私は,何事につけ,ムダなことをしたくありませんし,しないように心がけてきました。だから,身につかないような勉強もしなかったつもりだし,必要のない資格もありません。使わないものは買いません。そしてまた,何ごともさりげなくすることが最善だと信じています。何もかも,必要十分を旨とします。
そこで,旅に出かけるときの荷物も,使わないものは一切持っていかないので,1週間程度の旅でも機内持ち込にサイズのカバンひとつです。
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そんなわけで,私が楽しみにしている星見もまた,私が楽しむために必要であると思う最小限の機材しかありません。
趣味というのは恐ろしいもので,たとえば「レンズ沼」という言葉があるように,欲望は底なしなのです。「レンズ沼」というのは,カメラの交換レンズをいくら買ってもさらに欲しくなることですが,それはレンズに限らず,プロでもないのに,新しいカメラが発売されると「買いだ買いだ」とばかりにどんどん購入する人がいるわけです。
ということなのですが,貧乏人の私は,もともとほとんどモノを買わないことに加えて,60歳を過ぎたときに,さらに,新しいモノは壊れたときの買い替え以外は一切しないと決めました。
私が星の写真を撮っている機材は,ハレー彗星が来た1986年ごろ,つまり,30年以上前に20万円以下で購入したものです。今ではもちろん製造中止なので,不具合があれば自分で何とかするしかありません。また,現在市販されているような,自動で星を追尾してくれるオートガイダーなどというものはもちろんついていません。しかし,一応,スイッチを入れると星の動きに合わせて動くし,今売られているものよりずっと作りがいいので,それで満足しています。
この望遠鏡の問題は電源でした。12ボルトの電源が必要というのは,屋外で使うには結構難問で,毎回重いバッテリーを持っていく必要がありました。私は改造して,モバイルバッテリーの電圧を回路で増圧してUSBで接続しこれで動くようにした(モバイルバッテリーの電圧は5ボルトなのでそのままでは使えません)ので,ものすごく便利になりました。また,アリ溝で簡単に組み立てできるようにもしましたし,パーティノフマスクで簡単に正確にピント合わせもできるし,ヒーターで常に夜露がつかないようにもしてあります。また,カメラは安価な中古ですが,天体用に改造してあります。
私が星見に出かける空が暗い場所は,自宅から1時間30分程度ドライブする必要があるのですが,これでは頻繁に出かけるわけにもいきません。そこで,都会に近くて空が明るくても街灯さえなければなんとかなるのではないかと探して自宅から15分で行ける場所を見つけたので,そこで試してみることにしました。そうすれば,出かけて15分,観測場所に到着して,望遠鏡を組み立て,極軸と焦点を合わるまで5分という手際で,20分後にははじめることができ,1時間後には帰宅できます。
そんな次第なので空は明るいのですが,それでも少しでも条件がよいのは明け方です。夜明け前は家から近くとも暗いのです。また,家から近いというのは,明け方に星見をするのにとても楽です。3月1日の明け方も,前の晩に降っていた雨が上がるということだったので,3時30分に起きて,星見に出かけました。予想どおり快晴でした。今日は,そのときに写した写真です。
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先日,夕方の北の空にいくつかの彗星を写しましたが,そのうちの岩本彗星(C/2020A2C/ Iwamoto)とアトラス彗星(C/2019Y4 ATLAS)は北極星に近く,一晩中沈まず, 明け方の空にも見ることができるので,このふたつを狙いました。ともにとても暗いものなので,写るかどうかわからないのですが,そこが楽しいのです。
で,その結果,アトラス彗星は今日の1番目の写真のように,かわいい姿を写すことができました。しかし,岩本彗星は写りませんでした。2番目の写真で赤い〇で囲んだ星々がステラナビゲータというソフトで表示される星,そして,緑色の大きな〇で囲んだ範囲に岩本彗星がある「はず」なのですが…。思ったより暗いのか拡散しちゃったのか,あるいは露出時間がまずいのか???
ところで,今日の4番目の写真は,単に試し撮りとしてこと座のベガを写したものですが,ベガの上左に彗星状の「モノ」が写っていました。こんなところに何の天体もないはずなのに,いったいこれは何なのだろう???
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やっと晴れたか!冬2020⑥-暗い彗星が一杯だけど…
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2番目の星図にあるように,現在,夕方の北の空に暗い彗星がいくつか存在します。どれも暗いのですが,まず,西側にあるものから順番に紹介します。
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●アトラス彗星(C/2019Y1 ATLAS)
2019年12月16日にATLASサーベイによってハワイ・マウイ島のハレアカラ(Haleakala)に設置された望遠鏡 ATLAS-MLO で発見された彗星です。
ATLAS( Asteroid Terrestrial-impact Last Alert System)サーベイは 地球に衝突する可能性のある地球近傍の物体を検出するために設置された口径0.5メートルのロボット望遠鏡で,ハワイ・マウイ島のハレアカラ の ATLAS-HKO とハワイ島マウナロア の ATLAS-MLO があります。
明るさは10等星ほどで低空にあって,まもなく日本からは見ることができなくなります。
●シュワスマン・ワハマン第1彗星(29P Schwassmann-Wachmann)
1927年11月15日にドイツ・ベルゲドルフ(Bergedorf)のハンブルク天文台(Hamburger Sternwarte)のアルノルト・シュヴァスマン(Arnold Schwassmann) とアルノ・ヴァハマン (Arno Arthur Wachmann)が発見した公転周期14.7年の周期彗星です。
2月ころに増光したそうですが,今は暗くなっています。
●アサシン彗星(C/2018N2 ASASSN)(エイサスエスエヌ彗星という表記もあります)
2018年7月11日,ASASSN(All-Sky Automated Survey for Supernovae)プロジェクトによって,南アメリカのセロロ・トロロ(Cerro Tololo)天文台にあるカシアス(Cassius)14センチメートルの探査ユニットで発見されたものです。
ASASSNプロジェクトはオハイオ州立大学の天体検索プログラムで,北半球と南半球の両方に20個のロボット望遠鏡があります。望遠鏡といっても,ニコン(Nikon)の400ミリF2.8の望遠レンズに ProLine PL230 のCCDカメラをつけたものです。
北極星近くにあるのですが,これからは暗くなって見ることが困難になります。
●パンスターズ彗星(C/2017T2 PanSTARRS)
2017年10月2日,ハワイ・マウイ島のハレアカラにある1.8メートル Pan-STARRS1望遠鏡で写したCCDの画像から発見されたものです。
明るくなるという前評判でしたが,8等星止まりというところです。しかし,北極星に近く最も見つけやすい彗星です。
●岩本彗星(C/2020A2 Iwamoto)
アマチュア天文家の岩本雅之さんが今年の1月16日,自宅ベランダの400ミリの望遠鏡にカメラを取り付けて写した画像から発見したものです。
14等星という予想より明るく11等星ほどまでになったようです。
●アトラス彗星(C/2019Y4 ATLAS)
2019年12月28日にATLASサーベイによってハワイ・マウイ島のハレアカラに設置された望遠鏡 ATLAS-MLO で発見されたものです。
現在は12等星ほどですが,これから5月にかけて太陽に接近して明るくなると期待されています。日本では5月の半ばころまで夕方の北から北西の空に見えます。
ということで,満天の星空を堪能したハワイから帰国して,天気がよかった2月26日の夕刻,北の空が暗いいつもの山へ星見に出かけました。ハワイには望遠レンズを持っていかなかったので,こうした暗い彗星とは縁がありませんでした。
現地に到着して慌てて望遠鏡を組み立て極軸を合わせて,西の空に見えている彗星から順番に写していきました。早くしないとどんどん沈んでいきます。
まず,アトラス彗星(C/2019Y1)を写したのですが,低空で,かつ,空が明るく写りませんでした。次に,シュワスマン・ワハマン第1彗星をねらったのですが,写した位置を間違えました。ただ,うまくその位置を写すことができたとしても,写ったかどうかわかりません。
気を取り直して,その次に,アサシン彗星を写しました。それが今日の3番目の写真です。かろうじて存在が確認できます。さらに,岩本彗星を写したのが4番目の写真です。この彗星もかろうじて存在が確認できますが,前回家の近くで写したときよりだめでした。やはり,夕刻の低い空に彗星を写すのは大変です。
さて,いよいよ控えるは期待のふたつの彗星です。
まずはパンスターズ彗星です。それが5番目の写真ですが,この彗星は他の彗星に比べれば明るく,今回もまた,尾をひいたかわいい姿を捉えることができました。この彗星はもっと明るくなるという予想だったので明るくならず残念ですが,このくらいの姿もまたかわいくていいものです。
そして,最後がアトラス彗星(C/2019 Y4 ATLAS)です。おおくま座のβ星,つまり,北斗七星の柄杓の2番目の星「メラク」(Merak)の近くにあるので場所は簡単に特定できるのですが,13等星くらいなので写るかどうか,というのが問題でした。それに加えて,この彗星が M97惑星状星雲(ふくろう星雲),M108銀河 と同じ画角に入るということを写すまで知らなかったので,一緒に写せることにびっくりしました。これなら何としてでも写そうという気になってきました。この彗星を写すのは天頂に近いので最後にしていたのですが,なんと,写しだしたら曇ってきました。なんども雲に邪魔されましたが,これを写さなければ帰るに帰れないと祈っていたら雲が切れて,なんとかモノにできました。それが今日の1番目の写真です。
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このようにして,この晩もまた,美しい星空を堪能することができました。
日本の濁った汚い夜空は,星野写真を写すには向いていなくて望遠鏡を使って暗い彗星の写真を写すことが達成感があり,一番ストレスのない楽しみ方だなあといつも思います。
やっと晴れたか!冬2020⑤-美しきたそがれとかはたれ
今日の1番目の写真は,2月11日の夕方,日没前の西の空を写したものです。この日の日没後の西の空には,地平線近くに前日東方最大離隔を迎えた水星,そして,かなり高いところに金星が輝いていました。そして,2番目の写真は,2月19日の明け方,日の出前の東の空を写したものです。日の出前の東の空には,月齢24.9の月と,火星,木星,土星が輝いていました。月のあるあたりはいて座で,写真の構図からははずれていますが,火星のさらに右にはさそり座が見えました。
この2枚の写真を合わせると,太陽系の惑星のうち,水星から土星までがすべて写っています。さすがにこの写真には写っていませんが,1番目の写真の水星と金星の間には海王星もいます。残念ながら天王星は金星よりも高い高度にあって,写真の構図からははずれています。
地球の軌道よりも外側にある外惑星とよばれる火星,木星,土星は一晩中見られるのですが,地球の軌道よりも内側にある内惑星とよばれる水星と金星は太陽からある角度以上は離れないので,深夜には見ることができません。そこで,このふたつの惑星の写真を写そうと思えば,このように,夕方あるいは明け方の空ということになります。
夕方や明け方の空は,みごとな色に変化するので,とてもきれいです。そこで,そうした空に星が輝くのを見ていると時間が経つのを忘れますが,それもわずかな時間,夕方であれば暗くなってしまうし,明け方であれば,空が白んでしまいます。
夕日が沈むのや朝日が昇るのを見にいくことに人は惹かれるのですが,実は,夕日は沈む前も沈んだ後も,しばらくは美しい空の色の変化を楽しむことができます。それに反して,朝日は,日の出前,しかも,日の出の1時間ほど前の空の変化が最も美しく,日の出を過ぎてしまうとまったく美しくなくなってしまうのです。しかし,太陽が昇る1時間ほど前の東の空は,夕焼け以上にほんとうにすばらしいものです。それだけでも美しいのに,そこに,こうして,惑星や月があると,まさに,これ以上すばらしいものがほかにあるのだろうかという気持ちにさえなります。
この写真を撮った2月19日は,この写真を撮るわずか10分前はぎっしりと雲に覆われていて,ほとんど星が見えませんでした。しかし,明け方の空というのはあっというまに雲が消えたり現れたりするのです。そこで,日常生活で,朝起きて窓を開けたとき快晴であっても,その日に日の出がみられたかどうかはわからないのです。また逆に,星を見にいって明け方まで満天の星空が輝いていても,日の出を過ぎるとすっかり曇ってしまうこともよくあるのです。
私は,これまで,いろんなところに出かけたり,星空を見てきたりしましたが,どこに行くよりも,また,深夜に満天の星空を見るよりも,家の近くであっても夕方や明け方の空の変化のほうがより美しいと,このごろ思うようになりました。
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誰彼 我莫問 九月 露沾乍 君待吾
誰そ彼と われをな問ひそ九月(ながつき)の 露に濡れつつ 君待つわれそ
誰だあれはと私のことを聞かないでください 月の露に濡れながら愛しい人を待っている私を
「万葉集」巻10・2240 柿本人麻呂
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「誰そ彼」は「黄昏(たそがれ)」。日暮れ時は精霊の跳梁(ちょうりょう)する禍々(まがまが)しい時。人の見分けがつかないので「誰そ」と問うが,男が女の名前を問うのはプロポーズの意味ももっていた。名を明かすのはそれをお受けしますということ。
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阿加等伎乃 加波多例等枳尓 之麻加枳乎 己枳尓之布祢乃 他都枳之良須母
暁の かはたれ時に 島蔭を 漕ぎ去し船の たづき知らずも
暁の薄明かりの時に島陰を 漕ぎ去った船がなんとも心細く思えることよ
「万葉集」巻20・4384 他田日奉得大理
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夜明け前は「彼は誰(かはたれ)」。夜明け前も人の顔が判別できないので「あなたは誰」と問う。そんな「かはたれ」時に出ていく防人を乗せた船を不安げに見ているという歌。
やっと晴れたか!冬2020④-14等星の岩本彗星が写った。
次の記事は朝日新聞からの引用です。
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アマチュア天文家の岩本雅之さん(65)が新たな彗星をカメラでとらえ,日本時間の1月16日,国際天文学連合が「Iwamoto」と命名した。
岩本さんは,日中はイチゴ農家として働き、未明には自宅ベランダの400ミリの望遠鏡にカメラを取り付けて星空を撮る。今回の発見は1月9日。午前5時39分,撮影した画像にうっすらと緑がかった天体があることに気づき,1分後に撮った画像と合成するとわずかに東に移動していた。
高性能の天体望遠鏡や人工衛星が増えたことでアマチュアの活躍する場は少なくなった。2019年に発見された新彗星のうちアマチュア天文家によるものはわずかにふたつだった。
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ということで,世界中の大型望遠鏡による大規模天体捜索によって,アマチュア天文家による彗星捜索など時代おくれになった今,このような発見がまだあるのが驚きです。
岩本彗星(C/2020A2)。この彗星は,残念ながら14等星と暗く,この先も明るくなりません。しかし,日本人のアマチュア天文家の発見した彗星ということで,なんとか写してみようと思っていました。それに,どのくらい暗い彗星が写るのかということも興味がありました。
現在,彗星はこと座にあって,明け方の東の空に見えます。2月1日の早朝は晴れそうだったので,早起きして北の方角にある山に1時間かけて行きました。しかし,到着したころには全天が曇ってしまいがっかりしました。春や秋の移動性高気圧とは違って,冬型の気圧配置は北西にある高気圧から風が舞ってくるので,突然曇ってしまうのです。それも快晴だった空がわずか数分で全天曇りになってしまうのです。私はこれまで星見に出かけていって曇ったという経験がほとんどなく,ショックでした。
これであきらめようとも思いましたが,納得がいきません。しかし,連日1時間以上かけて早朝に遠出する気にもならなかったので,先日,国際宇宙ステーションやパンスターズ彗星を写した自宅から15分ほどの場所に行ってみることにしました。そこは単に街灯がないだけで町に近く空全体が明るい場所です。それでも先日星見に行った南の空が暗い場所で,明るい北の空でも15等星が写ることを確かめたので,ひょっとしたら写るかも,という淡い期待がありました。ともかく,何事もやってみなくてはわかりません。
翌2月2日その場所に行ってみたのですが,この日もまた,家を出たときは晴れていたのに到着したら全天曇りでした。こうなると逆にやる気になるというものです。そしてその翌日の3日。この日もまた到着したら薄曇りでしたが,北極星や北斗七星,そして,こと座のベガは見えていました。それでもこれだけ雲があってはどうしようもなくよほど帰ろうと思いましたが,次第に雲が薄くなってきたので,ともかく望遠鏡を組み立てました。
双眼鏡でこと座の1等星ベガのあたりを見ると,なんと,多くの星が見えました。彗星自体は見えませんが,彗星のある場所の星の並びはわかりました。これならと,だめもとで写真を数枚露出を変えて写して帰宅しました。
家で確かめてみると,露出を多めにかけたものは全体に白くなって星が消え,露出をかけなかったものの方が多くの星が写っていました。そして,予報の位置に彗星の像が確認できました。
…というわけで,けっこう明るい夜空で,しかも薄雲の空で14等星の彗星が写るのはかなりの驚きでした。今のディジタルカメラはすごいものだと思いました。これならこの先,気楽に毎晩でも彗星をねらって写真を楽しめそうだなあ,とうれしくなりました。
やっと晴れたか!冬2020③-二重星団に接近した彗星
☆☆☆☆☆☆
ペルセウス座の二重星団(Double Cluster)はふたつの散開星団が近接して見えるのでこの名でよばれています。2番目の写真のように,双眼鏡でカシオペア座のγ星とδ星を視野に入れてδ星の方向に視野ひとつ半だけペルセウス座に動かすとだれでも簡単に見るけことができますし,空が暗いところなら肉眼でも見ることができます。
1603年,ヨハン・バイエル(Johann Bayer)によって,西側(カシオペア座に近いほう,経度の小さいほう)の星団にh (h Persei),東側(キリン座に近いほう,経度の大きいほう)の星団にχ (χ Persei) のバイエル符号が振られたため,「h+χ」(エイチカイ)ともよばれます。
NGCカタログ(NGC Catalogue)=星雲目録を元にジョン・ハーシェル(Sir John Frederick William Herschel)が作った5,079個の星雲・星団を含む天体カタログであるジェネラルカタログ(General Catalogue)にジョン・ドレイヤー(John Louis Emil Dreyer)が追補して1888年に発表したもの= では西側の星団がNGC869,東側の星団がNGC884,Mel(メロッテ)カタログ(Melotte Catalogue)=フィリベール・ジャック・メロッテ(Philibert Jacques Melotte)がフランクリン・アダムズ写真星図から245個の星団を拾い出し1915年に作成したカタログ= では西側の星団がMel13,東側の星団がMel14となっています。
このふたつの散開星団はペルセウス座OBアソシエーション =同じ起源を持ち重力的な束縛からは解放されているが,未だ宇宙空間を共に移動している恒星で構成される非常に緩やかな散開星団(アソシエーション)のうちO及びBのスペクトル型を持つ10個から100個の大質量星を含むもの= の中核を成していて,誕生してから約1,400万年が経過しています。しかし,二重星団にはメシエ番号がついていないので,「iステラ」のようなアプリにはこの星団が表示されず,とまどうことがあります。
現在10等級より明るく見えている唯一の彗星であるパンスターズ彗星(C/2017T2)がこの二重星団に接近しているので,写真を撮ることにしていたのですが,いつものようになかなか晴れません。なんとか晴れ間が見えた1月29日,自宅から15分くらいの,暗くないのですが街灯がない場所へ出かけました。ところがにわかに曇りはじめて,大急ぎで極軸を合わせ終わったら北極星のあたりは曇ってしまい,それでも幸運にペルセウス座のあたりだけまだ雲がなかったので祈る気持ちで視野に入れて失敗したらもう写せない! と露出したのですが,1番目の写真のようにきれいに写りました。その間わずか10分でした。今日は私が星を写している機材の写真も載せましょう。これが3番目の写真です。
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彗星の写真を写した日のお昼間,試し撮りで太陽を写してみました。太陽にはこのところまったく黒点がないので,写しても丸い円がうつるだけで何のおもしろみもありません。今日もだめだろうと思っていたのですが,4番目の写真のように,小さな黒点が写りました。
☆ミミミ
2月1日の月齢は7.4。このとき,月のクレーターの影が文字「X」の形に浮かび上がるので,これを「月面X」とよんでいます。月齢も時間とともに変化します。この晩,午後6時ごろには「X」は浮かび上がっていなかったのですが,午後8時ごろにはあざやかな姿が浮かび上がりました。
やっと晴れたか!冬2020②-はたして何等星まで写るのか?
私が星に興味をもった今から50年ほど前にはカラーフィルムの性能が悪く,感度の高いものはモノクロフィルムしかなったので,星の写真はほとんどがモノクロでした。しかし,モノクロフィルムも赤色の感度が悪かったので,ペテルギウスのような赤い星は3等星くらいにしか写りませんでした。そこで今,ペテルギウスが減光しているといわれても,そして写された写真を見ても,当時の見慣れた写真よりもずっと明るく写るので,別に暗いとも思わないし,私は何か違和感すら感じます。
それからしばらくして,カラーフィルムがISO400(当時はASA400といいました)という「高感度!」でも実用になりました。一般のフィルムで大きなシェアを握っていたのは「フジ」でしたが,当時フィルムを販売していたもうひとつのブランドであった「さくら」(小西六,のちのコニカ,そしてミノルタと合併してコニカミノルタ)のフィルムは赤色の発色がよいということで,天体写真マニアだけには定評がありました。
その後,103aEというフィルムがコダックから開発されました。モノクロではありましたが「HⅡ領域」が写るということで,一部のマニアがそれを取り入れて以来,散光星雲が脚光を浴びるようになりました。
散光星雲(diffuse nebula)というのは,かつては可視光によって観測できる比較的広い範囲に広がったガスや宇宙塵のまとまりである天体をいいました。今では散光星雲は古い用語となって,散光星雲はさらに輝線星雲,輝線星雲と反射星雲,さらには暗黒星雲や超新星残骸まで含めたり含めなかったりというように,用語が混乱しています。
この,いわゆる散光星雲のうち輝線星雲は,近くに存在するスペクトル型がO型かB型の高温の恒星からの紫外線によって構成成分の水素ガスが電離させられてその原子核と電子の再結合によるバルマー系列の輝線を放射しているもので,電離水素原子を意味する「HII」が存在する領域ということで「HII領域」とよばれています。
天文学では電気的に中性の原子にはその元素記号にローマ数字の I を,1階電離されている場合には IIを,2階電離では IIIをつけて表記します。そこで,電離された水素原子(陽子)を「HII」というのです。ちなみに学校で習ったように水素の分子は「H2」で,これとは違います。
この「HⅡ領域」が赤いので,これまではなかなか写真に写らなかったわけです。
現在はディジタルに変わったので,そうした過去のことはおとぎ話のような気がします。私は当時の最新技術を使って美しい「HⅡ領域」の写真をモノにしていた人たちをうらやましく思っていたものですが,今ではそんな苦労をしなくても,だれでも簡単に,同じような,というより,それ以上の写真をうつすことができるようになりました。ただし,それでもはやり「HⅡ領域」を写そうとすれば,市販のディジタルカメラでは写りが悪く「IR改造」が必要になるのですが,そうした技術的なことはここでは書きません。
ちなみに,一般のディジタルカメラは撮影された画像のカラーバランスを人間の色感覚に基づいて自然に整えるために,撮像センサー自体のカラーバランスを調整するための特殊な色調整フィルターを内蔵させています。この色調整フィルターを取り除くと撮像センサーに入射する光がカットされなくなるので有効感度が上昇し,特に赤く輝く散光星雲などから放たれる「HⅡ領域」の感度が大幅にレベルアップし色彩豊かな美しい写真が撮れるようになります。これが「IR改造」です。
このように,天体写真は,今も昔も赤色を写すために葛藤しているのです。
特にオリオン座の近くには「HⅡ領域」が数多くあって,「IR改造」したカメラを使うと,おもしろいほど簡単に写すことができます。そこで,今日は,そうしたものからいくつか紹介します。
1番目の写真はIC405,通称「まがたま星雲」(Flaming Star Nebula)です。IC405はぎょしゃ座にある散光星雲です。散光星雲の中心にあるのは不規則型の爆発型変光星であるぎょしゃ座AE星です。この散光星雲は約5光年にわたって広がっています。
2番目の写真はIC2177,通称「わし星雲」です。IC2177はいっかくじゅう座とおおいぬ座の境界にある散光星雲です。翼を広げた鳥の姿に見えることから日本では「わし星雲」,英語では「Seagull(かもめ)Nebula」の愛称があります。ちなみに,これとは別のM16も「わし星雲」という名でよばれるので混乱します。
そして,3番目の写真はNGC2237,通称「ばら星雲」です。ばら星雲(The Rosette Nebula)はいっかくじゅう座に位置する散光星雲で,写真に写すと真紅のバラの花飾り(ロゼット)のような姿に見えることからこうよばれています。中心にあるのはいっかくじゅう座12番星を中心とする散開星団NGC2244です。
さて,こうした写真を撮っていて,これまでずっと気になっていたのは,1分ほどの露出でどのくらい暗い星が写るのだろうか,ということでしたが,特に調べたことはありませんでした。そこで,今回,それを調べるつもりで,北極星付近の星野写真を写してみました。それが4番目と5番目の写真ですが,白黒を反転させてあります。4番目の写真の左の明るい星が北極星で,その右側の「□」で囲ってある部分を拡大してみたのが5番目の写真ですが,この「□」で囲ってある範囲は,天文年鑑の「北極標準星野」(2020年版だと381ページ)に掲載されているのと同じ範囲です。
これを調べてみると,15等星くらいまでは確実に写っています。私が天体の写真を写している場所は,北の空は本当に条件が悪く肉眼では北極星しか見えないくらいの場所です。南はかろうじて天の川が見えます。そうした場所で,しかも1分ほどの露出で,北の空で星がこれだけ写ってしまうというのが驚きです。これを見ると,14等級くらいの彗星も写るのかなあと思うので,今度,試してみたいと思います。すごい時代になったものです。
やっと晴れたか!冬2020①-続・ペテルギウスの減光と彗星
今年は冬もめったに晴れません。星見というのはもっともコストパフォーマンスの悪い趣味で,もともと星に興味のない人が本に書かれたようにして写真を写そうとさまざまな機材をかったところで,お金をどぶに捨てるようなところがあります。また逆に,すばらしい星の写真を写している人のなかにも,星についてはまったく知らないという人もいます。趣味というのも人それぞれです。
私は,晴れるという予報があれば星見に出かけるようにしていますが,私の目的は,とにかく,面倒なことはしない,お金をかけない,苦労をしない,そして,楽しむ,なのです。
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1月21日の晩は,久々に晴れるという予報でした。天気図を見ると一晩中晴れそうでした。しかし,私は深夜には帰宅したので知りませんが,実際は明け方には曇っていたようです。
私は,ここ数年,南半球に何度も出かけたり,ハワイに行ったり,信州に行ったりという機会がずいぶんあったので,すでに,満天の星空を心置きなく楽しみたいという夢は飽きるほど実現して,以前のような情熱はなくなっていて,それよりも,人のいない,しかも自宅からさほど遠くない場所で,空の条件がさほどよくなくてものんびりと星空を眺めることで満足できるようになってきました。
ということで,この晩は,昨年末にも写したパンスターズ彗星とオリオン座,そして,いくつかの散光星雲を写すことにして出かけました。
パンスターズ彗星(C/2017T2)ははじめの予想ほど明るくならないのですが,それでも9等星くらいなので,簡単に写ります。しかし,この晩は存在するという場所を写した画像をいくら見てもなかなか彗星が確認できません。彗星は思っていたほど大きくも明るくもなく,拡大してやっと見つけました。
彗星のいる位置が銀河の中で星が多く,見分けがつきにくかったのも理由でした。彗星はこの先もまだ当分見ることできるので,もう少し明るくなるのを期待したいものです。
望遠鏡の直焦点での撮影を終えて,次に35ミリカメラにレンズをつけて写すことにしました。
今回から写すシステムを変えたので,その実験も兼ねました。
さて,ペテルギウスの減光で,明日にでもペテルギウスが爆発するのではないかと話題になっています。しかし,このところ減光も底を打ち,増光に転じたという情報があったので,また,写すことにしました。とはいえ,写真ではそんなことはわからないので,単に記念で写しただけです。オリオン座はちょうど50ミリレンズくらいの画角できちんと収まるので楽です。ただし,オリオン座全体に分布する散光星雲が美しいのですがこれを写すにはちょっとしたコツがあるので,これを捉えるのがまた,おもしろいのです。
この時期,オリオン座は11時ごろに南中するので,冬の南の星空はとても賑やかです。夏の星空と違って冬は夜が長いので,これまでもずいぶんとこのあたりの写真を写しました。どれだけ写しても飽きないものです。オリオン座のあとは,180ミリの望遠レンズに変えて,いくつかの散光星雲を写してみることにしました。この続きはまた次回。