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 私は,語学の勉強は好きですが,まるきり才能がありません。しかし,旅行の経験だけは豊富なので,海外に行くと,生きるのに不自由しない程度の英語はできます。これまでの経験で,最も英語が進歩したのは,今から20年近く前にアメリカで交通事故にあって,アメリカの病院に入院したときでしょう。このときは,帰国後,すっかり頭が英語脳になっていたのが,時差ボケの解消のために睡眠薬を処方してもらってぐっすり寝たとき,まるで,タイムマシンに乗ったかのように頭の中がぐるぐる回転して,頭がすっかり日本語脳に入れ替わるという,奇妙な経験をしました。
 今は,ボケ防止と,いつかまた,大好きなオーストリア旅行をしたい,という希望を捨てないために,ほそぼそとドイツ語の学習に取り組んでいるのですが,まるで上達しません。文字を見れば,一応,簡単なドイツ語なら意味はわかるようになったのですが,聞き取れず,また,全く話せません。

 そんな私が,久しぶりに手にした本は,以前,朝日新聞の読書欄に載っていて興味をもった,高野秀行さんが書いた「語学の天才まで1億光年」という本でした。このごろ,まったく活字の読めなくなった私が,334ページもある本をあっという間に読了してしまったことから,いかにおもしろい本であったかがわかるというものです。
 同姓同名の将棋の棋士がいますが,まったくの別人です。
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 1966年生まれの高野秀行さんは辺境をテーマに旅する探検家であり,ノンフィクション作家であり,翻訳家です。20代のころ,アフリカのコンゴの奥地で幻獣「ムベンべ」を探し,ミャンマーでは北部の麻薬地帯「ゴールデン・トライアングル」に潜入。反政府ゲリラ組織でケシ栽培を体験し「ビルマ・アヘン王国潜入記」を著しました。
 「誰も行かないところへ行き,誰もやらないことをし,誰も書かない本を書く」というのがポリシーである高野秀行さんが,探検家としての体験から,数々の言語をいかに習得し,使ってきたかを描いているものです。
 2002年に「西南シルクロードは密林に消える」の取材で,出国スタンプなしで中国を出国し,以降正式な国境検問所を一切通らずにミャンマー北部のゲリラ支配域を横断しインドに入国。在カルカッタ日本大使館員に相談の上インド当局に自首した結果国外追放処分となり,日本に強制送還された。この際に通過したナガランド州が反政府ゲリラ闘争を抱える地であったこともあり,入管のブラックリストに載せられ以降インドへの入国が出来なくなった。というようなエピソードをたくさん残しています。
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 高野秀行さんは,この本の中で
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 私ほど語学において連戦連敗をくり返し,苦しんでいる人間はそうそういないはずだ。
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と書いていますが,何の何の,それはあくまで謙遜で,本当に語学の苦手な私とはまったく違って,多くの言語を,しかも,実地訓練を通じて身につけてしまう人は,そうはいないでしょう。この人が語学を会得するための実地訓練というのが普通ではなくて,実際に現地に行って,その地の人との交わりの中で覚える,というものであるところがすごいというか,私のポリシーと一致するというか。
 人間,20代ははちゃめちゃに行動し,多くの体験を積むべきだと思っている私ですが,高野秀行さんほどの人は知りません。はじめての海外旅行先のインドで身ぐるみはがされ,謎の怪獣をさがしにアフリカのコンゴに出かけ,できもしないイタリア語の医学論文の翻訳を完成させ,タイ・ラオス・ミャンマーにまたがるゴールデントライアングルでケシ栽培を行ってアヘンを作ろうと企てたり…。
 私がかつてロサンゼルスで置き引きにあって,パスポートも全財産も帰りの航空券を失くして途方にくれたなんていうだけの経験では,足元にも及びません。
 ことばは学問ではなく,ましてや,入試で点数争いをするものでもなく,コミュニケーションの手段であるという当たり前のことが当たり前に行われていない,この国の語学教育をあらためて考えさせてくれるすばらしい本です。

 ただひとつよくわからないのが,この本の題名です。語学の天才までは1億光年もの距離がある,というのか,そのくらいの距離を旅すれば語学の天才になれる,というのか。
 ちなみに,1億光年とは,9,461,000,000,000,000,000,000キロメートル(94垓6,100京キロメートル)であり,1億光年先にある天体は二重銀河NGC3314など。ただし,残念なのは,人類が見ることができる最も遠い距離というのは138億光年先なので,もし,この本の題名が語学の天才には手が届かない距離にある,という意味ならば,むしろ,「語学の天才まで138億光年」としたほうがよかったかも。というのは余談です。

NGC3314


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「しない・させない・させられない」とは
「Dans la vie on ne regrette que ce qu'on n'a pas fait.」とは

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