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 5月30日の天声人語に
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 五月雨に花橘のかをる夜は
  月すむ秋もさもあらばあれ
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という崇徳院が読んだ歌が紹介されています。
 この歌は「千載和歌集」に収められているもので,梅雨どきの橘の花が香る夜は,月が輝く秋でさえもさえどうでもよいほど趣があるようだ。といった意味です。

 千載和歌集には
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 五月雨に浅沢沼の花かつみ
  かつ見るままにかくれゆくかな
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という藤原顕仲朝臣の歌も収められていますが,この歌の中の「花かつみ」というのは,花ショウブのことだそうです。

 この季節は,空気がやさしくて,のんびりと散歩をしていると,心から幸せを感じます。
 そうした散歩道のなかでも,とりわけ,京都の上賀茂神社から東に少し歩いていく小道は,明神川に沿って賀茂の社家が並び,京都ならでは気品を感じさせてくれます。その先には大田ノ沢があって,カキツバタ約25,000株が自生しています。花橘の香るこの時期には,カキツバタは濃淡さまざまな紫色の花をつけます。ここは平安時代からの名所とされていて,尾形光琳の「燕子花(かきつばた)図」のモチーフになったとの言い伝えもあるそうです。

 先に紹介した千載和歌集の編者もある藤原俊成は
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 神山(こうやま)や大田の沢のかきつばた
  ふかきたのみは色にみゆらむ
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と詠んでいます。

 こうして詠われているように,花ショウブやカキツバタは,決して派手ではなく,自分を主張していないけれど,人々の心を温かくしてくれます。そして,紫のしっかりした色彩が,芯の強さを感じさせて,勇気を与えてくれるのです。
 もう少し季節がすすむと,梅雨空が,乾いた空気を湿らせます。そうして,今度は,アジサイが鮮やかな色どりを添えて私たちを和ませてくれるようになるのです。