「ウェルカム・ノースダコタ州」の看板の前が広場になっていて,そこで写真を撮る。
ノースダコタ州ではじめて見た風景は,これまでみたことがない地の果てまで続く一面のひまわり畑だった。そして,遠くには,石油を採掘する井戸がいくつも見えた。
車にもどって,さらにしばらく走ると,また,これまでと同じ景色になって,やがて,そして,また,それからかなりたって,やっと,民家やらサイロやらが目に付くようになったころ,ボーマンに到着した。午後6時を過ぎていた。
ここでホテルを探すことにした。
ボーマンという町は交通の要所で,東西を横切る国道12と南北を横切る国道85の交差するところ。半端な長さでないトレーラーが何台も轟音とともに走り抜ける。町は西に観客席のあるスタジアムが唯一のレジャー施設か。それ以外は,国道沿いにガソリンスタンドと売店,いくつかのモーテル,そして,民家・病院・教会・学校があるだけの小さな町だった。
国道85はこの町で少しだけ国道12と同じになって東にずれて,再び進路を戻し,住宅地の中を不似合いに通りぬけて北上を開始する。
町の広さを把握しようと,国道85に沿ってゆっくりと進んでいくと,すぐに町を過ぎてしまい,再びまっすぐな道が続くだけになった。
町に引き返すと,国道12と国道85の交差するところに,よく見ないとわからないほど小さな観光案内所があったので,車を止めて中に入ると,年取ったおじさんが出迎えてくれた。
ノースダコタ州の地図 ―詳しい地図すら持っていなかった― をやっと手に入れて,ボーマンにあるホテルの情報を聞く。
この案内所の南にある「ノースウインズロッジ」というのが一押しだというので,案内所を出てから行ってみたが,すでに空室なしのネオンサインが光っていた。
仕方がないので,少し先の「スーパー8」というホテルへ行ってみる。あまり,きれいでないが,どこでもいい,きょうの宿泊先を確保するのが第一だ。
フロントで部屋があるかと聞くと,あるというので,泊まることにする。フロントのお兄さんの話では,今はシーズンなので,このあたりのホテルはどこも空き部屋なんてないよ。ここで部屋があったのはラッキーだ,ということだった。「このあたり」がどこまでの範囲を言っているのか皆目見当がつかないが,あすからのことを考えると,かなり心配になる。
こんなことは,これまでではじめてだった。シーズンのフロリダでも部屋はあった。
ともかく,チェックインをして,荷物だけを置き,ホテルを出て,徒歩でボーマンの小さな町を歩く。
この町もホームレスは皆無で,民家は,どれも大きくきれいで,車が3台も入るくらいのガレージと清潔な平屋の住居,庭は緑の芝生にしめつくされ,深い木々の緑に覆われた,どこにもあるアメリカの平和な住宅地だった。そして,ここの町にも,町はずれの一角にトレーラーハウスの集落があった。
そんな住宅地が終わる頃,この町でたった1軒であろうと思われるファミリーレストランを見つけたので,夕食をとることにした。他の客は,ド田舎のおじさんやおばさん風ばかりだった。店員さんの英語のなまりがかなりつよい。えらいところに来たように感じた。
食事をとって,再び住宅街を散策するが,少し雨が降ってきたので,早々にホテルに引き上げた。
きょうも,エキサイティングな1日だった。とにもかくにも,ここはノースダコタ州である。
明日は,早朝にホテルを出発して,まず,泊まるホテルを確保しよう,と思った。
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2012アメリカ旅行記-ついに北上開始③
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ルートは,インターステイツ90を西に引き返し,ラピッドシティを越え,ホワイトウッドまで行って,州道34に入り,ベル・フォーシェイという町で国道85に乗ってどんどんと北上して,そのままノースダコタ州に入るというものだ。
だが,これ以上の情報がない。サウスダコタ州の公式ガイドブックにも何も書いていない。事前に調べたところでは,どうやら泊まる施設がありそうな町は,途中の,スピアフィッシュとベル・フォーシェイ。この町を過ぎたら,サウスダコタ州にはもう町はないので,覚悟を決めてノースダコタ州まで走らなければならず,ノースダコタ州に入ってからも,しばらくしてボーマンという町に達したときにホテルが数件あるくらいらしい。
地図を見ても,南北に,定規で引かれたかのような,ひたすらまっすぐに伸びる道があるだけだ。
インターステイツ90を西にスピアフィッシュまで行って,その町で北に進路を変えて国道85に入るのではなく,予定通りにスピアフィッシュの手前のホワイトウッドという町で北西に走る州道34に入って,ショートカット,つまり近道をしてベル・フォーシェイという町まで来たので,スピアフィッシュという町は通らなかった。
したがって,宿泊先の第一候補はベル・フォーシェイだ。この町には確かにモーテルは存在した。予想よりも広い町だった。まず,そこではじめてガソリンを入れた。7.18ガロンで26ドル(約1リットル96円)だった。
まだ午後4時。ラピッドシティを過ぎたあたりで一度雨になった天気はすっかり回復しているし,早いので,ここで宿泊する気にはならず,ノースダコタ州までひたすら走って,ノースダコタ州のボーマンまで行くことにする。
こういう決断が,ときに墓穴を掘ることになるかもしれない。以前,カナディアンロッキーを走ったとき,夜遅くまでホテルが見つからなかったことを思い出して,きょうは大丈夫かな? と思った。
ところが,このあとに走った国道85が,とにかくすごかった。というか,すばらしかった。
とにかく,想像を絶していた。
目に入る景色は,まっすぐにつながる道と遠くに見えるビュート(小高い山)。それ以外は牧草地帯。他に何もないというものだったのだ。すれ違う車もほとんどないのだ。ときおりすれ違うのは,巨大なトレーラーや農作業用の車だけだった。これが1時間以上にわたって続いていたのだ。
まだ,サウスダコタ州である。この先にノースダコタ州があると考えるだけでも,これはいったいなんだという気持ちになった。
遠くに地平線が延々と横たわる。道は,少し起伏があって坂を上ることがあると,上りきったあとで再び下り坂になったとき,眼下に,先ほどのような風景が,延々と果てしなく続いて見える。
この景色を見ただけでも,本当に,「何もない」ということがどういうことか実感できる。
「何もない」というのは,とても神秘的な,そして,感動的な風景だった。
そして,やがて,果てしなく続く,こうした道を,いつまでもいつまでも進んでいくと,やっと,ノースダコタの州境になった。
ついに,念願のノースダコタ州に到達した。
2012アメリカ旅行記-ついに北上開始②
ドアトレイルの次は,はしごを登るトレイルを行くといいと高木さんから聞いていた。
途中にはしごのあるのはノッチトレイルという名のトレイルだということがわかったので,そのトレイルを行く。少し進むと,考えが甘かったことに気がついた。ノッチトレイルはえらく大変だった。
はしごがあるとのことだったが,そこまでの道のりも簡単なものではなかった。第一,ドアトレイルの華やかさに比べて,歩いている人がほとんどいない。次第に,トレイルは,道なき道になる。初めてすれ違った若者に,この先どのくらいあるのかと聞くと,1.5マイルくらいかな,この先クライミングもあるし,エキサイティングだ,でも,楽しいトレイルだ,と言ったので,本当にどうしようかとも思ったけれど,ここまで来て引き返しても後悔するだろうし,そのまま道があるようなないような,時折,行き先の表示だけがある断崖絶壁のような道を,慎重に進む。やたらと暑いし,足場は悪いし,たいへんだった。
やっとあったはしごを延々と登って,でも,登った後も結構長かった。
すると,山の迫った平原のような異様な景色が広がった。
不思議な気持ちがした。
ここの景色は,いつか見たことあるぞ。それは,映画にでてきた火星の1シーンだったか? あるいは,いつか見た夢の中の景色か?
デジャブー,妙な気持ちだ。
ともかく,これは地球の景色じゃない。すごい。この景色に比べたらグランドキャニオンなんて,ほんとにたしたことないぞ,と思った。
そうして,30分も歩いただろうか。やっと終点についたら,眼下には,延々とサウスダコタ州の大地が広がっていた。絶景だった。
来た道を引き返して,やっとのことで車に戻って,汗まみれの体を冷やして,先を急ぐ。
途中のビジネスセンターのあるシーダーパスからは屏風状の岩山がそそり立っているのが見えた。その次は,フォッスルトレイル,つまり,化石の道を歩いた。
イエローマウンズのあたりから,道路が工事中となり,片側一車線の交互通行で,展望台も閉鎖されてしまっていたのは残念だったけれども,最後のピナクルズでは,どうにか展望台で車を駐車することができて,360度広がる地球創世期のような景観を味わうことができた。
公園はこれでおしまい。西側のゲートを出て北上する。やがて,ウォールに着き,ウォールドラッグをめざした。昼時ということもあり,ウォールドラッグは車を止めるのもたいへんなくらいの混雑だった。
このドラッグストアは,ウォールという小さな町のメインストリートの片側全てをこの店が占めていて,ウェスタンブーツからカーボーイハット,先住民アート,書籍,アウトドア用品と何もかもを扱っている。また,裏手には子供用の遊戯施設やら喫茶店やらがあって,昔の写真を集めた展覧会もやっていて,非常に興味深かった。
この店のことは,「語るに足る,ささやかな人生」という本に取り上げられていて,以前,読んだことがあるが,まさか,そこに本当に来るとは,そのときは思ってもみなかった。
有名なバッファローハンバーガーの食べられる食堂は満員だった。バッファローバーガーを注文するところは列ができていて ―なぜか,アーミッシュもいた― やっと自分の番になって,注文したら,中国から留学中の学生だという店員が親しげに話しかけてきた。ひとりでここのバーガーを食べにわざわざ日本から来たといったら,本当にびっくりしていた。
気のせいか少し臭みがあるような感じがしたバッファローバーガーを食べてから,ドラッグの中や周りを少し散策して,車に戻った。
さあ,いよいよノースダコタ州を目指すことにする。
2012アメリカ旅行記-ついに北上開始①
☆4日目 7月24日(火)
朝8時に,予約してあった空港に向かうシャトルバスがホテルに来るので,それまで,近くを散歩することした。
ホテルから南に500メートルくらい歩いたところにファミリーレストランがあって,朝食のセットメニューが表示されてあったので,中に入ることにした。ウエイトレスのおばちゃんも見かけは怖そうだが,話しかけるとやさしいおばちゃんだった。
朝食はオムレツとトースト。コーヒーがよい眠気覚ましになる。飲むたびに思うのだが,こちらのミルクは日本にはない独特な香りがしてコーヒーにほどよく合ってとてもおいしい。
ホテルに戻って,チェックアウトをして,フロント前で待っていたが,ほぼ定刻にシャトルバスが到着した。シャトルバスのドライバーは気さくなおじさんで,雑談をしていたら,10分くらいで空港に到着した。無線を聞きながら運転したりして,たいへんそうだった。20ドルとチップを2ドル払って,握手をして別れた。
いよいよきょうから2日間,レンタカーを借りて,ここラピッドシティからノースダコタ州の州都ビスマルクまで移動する計画であった。
ラピッドシティの空港は小さく,レンタカーのカウンタものんびりしたムードだった。すぐに手続きが終わり,キーをもらって,屋外の駐車場に止めてあった白い車へ向かった。車は,韓国製だった。数年前までは日本製品で溢れかえっていたのに,本当にどこもかしこも韓国製だらけだった。
大都市の空港と違って,レンタカーは係員のいるゲートもなく,そのまま空港から外に出ることができた。車を借りたばかりのころは,いつものことだが,イスの位置,ハンドルの位置,バックミラーの位置などが,自分の運転しやすい状態になじまず,手間どってしまうことがあるので,慎重に運転する。
今日の予定は,まず,ラピッドシティからインターステイツ90を東に1時間あまりのところにあるバッドランド国立公園へ行き,東西にのびるバットランド国立公園を東側から西側に観光して,再びインターステイツ90を西にラピッドシティまで引き返して,さらにラピッドシティを越えてしばらく西に進み,やがてインターステイツ90を離れてサウスダコタ州の西の端を沿うように北上して,ノースダコタ州をめざし,行けるところまで行くというものだ。
最も不安な材料は,今晩の宿泊先だった。とにかく,夜6時をめやすに走って,そこで宿泊先を探そうと思っていた。
空港から出て,インターステイツ90はこちらという標識に従って走ってきたが,途中で,「インターステイツ90BUSINESS」という表示にわけがわからなくなる。そうして,だんだんと,自分のいる地図上の位置もよくわからなくなってきた。なかなかインターステイツ90にたどり着かない。
今回は「BUSINESS」と表示された道路にだまされた。つまり,インターステイツ90とインターステイツ90BUSINESSは全く別の道路なのだ。ともあれ,方向的に間違っていないので,そのうち郊外に出てしまえば,道も少なくなり,なんとかなるだろうと,気にせず走っていくと,やがて,どうにかインターステイツ90にたどり着いた。
インターステイツ90は75マイル(120キロメートル)制限だった。インターステイツ90に乗ってしまえば,あとは,快調に,バッドランド国立公園をめざして東に進む。今走っているインターステイツ90が,7年前の,因縁の,事故に遭った,あのモンタナ州ビュートからつながっているということを思うと,懐かしくなった。
やがて,インターステイツ90の姿は,あたりを見回しても牧草地帯だけでほかに何もない大平原を縫うように描いていく。そうした状況が1時間も続くと,やがて,ウォールという町に近づいて,周りに住宅やら倉庫やらの建物が見られるようになった。インターステイツ90の道路際には,有名なウォールドラッグの巨大な古びた看板がいたるところで目に付くようになった。
バッドランド国立公園の帰りに,ここに立ち寄って,有名なバッファローバーガーを食べることとしよう。
ラピッドシティから約1時間,ウォールを過ぎると,南側のはるかかなたに国立公園の雄大な山々が連なっているのが見えてくる。
バッドランズ国立公園は東側から西側に抜けるコースをとることにしたので,とりあえず,国立公園の西側のアクセスポイントであるウォールから,東側のアクセスポイントであるカクタスフラットという町までさらに進む。それにしても,遠く南側にその影がみえるバッドランド国立公園は雄大だ。
やがて,カクタスフラットに着き,フリーウェイを降りて,南へ少し。国立公園はこちらという道路標示をみて右折したらまもなく国立公園の東側のゲートに到着した。
バットランズループに沿って,ところどころにあるみどころで駐車し,トレイルを散策しながら,公園をめぐることにした。
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公園に入って早々,広い駐車場があったので,そこに車を止めて,まず,ドアトレイルという,一番手前のトレイルを歩く。すぐにトレイルの端に出たが,そこから見る景色は絶品だった。展望できるポイントからは,延々と,この世のものとは思えない景色が続く。これだけでも,グランドキャニオン以上だ。