません。また,北極に近いと夏は夜がほとんどないので空が暗くならないから,夏至のごろは見られないというだけです。それとともに,街灯がある都会もだめです。
 ただし,いくら空が暗くとも,晴れることが第1条件です。そこで,降水量を調べてみると,アラスカとカナダのほうがフィンランド,スウェーデン,ノルウェーよりも少ないです。また,降水量が少ないというアラスカやカナダでも,最も降水量が少ないのが3月と4月ですが,この時期はとても寒いです。
 冬の最低気温は,フェアバンスが-28度,イエローナイフが-31度,ロバニエミが-15度,キールナが-19度,トロムソが-7度となります。したがって,寒さからいえばノルウェーのトロムソほうが温度は高いのですが先に書いたように晴天率が低いのです。
 このように,フェアバンクスの真冬は降水量が少ないのですがかなり寒いので,オーロラを見るには決死の覚悟が必要になるわけです。

 そんな理由で,軟弱な私は,オーロラは見たいけれど寒くない季節にしようと,シアトルに行ったついでに8月の終わりにフェアバンクスに足を伸ばしてみることにしました。
 しかし,行ってみてはじめて知ったのは,アラスカの中でも晴天率が最も高いと聞いていたフェアバンクスだったのに,実際は8月は雨ばかりでした。曇っていても突然雨が降ってきます。9月になれば8月よりは晴れる確率が高くなるらしいのですが,本当のところは知りません。
 私が滞在した4日間で1日だけとはいえ晴れ上がり,その晩にオーロラが見られたのというのはかなり幸運だったといえるでしょう。
 宿泊したB&Bで聞いてみると、フェアバンクスでは9月の下旬にはすでに雪が降りはじめるということですから,オーロラを見るには,寒くてもよければ3月から4月,寒いのを避けたいのなら9月の中旬まで,ということになります。
 当然,10月から2月もオーロラは見ることができますが,10月になると雪が積もりはじめるし,フェアバンクスでは一番の見ものである外輪クルーズのようなアトラクションが休止になります。また,3月よりも晴天率が幾分低いということで,どちらをとっても中途半端な感じです。でも,この季節は日本からの観光客が少ないので穴場ともいえます。

 さて,アラスカ第二の都市であるフェアバンクスですが,市内は明るくてオーロラの観察には不向きです。しかし,市内はさほど広くないので,30分も走れは真っ暗な郊外に出ることができます。
 フェアバンクスの近郊では1年で300日程度オーロラが出現するということなので,そうした暗い場所に行って晴れれば,おそらく90%以上の確率でオーロラは見られます。ただし,オーロラはいつ出現するかわからないので,空を眺めながら出現を待たなければいけないことと,また,どこにオーロラが出たかは慣れていないとわかりづらいので,個人でフェアバンクスに宿泊して深夜に郊外に出かけるのはあまり得策ではありません。
  ・・
 フェアバンクスから出発する現地オーロラツアーがあるとガイドブックなどに書いてありますが,オーロラツアーの開始は9月からです。また,ツアーで郊外に出かけても,深夜1時ごろには観察は終わり帰ってこなければなりません。こういうのがツアーの欠点です。それはハワイ島の星空観察ツアーも同様です。オーロラが出現するのは午後の10時頃から深夜の2時くらいが多いそうなので,それでは楽しくありません。したがって,フェアバンクスの市内に宿泊するよりも,郊外に数日(3~4日程度)泊まってオーロラの出現を暖かい室内で待ち,お昼間にフェアバンクスに観光で出てくるほうがいいと思われます。
 フェアバンクス郊外の宿泊先は,フェアバンクスから30キロほど行ったところにいくつかログハウスやロッジのような宿泊施設があるとガイドブックには書かれています。そうした本には私がこの夏に偶然行ったチナホットスプリングス(China Hot Springs)もよく紹介されていて,そこには1泊300ドルもするロッジがあります。しかし,ここは日本人団体ツアー客御用達のところで,ツアーで来た日本人が山ほどいるので,個人で行くにはおすすめしません。また,マウントオーロラスキーランド(Mt.Aurora Skiland)も定番スポットということですが,やはり,シーズン中は混み合うそうです。
 そんな有名なところでなく,フェアバンクスの郊外には安価なホテルやロッジが結構あって,フェアバンクスの郊外なら晴れさえすればオーロラは高い確率で見られます。しかも9月は空いていますし,まだ雪がないのでレンタカーを借りれば車で空港からホテルへ移動できます。この時期は成田からフェアバンクスまでの航空券も安く容易に手に入るので,オーロラとアラスカ観光をするのなら,まずはこうしたホテルやロッジを予約して気候のよい9月にとりあえず出かけてみるのがおすすめです。

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☆☆☆☆☆☆
 私はこの皆既日食観察の旅に出発する1月前くらいまではすっかりお任せで,現地のことはまったくわれ関せずでした。ところが,皆既日食の当日,皆既帯あたりの交通事情ががどのような状況になるのか意見が分かれ,ひょっとしたら大渋滞になって皆既帯にいくことすらできないののではないか,あるいは,こんなのどかなところのどこが渋滞するのか? といったさまざまな意見があって,予測不能でした。
 そこで,当日の渋滞を避け,2日前に皆既帯のどこかに到着して2日間キャンプをし当日を迎えることになったのですが,そのころにはすでにどこのキャンプ場も予約が一杯という有様で,かなり憂慮しました。やっとの思いで見つかったのが,アイダホ州ワイザーという町の広場,ここはもともとはキャンプ場ではなかなったのですが,皆既日食観察者のために,臨時に解放された場所だったわけです。

 この旅は,8月16日にシアトルに到着しワシントン州を観光してから,19日の午前中までにワイザーに行くことにしていました。18日はアイダホ州のルイストンという町のホテルに泊まっていたので、そこから南に3時間かけて,ワイザーに向かいました。ルイストンからワイザーまでは国道95をひたすら走れば到着します。私はこの道ははじめて走ったのですが,とても風光明媚なところでした。ただし,数箇所工事をしていて,片側交互通行になっていましたが,まったく渋滞などしませんでした。
 こうして3時間ほどの快適なドライブでワイザーに到着すると,すぐにめざすキャンプ場が見つかりました。
 ここは日本のオートキャンプ場とはまったく違い,ものすごく広く,ここも予約で一杯になったという話だったのに,ずいぶんと余裕がありました。トイレも設置されていました。お昼間はさすがに日差しはきつかったのですが,湿度が低いので,日陰に入れば快適でした。テントも風通しさえよければまったく問題はありませんでしたし,アメリカのこうしたキャンプ場のよいのは,まったくごみがないことと,虫がいない,セミも鳴かないということです。さらに,ここは山の中のキャンプ場とは違い,町中の川辺りだから,車で5分も行けばワイザーの小さなダウンタウンにあるマクドナルドに行くことができるから,Wifiは繋がるし,ダウンタウンにはレストランさえありました。

 私は,こうした場所で2日間を過ごし,当日を迎えることになったわけです。
 連日,雲はあるものの,太陽が覗く天候が続いていました。到着した日の晩は星がとてもきれいでした。しかし,皆既日食前日の晩は一面雲が覆っていて星も見えませんでした。しかし,天気予報では皆既日食当日は午前4時ごろには雲もなくなり快晴という予報に,信じられない気持ちでした。こうして当日を迎え,私は今回の日食を楽しむことができたのでした。

 ところで,今回の皆既日食で私が持っていったのは,カメラ用の三脚に自由雲台,それにMILTOLという名の焦点距離400ミリf6.7の望遠レンズにニコンD5300 でした。
 アメリカまで持っていくので,重い機材は避けようと思い工夫しました。天文ファンの多くは,星を見ること以上に機材に凝っている人や,日食のために新たに機材を購入する人も少なくないのですが,私はそういう財力もなければ興味もありません。1999年にハンガリーまで皆既日食を見にいったときは,今も使っているPENTAXの75センチ屈折望遠鏡を持っていったのですが,重く,それにアメリカの乱暴な預け入れ荷物の扱いでどうなるか心配だったので,今回は,できるだけ軽くそして安く実用に耐える,また,普段でも太陽を撮影できる機材を探しました。そうして見つけたのが販売価格40,000円程度のMILTOLでした。皆既中はフィルターは不要なのでが,太陽が欠けていく間は減光フィルターをつける必要があります。フィルターは1999年の皆既日食で使ったものでしたが,ねじ込みだと脱着がたいへんなので,簡単に取り外しができるようにそこだけ工夫しました。

 使ってみて後悔したのが雲台で,自由雲台では追尾がたいへんでした。これはポラリエを持っていくか,あるいは,ポラリエを三脚に固定するための極軸微動雲台を持っていくべきでした。そこだけが失敗でしたが,それでもなんとか,思った以上の写真を写すことができたので満足しました。この失敗を「次回」に生かすにも,その「次回」というのががあるのやらないのやら……。

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☆☆☆☆☆☆
 では,今日からは,今回の日食について書いてみましょう。
 私は今回の皆既日食の皆既帯に近いアイダホ州マウンテンホームに親類が住んでいるので,何年も前からこの日食を見にいくのをとても楽しみしていました。そんなわけで,今回の皆既日食のアイダホ州での皆既帯あたりはなじみのあるところだったので,何の苦もなく,晴れさえすれば見ることができるはずでした。
 それよりも心配だったのは,現地がどれほど混雑するだろうか,そして,アメリカに行く航空券自体,皆既日食のころは世界中から観光客が殺到するから買うことができるだろうか,ということでした。そこで,ともかく,半年前,航空券の発売日当日に成田からシアトルまでのチケットだけ手に入れました。シアトルに着いてしまえば,あとは,車であろうと,飛行機であろうと,容易にアイダホ州まで行くことができるからでした。

 私はまったく興味がありませんでしたが,当然,日本からは日食観察ツアーが企画されていて,広告を見ると,それらは50万円から100万円といった法外な値段がつけられていました。しかし,アフリカや南極ならともかくも,アメリカごときに50万円も出して行くなんて,私には理解しがたいことでした。
 今回,行ってみてわかったのは,シアトルからレンタカーを借りてワシントン州を東にインターステイツ90を走り,途中のエレンスバーグでインターステイツ82に乗り換えてリッチモンド,そこから国道12を通ってワラワラまで行くと6時間,そこで宿泊し,当日の朝,ワラワラから州道11を経由して,インターステイツ84をひたすら南に2時間ほど走って皆既帯まで達すれば,簡単に皆既日食を観察できたことでした。
 ワラワラという美しい町はものすごくホテルが安くて,6,000円も出せばシアトルで20,000円ほどするホテルよりも立派な部屋が確保できました。そうすれば,シアトルまでの航空運賃とレンタカー代とワラワラでの宿泊代すべてを合わせてもツアー旅行で設定されたような4泊6日程度の日程なら15万円でお釣りがくるということでした。

 私は,偶然,結果的にそれとほぼ同じコースをとりましたが,ワラワラではなく,ワラワラからさらに2時間ほど東に行ったルインストンからアイダホ州に向かうことになりました。ルイストンから南に走ってアイダホ州のワイザーまでは3時間でした。そして,ワイザーで2泊3日,皆既日食のために開放されたにわかオートチャンプ場でキャンプをして,快晴のなかで皆既日食の観察に成功しました。
 このコースのよかったのは,付近に大きな都会がないので到着するまでまったく渋滞していなかったこと,そして,日本人のツアー客がいなかったことです。ワイザーという町は人口が7,000人ほどで,それでも,町のハイスクールでは日食を記念したフェスティバルが行われたりしていて,華やいでいました。アメリカではこういう小さな町が治安もよく,一番落ち着くわけです。それが今日の3枚の写真です。
 当日,どのくらい混雑するのかは全く予想ができなかったのですが,数日前に,テレビや新聞でオレゴン州では皆既日食を見にいく車で大渋滞という誤報が流れ,とても心配しました。しかし,実際には,それはオレゴン州で合法であるマリファナの販売が行われて,それを手に入れるための車の列でした。当日は,確かに車は多かったのですが,心配するような渋滞は起きませんでした。
 渋滞といえば,皆既日食後,私がワイザーの町を抜けるのに30分程度かかったことくらいでした。ワイザーを出てからワラワラまで戻るのにインターステイツ84を北上したのですが,さらに,この道路で2度ほど大渋滞に出会いましたが,それは,皆既日食観察帰りの車というよりも,道路工事による渋滞でした。アメリカではインターステイツの1車線をふさいで工事をするときには別に1車線が作られるのが普通ですが,それをしないオレゴン州はとんでもない州だということだけを私は認識することになりました。

 今日は最後にふたつ地図を載せましたが,上の地図は今回の皆既帯を示すものです。日本からカンザスシティなどに出かけて曇った人もいるみたいですが,この時期に天候が不安定で急変する中南部に行くなんて! と私は思いました。そんな場所を選ぶのは,よほどアメリカを知らない人でしょう。しかし,晴天率の高いアイダホ州やオレゴン州であっても,この皆既日食の翌日から山火事が起きて,太陽すらまともに見られなくなってしまったことを考えると,この日,真っ青な空が見られたのは幸運でした。
 また,下の地図は,2024年4月8日に,再びアメリカで見ることができる皆既日食の皆既帯です。今回の皆既日食を考えれば,さらにだだっ広いテキサス州が渋滞するとは思えませんから,私がこの皆既日食を見にいくとすれば,テキサス州のサンアントニオから北上するコースを選ぶでしょう。ジョンソン元大統領の生まれ故郷であるジョンソンシティという美しい町もあります。テキサス州は晴天率も高いし,このあたりの皆既帯帯はどこも大草原なので,どこでも観察することができることでしょう。幸い4月ならハリケーンも心配ないことですし。このあたり,すでに4月はかなり暑いんですが,真夏ほどではありません。

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☆☆☆☆☆☆
 2016年6月21日ですから,早くも今から1年と少し前のことになりますが,私はその日のブログに次のように書きました。
  ・・・・・・
 天文ファンが一度は見たいという「三大願望」があります。それは,南十字星,皆既日食,そして,オーロラを見ることです。行くことができれば見られる,お金を出せばなんとかなる,ということなら,そうしたいという意志さえあればなんとかなるのですが,そこに「運」が必要なものは,そうしたいという願望があればあるほど,それがかなわないと本当に残念なものです。
 この「三大願望」のうち,1番かなえることが簡単なのは南十字星を見ることです。見えるところに出かけて晴れていさえすれば見ることができます。それに比べて,最も見ることが困難なのは皆既日食です。
 私は,幸いなことに,これまでに「三大願望」のすべてをかなえたのですが,それでも,ずっと昔のことであったり,なんとなくであったりするので,このごろになって,もう一度しっかり見てみたいと思うようになりました。その目的を果たすためにいろいろ計画を立ててはいるのですが,果たしてかなうことやら…。
 人生とは,かくも,したいことが多いのに,実現できる時間は短いのです。
  ・・・・・・

 このとき「いろいろ計画を立てている」と書いたのですが,それを具体的に書くと実現しないような気がしたので,あえて書きませんでした。そしてそのときの計画は,2017年の夏,6月にオーストラリアに行って再び南十字星を見ること,そして,8月にはアメリカ横断皆既日食を見に行くとともに,その後アラスカに飛んで,オーロラも見てくるということでした。この夢のような「三大願望」の実現,うまくいけばすべてがかない,最悪の場合はすべてがかなわないかもしれないものでした。
 そして……
 私は昨年のハワイ,ニュージーランド,そして,今年のオーストラリア旅行で南十字星を見,雲ひとつない晴れ渡るアイダホ州ワイザーで皆既日食を見,連日悪天候だったのにたった1日の晴れ間にオーロラを見と,それらをすべて実現してしまいました。今でも信じられない気持ちです。この幸運を何といってよいのか……。
 そこで,やっと,これまでこのブログで「星好きの三大願望」と題してはいても実際は南半球の星空の話題ばかりだったのが,ついに,すべての話題を書く資格を得たのです。
 では,「三大願望」から,今回は皆既日食について書いてみましょう。
 
 「一度は見たい皆既日食,もう一度見たい皆既日食,何度見てもまた見たい皆既日食」という言葉があります。一度この目で見てしまうと,このように何度でも見たくなるのが皆既日食なのです。
 先にお断りしておきますが,皆既日食を誤解している人が数多くいます。そういう人たちに皆既日食の話をすると,部分日食や金環日食と混同していて,こないだあったとか家から見たことあるといった反応を示す人が少なくありません。しかし,皆既日食と部分日食は全くの別物です。金環日食はそれなりに面白いものですが,これもまた,皆既日食の感動に比べたら,月とすっぽんの違いがあります。
 今回のアメリカ横断皆既日食でも「99%欠ける」という場所と「100%欠ける」という場所が決定的に違うということがわかっていない人たちがアメリカには大勢いました。「日食」は,皆既日食で,しかも,皆既帯といわれる幅にして100キロほどの帯状の場所で100%欠けたものを見ないとまったく意味がないのです。それを見たこともないのに,またそれがどいう現象であるかも知らないのに,「皆既日食なんて」という人を私は心から憐れみます。おそらく,そうしたことを言う人の人生は,ほかの多くのこともこれと同じような反応をし,多くの幸運を逃がしているのでしょう。運というものは誰もの身の回りに漂っているのですが,「運がいい人」というのは,それを招き寄せる人だというのが私の実感です。

 私は,子供のころから,いつの日かこの目で皆既日食を見たいものだと思っていました。1年から2年に一度は地球上のどこかで皆既日食が起きるのですが,自分の住んでいるところで見られるかとなると,それはほとんど希なこととなります。私が日食というものを知った子供のころ,この先日食が起きる予報の一覧表を見て,日本で見られる日食は部分日食ばかりだ,とがっかりしたことを覚えています。
 皆既日食が地球上のどこかで起きると,たとえそれが行くのにかなり大変なところであっても,そこに出かける日本人がいるのには敬服するとともに呆れます。しかし,私は冒険家ではありませんし,軟弱です。だから,辺鄙なところまで出かける気持ちはまったくありません。そんな私が,楽に行くことができて,しかも,晴れる確率が高いだろうとずっと以前から目をつけていた皆既日食が,1999年8月11日にヨーロッパからインドにかけて見られるものと,2017年8月21日にアメリカ大陸を横断して見られるものというふたつでした。そして,このふたつは絶対に行ってみようと何十年も前から狙っていたのです。
 そして,実際,私はこのふたつの皆既日食を見に行きました。そして,ふたつとも,文字通り「晴れて」,念願の皆既日食を見ることができたのです。

◇◇◇
「星好きの三大願望」-満天の星空のもとで南十字星を見る。
「星好きの三大願望」-南天の星空は明るい星のそろい踏み
「星好きの三大願望」-宝石をちりばめたような南天の星空
「星好きの三大願望」-マゼラン雲は偶然通りかった銀河①
「星好きの三大願望」-マゼラン雲は偶然通りかった銀河②
「星好きの三大願望」-南天の極軸をいかに合わせるか?
「星好きの三大願望」-海外で星を見るとは?
「星好きの三大願望」-天頂の天の川に溶け込むさそり座
「星好きの三大願望」-天頂の天の川に溶け込むいて座
「星好きの三大願望」-広大な超新星残骸・ガム星雲

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☆☆☆☆☆☆
 日本から見ることができる星空についてはすぐれたガイドブックがたくさんあります。なかでも今から40年ほど前に誠文堂新光社から出版された藤井旭さんの書いた「全天星雲星団ガイドブック」という本は今でもとても役に立ちます。しかし,この本は南半球から見ることのできる星空についても若干は取り上げられていますが,初版されたときは南天の部分はなく,後から付け足した改訂版なので,日本から見ることができる部分の記述に比べればやや不十分です。
 しかし,40年も前だというのに,そのころはすでに「103a」という名前の白黒ですが散光星雲が写せるフィルムがあったおかげで,現在,デジタルカメラと画像処理ソフトの発達で脚光を浴びている天体の記述がすでにたくさんあるので,内容が古くなく今でも使えるので助かります。それでも,現在は,その当時はほとんど知られていなかったような写真写りのよい天体がずいぶんと有名になり,私のような古い知識しか持ち合わせてない者には,こんな天体知らないぞ,聞いたことないぞ,というものが多くあります。

 このように,南天の星空には,もともと情報が不足していることに加えて,最近になって有名になった天体がたくさんあって,日本に帰ってきたあとではじめてそれを知って,改めて,写してきた写真にそれが写っているかを確かめてたり,落胆したり,そんなことを繰り返しています。
 双眼鏡で見ることができる天体や望遠鏡で拡大してみると見事なもの,あるいは,写真でしか写せないもの,それも,広角レンズのほうが美しく写るものや望遠レンズのほうがよいもの,といったような,きちんとした説明のある入門者用の南半球で見ることのできる天体の解説書があればいいのになあといつも思います。
 それにまた,このごろは,一般の人には手が出ないような高価な機材やテクニックを使って写したような写真集ばかりで,見ているには楽しいのですが,自分で写すには参考になりません。もう一度藤井旭さんに40年若返ってもらって,最新の情報を加えてこの本を新しく作ってもらえないものかと思います。

 さて,おおいぬ座の南,ほ座というところに「ガム星雲」というものがあります。
 先に書いた「全天星雲星団ガイドブック」にもすでに書かれている天体なのですが,この本の記述がほかの天体の説明にくらべて簡単すぎて,どこの場所をどのくらいの画角のレンズで写せばいいのかさえよくわかりません。おそらく,出版間際にその時の最新の情報として付け加えたのでしょう。
 「ガム星雲」(Gum Nebula or Gum 12)とは,おおいぬ座の南にあるほ座からとも座にかけて,なんと40度以上にも広がる超新星残骸です。この天体は太陽系からおよそ1,300光年に位置していて暗くて識別することが困難であって,かつ,日本からは地平線ぎりぎりまでしか昇らない散光星雲状の天体です。これは約100万年前に起こった超新星爆発の残骸が大きく拡散したもので,今も拡散していると考えられています。
 「ガム」という名は,この星雲を研究したオーストラリアの天文学者コリン・スタンリー・ガム(Colin Stanley Gum )にちなむのもで,キャンベラ郊外のストロムロ山天文台=下の写真(Mount Stromlo Observatory)の広域カメラを用いて観測を行って発見した天体を「A study of diffuse southern H-alpha nebulae」というカタログにして1955年に発行しました。今日「ガムカタログ」(Gum catalog)と呼ばれているこのカタログには南天の84個の輝線星雲を収録していて,ガム星雲はそのうちの12番のものです。
 なお,ストロムロ山天文台は,2003年1月18日の山火事によって5基の望遠鏡,作業場,建物が倒壊しました。現在は修復が進めれれています。

 今日の写真は,私がこの春に行ったハワイ・マウイ島のハレアカラで写したものですが,やはり,北半球のハワイでは南天の天体はいまひとつです。私は,はじめは南十字星が見られれば満足だったのですが,やはり,南半球に行かなければと思うようになりました。そして,それがかなった今は,この美しい南半球の星空のことをもっときちんと知りたいと思うようになってきました。

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IMG_8275s (2) (1024x683)IMG_8275s (3) (1024x683)o星図 (3)

☆☆☆☆☆☆
 さそり座のお隣にあるのがいて座(Sagittarius)です。日本でも初夏の南の空に結構高く昇るのですが,梅雨時でもあり,しかも日没も遅いので,なかなか見る機会がないのは,冬の星座であるオリオン座とは対称的です。
 冬至点や銀河の中心がこの星座の領域にあるので,空の暗いところでは天の川がもっとも美しく輝く場所でもあります。
  この星座の明るい星々は射手の上半身に集中していて,下半身は暗い星ばかりです。明るい星々であるγ星,δ星,λ星,φ星,σ星,τ星,ζ星,ε星をつないでできる星の並びを西洋では「ティーポット」(teapot)と呼んでいます。
 λ星,φ星,σ星,τ星,ζ星にμ星を加えるとひしゃくの形に見えるので,日本では北斗七星に対して南斗南斗六星として知られています。

 先に書いたように,いて座付近は銀河の中心がある方向なので,写真で見ると赤色をした多くの星雲がみつかりますが,そのなかでもM8(干潟星雲),M17(オメガ星雲),M20(三裂星雲)といった散光星雲が有名です。また,M22,M55などの球状星団も明るく輝いています。
 δ星の西7.5度にはいて座Aという電波源があります。この銀河系中心に存在する天体を天文学者は大質量のブラックホールを含むかもしれないと考えています。
 
 12月はじめのころの南半球では,さそり座とともにいて座もまた天頂付近に見えるので,北の空から南の空にかけて天頂に天の川が明るく横たわり,その光で影ができるほどです。その姿はどれだけ見ていても飽きるものではありません。世の中にこれ以上美しいものはないとさえ思えます。地球に生まれてこれまでこの姿を一度も見たことがなかったなんて! 私はわが身を恥じました。
 しかし,一度でもこれを見てしまうともういけません。不治の病である「南天病」にかかってしまいます。今の私のように。

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IMG_8273s (2) (1024x683)IMG_8273s (3) (1024x683)o星図 (2)

☆☆☆☆☆☆
 南半球で美しいのは南十字星あたりの星空だけでなく,さそり座やいて座といった,日本でもなじみの星座がなんと天頂に見られることです。そのために,日本では地平線に近くてその姿を鮮やかに見ることができない場所を鮮やかに再現できるのです。 
 日本国内では大仰な機材を使って,しかもコンピュータによる画像処理でやっと写し出すことができるアンタレス付近の星空も,数分の露出でしかも難しい画像処理なども不要で今日の写真のように写ってしまうのです。

 では今日はさそり座(Scorpius)の見どころを説明しましょう。
 まず,アンタレス付近ですが,M4,M80,M19,M62といった球状星団と,散光星雲があってとてもきれいです。また,アンタレス付近は,IC4606やIC4592,さらには名前のついていない散光星雲が取り巻いていてとても美しいものです。
 さそり座のしっぽのあたりに目を向けると,M6,M7といった散開星団に加えて,NGC6334=通称・出目金星雲やNGC6357=通称・彼岸花星雲といった美しい散光星雲があります。
 日本では地平線に近いこれらの美しい天体が天頂に輝いて,しかも,天の川のなかに溶け込んでいる姿を味わうと,赤道を越えてわざわざこれを見にきた甲斐があったとしみじみ思います。

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☆☆☆☆☆☆
 今や日本で満天の星空が見られる場所などどこにもなく,旅行社が企画する星見ツアーなども近年は盛んですが,都会の空よりはマシなだけなのです。それでも,日本では,人は生まれてからその程度の夜空すら見たことがないから,たくさんの星が見られると思っているにすぎません。湿度が高くそれほど天候のよい日のない日本では,それに加えて,春は黄砂にPM2.5,夏はほとんど晴れず,秋は熊が出るし,冬は空はきれいでも寒くて雪が多いというありさまです。
 私は,これまで日本中の星の美しい場所を探しましたが,どこへ行ってもがっかりするだけでした。結局,どこへ行っても同じようなものならば,空は汚くても家から近いほうが便利なので,そこで妥協して,なんとか写真を撮ってきてはコンピュータで画像処理をしてその気になっているだけなのです。
 満足な星空を見るためには海外へ行くしかないのです。 

 それでも,私は子どものころからの星マニア。今とは違って,昔は,コンピュータを使って星を導入したりオートガイダーで星を追尾したりなどということはできなかったから,ファインダーだけで自力で目的の星を視野に入れることも簡単にできるし,星の名前もわかります。暗い彗星も視野の中で見分けられます。しかしどうやら,近年になって星見を趣味にした人は,そういうことすらできないようなのです。
 11月,私がオーストラリアへ行った日,私の宿泊したゲストハウスにはもうひとり日本人が泊まっていました。彼は,自分の大きな望遠鏡を日本から送ったのに,税関で引っかかって未だ届いていないということで,ゲストハウスにあった望遠鏡を特別に貸りていました。よくよく彼の行動を見ていると,ずっとコンピュータの画面をにらみながら単にオートガイダーとCCDカメラを使って写真を写しているだけでした。彼は極軸も自分で合せられないし,コンピュータがなければ星を視野に入れることすらできない。話をしても,星に詳しいわけでもないし,せっかく満天の星空が輝いているのに肉眼で美しい星空を見る喜びすらないようでした。彼は望遠レンズを使っているから天の川の全景も写せず,わざわざ南半球まで来て何を写そうとしているのかなあ,と私は思いました。
 結局のところ,彼は星好きでもなんでもなく,定年後の道楽として,金にものをいわせて教科書どおりの手法で星雲星団を写しているだけなのでした。「ドリラー」の末期ここにありです。それでも星は減らないからいいようなものの,同じように,知識も興味もないのに,珍しいからと金にものを言わせてパワーシャベルで昆虫採集でもされたらいい迷惑です。

 実は,海外で星がきれいな場所として知られている多くは,そうした人たちやそれと反対に生まれてこの方満天の星空を見たこともないといった人たちでごった返しているのです。
 私が昨年の春に行ったハワイ島マウナケアのオニヅカビジターセンターや,昨年の秋に行ったニュージーランド・テカポ湖畔などでは,懐中電灯を照らして空を明るくしたり,あるいは,ほとんど星の知識もない人がモラルもなく振舞っています。
 おそらく,世界中の星空の美しい場所は,どこもそんな有様でしょう。
 今,星空の美しい場所としてウユニ塩湖が脚光を浴びていますが,ウユニ塩湖に水があるのは雨季だけだから,雨季に星を見に行くということ自体が矛盾しているのに,たまたま天気のよい日に写した映像を旅行社はウリにして,世界中から観光客を集めているのだから,そこにどういう状況が発生するかは容易に想像できます。
 海外,特に南半球の星空が魅力的なのは,これまで何度も書いてきたように,今日の写真の,南十字星あたりの星空が絶品だからなのです。そして,そうした星空は,人工の光のない場所で,肉眼で見るからこそ,その魅力がわかるのです。しかし,そうした場所までも多くの観光客が押し寄せるので,美しい星空を心置きなく味わえる場所もまたどんどんと少なくなっているのが残念なことです。

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「銀河鉄道の夜」-宮澤賢治の語る美しき南天の星空とは?
「星好きの三大願望」-宝石をちりばめたような南天の星空

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 北極星のような明るい星のない南天では極軸合わせが大変だというのはよく聞く話ですが,実際にやってみないと本当の大変さはわかりません。そしてまた,南半球に行く機会がなければ試すことすらできません。
 私も,昨年の秋にはじめて南天の星空の写真を撮ろうとニュージーランドへ行ったときはまったく要領がわからなかったので,ビクセンのポラリエという赤道儀に「ポーラメータ」という,高度と方角を決めて水準器で調整するとおおよその極軸合わせができるだけの装置を購入しました。
 これを用いることで,ほぼ適当に極軸を合わせれば厳密に極軸が合っていなくても点像に写る魚眼レンズと広角レンズを持っていって使用しました。その当時はそれだけで満足しました。

 しかし,2回目ともなれば,少しは進歩していないと話になりません。そこで今回オーストラリアに行くにあたって,焦点距離が90ミリのレンズでも点像が写せるくらいの正確な極軸合わせができないかと工夫をすることにしました。
 そこで,ポーラメータに加えて「極軸望遠鏡」を購入しました。その極軸望遠鏡を覗いて正確に極軸を合わせるわけですが,そのためには高度と方角の微調整ができなくてはなりません。そこでさらにあつらえたのが4番目の写真のようなビクセンのポラリエ専用の架台でした。
 何事も適当でいい加減な私ですがそれでも練習のためにこの架台を使って事前に北天で極軸合わせを数回やってみました。ところがうまくいかないのです。その理由は,この架台はガタがあるのです。しかも,微調整をするためのネジが回しにくく厳密に調整をするのが大変だったのです。この架台は使い物になりませんでした。
 そこで,せっかく購入した結構高価な架台だったのですが使用をあきらめて,新たに,発売されたばかりの5番目の写真にあるスリックの架台を購入してこちらでも試してみることにしました。結果として,こちらの方はガタもなく,しかも精密な微調整ができて便利なことがわかりました。
 そんなわけで,今日は,スリック製の架台と極軸望遠鏡を使った南天の極軸合わせの方法を説明します。

 この架台は上下・左右とも20度の範囲で微調整ができます。ポラリエの極軸望遠鏡の視野は8度なので,20度というのは十分な角度です。微調整は上下・左右それぞれ2つのネジを回すのですが,ともに前方のネジを回して調整し位置が決まったら後方のネジで締め付けるというのがうまくやるコツです。
 1番目の写真は私が写した南天の極付近の写真に説明を加えたものですが,天の南極はみずへび座にある小マゼラン雲と南十字座をおよそ3:7に内分したところにあります。
 みずへび座のβ星は4等星と暗いのですが,それでも空の暗い南半球では簡単に見つかります。この星を頼りにするとはちぶんぎ座のβ星とν星も簡単に見つかるので,その星から天の南極の位置の見当はつくのですが,極軸望遠鏡を覗いても同じような明るさの星が多すぎてどこを見ているのか実際はさっぱりわかりません。
 2番目の写真はこのはちぶんぎ座と天の南極あたりの星図です。この星図の丸い大きな円が極軸望遠鏡の8度の視野になります。視野の中に三角形の星の配置を書き込みましたが,このうち右側のχ星,σ星,τ星3つの5等星で作られる三角形さえ見分けられれば,視野の右下の十字のところが南極なので合わせることができるのです。しかし,実際の視野には当然,三角形など書かれていませんから,三角形を作るこれらの星を探し出す必要があるのですが,これが難しいのです。

 これらの星を探すにはコツがあります。それは,この星図の極軸望遠鏡の視野の左端に楕円で囲んだなかにある密集した3つの星の集合,はちぶんぎ座のγ1,γ2,γ3の3つの星を極軸望遠鏡の視野に入れればいいのです。この3つの星は特徴的だから簡単に見分けられるのです。そして,この3つの星と天の南極の間の角度は8度なので,ちょうど極軸望遠鏡の端と端に位置することになるので,極軸望遠鏡の視野のなかの星の配列を確認しながら架台を少しづつ移動していけばいいわけです。このとき,スリックの架台は20度にわたって微調整できるのがとても便利なのです。
 望遠鏡に限らず,日本人のものづくりは,ものすごく緻密でこだわりがあるくせに,いつも肝心なところが抜けています。こうした極軸合わせもまた,極軸望遠鏡はものすごく精密に作られているのにもかかわらず,それを活用するための純正の架台がいいかげんなのでそのよさが活かせません。おそらく,机上の空論で設計しているか,あるいは間に合わせのものをOEMで探してきて用意しているだけで,実際に使ってみたわけでないからでしょう。
 私は,純正品を見限って,偶然,発売されたばかりの別のメーカーの架台を流用したことで,今回,天の南極の極軸合わせに無事成功し,思いどおりの写真を写すことができました。しかし,せっかく会得したこの技術も,南半球へ行かないと活用できないので,なかなか使う機会がないのが残念なところです。

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 その後,南半球に建設された望遠鏡でマゼラン雲が詳しく観測されるようになると,大マゼラン雲も小マゼラン雲も,濃度の高いガスが分布していて,現在もさかんに新たな星が誕生しつづけている姿がとらえられるようになりました。
 マゼラン雲にも天の川銀河と同じように多くの球状星団があるのですが,マゼラン雲にある球状星団は我々の天の川銀河には見られない若いものだったのです。これは,天の川銀河とはちがってマゼラン雲にはこれから星が作られるガスが非常に多くあるからなのです。
 また,マゼラン雲の移動した軌跡にはマゼラン雲が含んでいた中性水素ガスが残されていて宇宙空間に巨大なガス帯「マゼラニックストリーム」(Magellanic Stream)が発見されました。

 前回書いたように,大マゼラン雲と小マゼラン雲の両銀河は天の川銀河の衛星銀河で,天の川銀河の周囲を公転しているとずっと思われていました。しかし,宇宙望遠鏡科学研究所のローランド・バンダーマレルらのグループが,ハッブル宇宙望遠鏡を用いて4年間にわたってマゼラン雲内の25か所の場所の移動速度を測定すると,その移動速度が秒速480キロメートルと算出されたのです。この速度は,あらかじめ行れていた推算値よりも数割以上も大きいもので,両銀河が天の川銀河に重力的に束縛されていない可能性を示唆しているのです。
 そこで,マゼラン雲というのはハッブル以来の定説であった「天の川銀河をまわる伴銀河」ではなく別の銀河であって,どこかから天の川銀河の近くにやってきた銀河が,今たまたま近くにあるというだけで,やがて数十億年後には天の川銀河の引力を振り切ってかなたに去ってゆき,その後 天の川銀河とマゼラン雲は再び出会うことは無いのだ,と理解されるようになりつつあるのです。

 大マゼラン雲のなかにあるタランチュラ星雲の中心部には太陽の1億倍で輝くR136と呼ばれる天体があります。これは宇宙で最も明るい天体ですが,ビッグバン直後に作られる青い第1世代の星と同類のものなのです。マゼラン雲のなかにはそうした第1世代の星々が今なおたくさんあるのです。そしてまた,マゼラン雲自体も宇宙創成期期に作られた小さいびつな形の銀河に似ているのです。
 そこで,マゼラン雲はそうした宇宙初期に作られた銀河の生き残りで,それが今,たまたま我々のいる天の川銀河の近くを通り過ぎているのではないか,と考えられるのです。
 すごいでしょう。
 こんなものが空に輝いていて,それが肉眼で見られるなんて,南半球の星空というのは,なんとまあ,すてきではないでしょうか。家の窓から外を見ると現代の世にたまたまネアンデルタール人が歩いてきたようななものです。

 この先はおまけです。
 小マゼラン雲の近くに巨大な球状星団があります。今日の2番目の写真の小マゼラン雲の右側の大きな丸い塊です。これは「きしちょう座47」(NGC104)と呼ばれる天の川銀河に属する球状星団です。明るさは4.0等と,ケンタウルス座のω星団とともに最も明るい球状星団のひとつです。視直径はほぼ満月と同じで,非常に大きなものです。
 たまたま小マゼラン雲のごく近くにありますが,小マゼラン雲に属する天体ではなく,まったく無関係,赤の他人です。
 この球状星団ははじめは恒星と思われていて「きょしちょう座47番星」という番号が与えられて星表に記載されたのですが,球状星団であることがわかった現在でもこの名前でよばれています。なお,「47」はヨハン・ボーデ(Johann Elert Bode)が1801年に刊行した「Allgemeine Beschreibung und Nachweisung der Gestirne」につけられている番号です。

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☆☆☆☆☆☆
 マゼラン雲(Magellanic Clouds)とは,銀河系の近くにあるふたつの銀河である大マゼラン雲(Large Magellanic Cloud = LMC) と小マゼラン雲(Small Magellanic Cloud = SMC) の総称です。
 天の南極に近く,日本やヨーロッパからは見ることができません。私もこれまで見たことがなく,肉眼でどのように見えるのかずっとわかりませんでした。念願の南十字星を見るという夢がかなったので,次はぜひこのマゼラン雲を見たいものだと思いました。
 北半球にあるハワイは南十字星を見ることができますが,マゼラン雲はハワイでは緯度が高くて見ることができません。北半球でもグアム島あたりまで南下すれば地平線ぎりぎりに見られるのですが,もっとマゼラン雲の昇る高度が高いところのほうが美しく見られるので,赤道を越えて南半球のニュージーランドまで行ってきたというわけです。

 行ってはみたものの滞在中ずっと曇っていて見ることができなかったらどうしよう,とそれだけが心配でした。幸いなことに,到着前日までは天気がよくなかったそうですが滞在1日目から天気が回復し,この日に宿泊したクライストチャーチで市街地から少し離れたところまで出かけていって生まれてはじめてこのマゼラン雲を見たときの感動は,今も忘れることができません。そして次の日からは晴れ渡ったもっと空の暗いテカポ湖畔で最上のマゼラン雲を心置きなく見ることができました。
 夜空にこんな星雲状の天体がぽっかりと浮かんでいる姿を肉眼でもはっきり見られる(それもふたつも!)のは,それらを見ることができないところに住む我々にはとても不思議なものです。
 今日は,このマゼラン雲のお話です。

 マゼラン雲は原始時代から知られていたようですが,記録として残るのは,964年ペルシャの天文学者アル・スーフィー(Abd al-Rahman al-Sufi)が「星座の恒星の書」(Kitāb Ṣuwar al-Kawākib al-Thābita) に白い牡牛(Al Bakr)としたのがはじめです。
 北半球に住むヨーロッパ人にその存在が知られるようになったのは1519年から1522年のフェルディナンド・マゼラン(Ferdinand Magellan) による世界一周航海に参加したヴェネツィアのアントニオ・ピガフェッタ(Antonio Pigafetta)が記録してからです。航海では,夜間でも進行方角や自船の位置を確認する必要があるのですが,北極星のある北半球とは違い,南半球で南極星にあたる恒星がないので,白っぽい雲(マゼラン雲)を見つけることでそれを行ったというのです。当然,当時はマゼラン雲とはよばれておらず,この逸話にちなんで「マゼラン」の名が冠されるようになったのはかなり後のことです。

 星々とともに動くから天体であることは自明でしたが,このマゼラン雲の正体は昔から謎でした。
 1800年代,天文学者のジョン・ハーシェル(John Frederick William Herschel)は南アフリカの喜望峰でマゼラン雲のなかに天の川銀河と同じような星雲や星団が存在するのを観測して,天の川銀河とは別の銀河だと考えました。そこで,マゼラン雲までの距離を調べる必要がでてきたのですが,マゼラン雲に属するセファード型の変光星の観測から距離を割り出して,天の川銀河よりも遠い天体だとわかったのです。その距離は約20万光年で天の川銀河の直径の約2倍,アンドロメダ銀河までの距離の約12分の1という天の川銀河にきわめて近いものでした。いて座の矮小楕円銀河 「SagDEG」が発見されるまでマゼラン雲は天の川銀河に最も近いところにあるふたつの銀河と考えられていました。そこで,エドウィン・ハップル(Edwin Powell Hubble)は,マゼラン雲を天の川銀河のまわりをまわる衛星銀河だと考えたのです。
 ところが…。

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☆☆☆☆☆☆
 私は,日本から見られない天の南極あたりの星空のことなどこれまではほとんど知らず,興味もなかったのですが,南十字星だけは何としても見たいものだと思っていました。
 そこで,南十字星見たさに,2016年の春にハワイ島へ行って,マウナケア山麓のオニヅカビジターセンターで山の上に昇ってくる念願の南十字星を見ることができたのですが,そのとき,南十字星からニセ十字の方向に広がる,あまりにも美しい銀河の姿に魅了されてしまいました。
 日本から見ることができない南天の星空というのは,今日載せた星図のわずかな範囲だけなのですが,この範囲にはあまりに多くの魅力的な星空が広がっていたのです。しかし,これまでこの星空に関する情報はほとんど私には手に入らなかったし,日本で出版される星の本にも,日本からは見られない星空のことなど,ほとんど載っていませんでした。
 そこで,今回,この天の南極付近の星空すべてを見たくて見たくて見たくて見たくて,赤道を越え,20時間かけてニュージーランドまで出かけたというわけです。
 日本に帰ってから,撮ってきたこの星空の写真と星図を見比べて,自分なりに調べてみることにしました。今日は,この素晴らしい南半球の星空のなかでも宝石をちりばめたような南十字星からη(イータ)カリーナ星雲のあたりについて書いてみましょう。

 まず,前回書いた南十字座から追ってみます。
 ケンタウルス座のα星リゲルケンタウルスとβ星ハダルを「ポインター」といいます。南の空に明るく輝くこのふたつの1等星はすぐに見つかるので,詳しくない人が南十字星を探すにはそこから左にたどっていって見つけるのです。南十字星は4つの十字架を構成する星と十字架の中にある小さな星がひとつ,合計5個の星の並びからなります。前回も書いたように,南十字を構成する5つの星は,α星アクルックスから順番に時計回りに明るさが並んでいます。見かけ上1番明るいアクルックスは二重星で,双眼鏡ではふたつの星が並んで見えます。一方の明るい星をさらに拡大すると,さらに二重星になるのですが,これは双眼鏡では無理で,望遠鏡が必要だそうです。残念ながら,私は見たことがありません。
 この南十字星の右上に「コールサック=石炭袋」(Coal Sack)があります。
 宮沢賢治の書いた「銀河鉄道の夜」でカムパネルラが消えたという石炭袋がこれで,濃い天の川の中にぽっかりと穴が開いたような感じの暗黒星雲です。写真でわかるように,よく見るとコールサック付近から後で書くηカリーナ星雲にかけてもずっと暗黒部が延びています。背景の天の川が明るい分だけこの暗黒部がきわだってハイコントラストで観察できるのです。
 南十字座のβ星ベクルックスとコールサックの間には「宝石箱」(Jewel Box)と呼ばれる小さくまとまった有名な散開星団NGC4755があります。「宝石箱」とはなんとまた魅力的な名前でしょう! これは望遠鏡でみるとすばらしく見栄えがあるものです。

 南十字星の左側に輝くηカリーナ星雲(NGC3372)は必見です。ちなみにカリーナ(Carina)とはりゅうこつ座のことでηとはりゅうこつ座のη星のことです。この恒星から発するガスが散光星雲を形づくっているのです。
 この周辺は美しい散開星団が取り囲み,さらに銀河も濃い領域でなので,写真では無論のこと肉眼で見てもすばらしく美しいところです。これを見るためだけでも,20時間近くかけて南半球に出かける価値があるというものです。そして,これを見てしまうと,北半球の星空など,もうどうでもよくなってきます。こんな星空も知らずによくもまあ今まで日本なんぞで星を見てきたものだと思ってしまいます。
 ηカリーナ星雲のガスの背景には微光星がたくさんに見えていて,これもまた絶品です。
 そして,ηカリーナ星雲の周辺にある散開星団の美しいこと…!
 東側にはNGC3532,西側にはNGC3114。さらに,その北側には「南天のプレアデス」と称される明るい星で構成される散開星団IC2602があります。この星団は特徴的な星の並びをしていて,数字の「8」の字,あるいはよく見ると長い触角を持った蝶にも見え,さらには尾の長い鳥のようにも見えます。 これはまたθ(シータ)カリーナとも呼ばれているのですが,この星々と他のりゅうこつ座の星がダイヤモンド十字を構成しています。
 さらに,NGC3532, NGC3114, IC2602がηカリーナ星雲を取り囲むように配置していてとてもきれいです。
 最後に,来年の干支にちなみ「走るにわとり星雲」(The Running Chicken Nebula)というのがあるのでこれを紹介しておきましょう。この星雲はηカリーナ星雲とコールサックの間にあるIC2944という星雲とIC2948という「Bok globule」と呼ばれる星形成が起きるガスや塵が高濃度に密集した宇宙の領域のあたりがニワトリが走っているように見えることから名づけられたものです。

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☆☆☆☆☆☆
 前回,オーストラリアで満天の星を見たいと書きましたが,今回,ニュージーランドでその夢がかないました。唯一心配だったのは天候でしたが,幸い,私の訪れた3日間は毎晩ほぼ快晴になりました。
 今日は,そんな南の満天の星のなかで輝く明るい星々のお話です。 
 全天で最も明るい恒星は日本でもおなじみのおおいぬ座のシリウス(Sirius)で,そのあとは,明るい順にりゅうこつ座のカノープス(Canopus)ケンタウルス座のリギルケンタウルス(Rigil Kentaurus)うしかい座のアークトゥルス(Arcturus)こと座のベガ(Vega)ぎょしゃ座のカペラ(Capella)オリオン座のリゲル(Rigel)こいぬ座のプロキオン(Procyon)オリオン座のベテルギウス(Betelgeuse)エリダヌス座のアケルナル(Achernar)ケンタウルス座のハダル(Hadar)わし座のアルタイル(Altair)みなみじゅうじ座のアクルックス(Acrux)と続きます。

 南半球に出かけて星空を見上げると,日本では見ることができない,あるいは見ることがむずかしい,なじみのない1等星が空高く輝いているのに本当に驚かされますが,この時期に見ることができるのは,上にあげた明るい星々のなかでは,シリウス,カノーブス,リギルケンタウルス,リゲル,プロキオン,ベテルギウス,アケルナル,ハダル,アクルックスと,そのほとんどです。
 そのなかでも一番驚くのはカノーブスが非常に明るく輝いていることです。カノーブスは日本では長寿星といわれ,地平線ぎりぎりにしか昇りませんし,地平線に近いので,見ることができたとしてもそれほど明るく感じません。しかし,実はこの星は全天で2番目の明るさを誇っているので,南半球では空高く,堂々と輝いていて,真っ先に見つけることができるのです。
 その次に目につくのはエリダヌス座のα星であるアケルナルです。エリダヌス座という星座自体,日本ではほとんど無名です。晩秋のオリオン座が東の空に昇ってくるころに,その前に昇っているのですが,日本で見られるのは暗い星ばかりなので,私は,そんな星座に明るい1等星があるなどということ自体,まったく認識がありませんでした。

 さて,この季節に南半球に出かけると,南の地平線付近に明るい1等星が2つ輝いています。それはケンタウルス座のα星リギルケンタウルス(右側)とβ星ハダル(左側)です。
 リギルケンタウルスは太陽系から4.39光年しか離れておらず,わが太陽系から最も近い恒星系です。実際は三重連星で,α星A,α星B,そして暗く小さな赤色矮星のプロキシマ・ケンタウリ(Proxima Centauri)から成っています。α星Aとα星Bはひとつの恒星のように見えますが,プロキシマ・ケンタウリは少し離れています。このプロキシマ・ケンタウリは暗いので地球から肉眼では見ることはできませんが,地球に最も近い恒星として知られています。その距離は4.22光年です。
 2016年,プロキシマ・ケンタウリを公転する惑星,プロキシマ・ケンタウリbが発見され,生命がいるのではないかと話題になっています。そこで,小型のスターチップを送り込み,プロキシマ・ケンタウリを探査しようという計画の構想が練られています。

 このケンタウルス座のリギルケンタウルスからハダルに向ってさらに目を進めていくと南十字星を見つけることができます。
 この南十字星,前回は4つの星と書きましたが,もうひとつε星も仲間に増やして,今回は5つの星,として紹介しましょう。この5つの星は明るい順にふたつの1等星α星(三重連星)アクルックス(Acrux)とβ星ベクルックス(Becrux)またはミモザ(Mimosa)(正確にはアクルックスは0.8等,ベクルックス1.3等)1.6等星のγ星ガクルックス(Gacrux)2.8等星のδ星3.6等星のε星です。オーストラリア国旗には南十字星はこのように5つの星として描かれています。それに対してニュージーランド国旗には前回4つと紹介したように,ε星は描かれていません。
 なお,南十字座のまわりには「宝石箱」(Jewel Box)という名で知られる散開星団NGC4755とコールサック(石炭袋)として有名な暗黒星雲があってとても美しく見る人を楽しませてくれますが,このことはまた次回。

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「星好きの三大願望」-満天の星空のもとで南十字星を見る。

夏の銀河nDSC_4186sxn 国旗

 天文ファンが一度は見たいという「三大願望」があります。それは,南十字星,皆既日食,そして,オーロラを見ることです。
 行けば見られる,お金を出せばなんとかなる,ということなら,そうしたいという意志さえあればなんとかなるのですが,そこに「運」が必要なものは,そうしたいという願望があればあるほど,それがかなわないと本当に残念なものです。
 例えば,MLBで見たい選手がいて,わざわざ太平洋を越えて見に行ってもその日にたまたま出場していなかったとか,そうした運の悪さは自分ではどうしようもありません。その気もないのに偶然すごいものに出会う人がいる反面,何度挑戦してもそれがかなわない人がいるのです。そういうときは自分の日ごろの行いがよほど悪いとあきらめるしか仕方がないのでしょうか?!
 
 ところで,この「三大願望」のうち,1番かなえることが簡単なのは南十字星を見ることです。見えるところに出かけて晴れていさえすれば見ることができます。それさえも,運の悪い人は数日滞在しても晴れないのかもしれまんが…。
 それに比べて,最も見ることが困難なのは皆既日食です。
 私は,幸いなことに,これまでに「三大願望」のすべてをかなえたのですが,それでも,ずっと昔のことであったり,なんとなくであったりするので,このごろになって,もう一度しっかり見てみたいと思うようになりました。その目的を果たすためにいろいろ計画を立ててはいるのですが,果たしてかなうことやら…。
 人生とは,かくもしたいことが多いのに,実現できる時間は短いのです。

 その「三大願望」の中で,今日は南十字星のお話です。
 今から30年以上も前にオーストラリアに行ったとき,夜,シドニーの街中にあるホテルに泊まって何気なく窓から外を見たら南十字星が輝いていました。それは5月のことでした。そのときは知らなかったのですが,5月は南十字星を見るのに1番よい時期なのでした。
 そんなことを思い出しては,再びオーストラリアに行って,今度こそは満天の星空のもとで南十字星を見たいと思っているのですが,真剣に考えてみると,天気が心配とか,どこでみればいいのかとか,いろんなことを考えすぎてしまいます。その気もなく行けば見えるのでしょうが,欲が出てくると,今度はなかなかままならないものです。
 ということで,オーストラリアに行って満天の星のもとで南十字星を見るという夢はまだかなっていないのですが,この春,ハワイ島に行って,ついに満天の星空に昇る南十字星は見ることができました。

 みなみじゅうじ座(Crux)は全天88星座の中で最も小さい星座です。
 南十字星はこの星座にある4つの星たちで,英語での通称「サザンクロス」(Southern Cross)からきていて,はくちょう座の中心部の別名「北十字星」(Northern Cross)に対応して付けられたものです。北十字星は4つ以上の星から成っているのですが南十字星は単純に4つの星で構成されていて,私の好きな星座のひとつです。
 英語名「Southern Cross」を,かつて日本では東大系の学者さんたちは「十字」,京大系の学者さんたちは「十字架」と訳していたのだそうですが,1944年に正式に「南十字」と制定されました。
 南十字星は,古代にはローマ帝国でもこの星座を見ることができて,ケンタウルス座に付属するε(エプシロン),ζ(ゼータ),ν(ニュー),ξ(クシー)の4つの星として記録に残されていますが,それらは南十字座のα(アルファ),β(ベータ),γ(ガンマ),δ(デルタ)星にあたるものです。したがって,現在,ケンタウルス座にはこの符号の星は存在しないのです。
 残念ながら,現在では歳差運動の影響で地中海からは南十字星を見ることはできません。
 また,南十字星のある区域を単独の星座としたのは,1679年フランスの天文学者ロワイエ(Augustine Royer)といわれていましたが,実際は,1598年にオランダのペトルス・プランシウス(Petrus Plancius)によって独立した星座として描かれたのが先だそうです。
 そして,正式に星座として確立したのは,18世紀のフランスの天文学者ラカイユ(Nicolaus Louis Lacaille)の南天星図以降のことであるといわれています。
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