シリウスはシリウスAとシリウスBから成る実視連星ですが,シリウスAが明るすぎるために,暗いシリウスBを見ることが困難です。シリウスBはシリウスAの周りを楕円軌道で周っていて,現在,もっとも離れた場所にあるからひょっとして見ることができるかも,ということで,「シリウスBを見てみたい」として挑戦したのですが,私の小さな望遠鏡ではうまくいかず,そのとき,これまでシリウスに限らず,実視連星を見たことすらなかったことに気づいた私は,まず,手ごろな実視連星を例に,どのように見えるのか試してみることにしました。
このブログは天体現象の紹介ではないので,うまくいかなければそれはそれでいいし,そんなことを書いているようなブログも他にはほとんどないので,これはこれで意義があることでしょう。
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その前に,実視連星とは何か? について書きますが,実視連星と似た言葉に2重星というものがあって,混乱します。また,星図には実視連星は2重星として記載されています。
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2重星(double star)とは天球上で極めて接近して見えるふたつの星のことをいいます。
天球上で接近して見えるふたつの星には,①距離の大きく異なるふたつの星がたまたま視線方向が近いために接近して見えるものと,②実際に万有引力によってお互いの周りを回っているものがあります。前者①を「見かけの2重星」といい,後者②を「実視連星」(visual binary star)といいます。
また,連星は実視連星だけでなく,眼視ではわからないものもあり,それらは,分光連星(spectroscopic binary star),食連星(eclipsing binary star),位置天文的連星(astrometric binary star)と分類されていますが,星見の対象ではありません。
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2重星については,以前紹介したことがある藤井旭さんの書いた「星座ガイドブック」に,星座ごとに見ることができる主だったものについて詳しい紹介があります。この本のすごいところは,藤井旭さんが実際に2重星を見てそれをもとに書いていることです。
そこでまず手はじめに,おおいぬ座のおとなりの星座で,明るい星の多いオリオン座=5番目の写真 にある比較的容易に見ることができると書かれた2重星をいくつか見てみることにしました。
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●オリオン座δ(デルタ)星「ミンタカ」 (Mintaka) =1番目の写真
中央の三つ星の一番右側の星は,2.5等星Aaと53秒あまり離れた6.9等星Abから成る実視連星です。
この連星は望遠鏡を通して,眼視でもとてもきれいに見えて,思わず引き込まれました。写真でもはっきりとわかります。
実際は,δ星は,5.732日の周期で周回するAa1とAa2からなるAa星系とその周囲を346年以上の周期で周回するAbの3重連星で,さらに,これらに加えて,B,Cが存在する5重連星だそうです。
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●オリオン座ζ(ゼータ)星「アルニタク」 (Alnitak) =2番目の写真
三つ星の一番左側の星は,2.1等星Aと2.4秒はなれた4.2等星Bから成る実視連星です。
私の小さな望遠鏡ではなかなか見づらいものでした。写真では,明るい星の左下に重なるようにくっついて写っています。
この星も,実際は、Aは2等星で太陽の33倍の質量と20倍の半径を持つ青色超巨星Aaと太陽の14倍の質量と7.3倍の半径を持つ青白い準巨星Abから成っていて,7.3年で公転しあっています。そして,BはAの周りを約1,500年かけて公転する青色巨星だそうです。
また,10等星Cもあるのですが,これはたまたま同じ方向にあるだけで連星系を成していないということです。
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●オリオン座β(ベータ)星「リゲル」(Rigel)=3番目の写真
オリオン座の右下の星「リゲル」は0.3等星Aと9度離れた7.0等星BCから成る実視連星です。
簡単に見えると思ったのですが,明るい星はその明るさが邪魔をして,暗い星が隠れてしまいます。実際見てみると,想像以上に明るいほうの星がキラキラと輝いて暗い星が隠れてしまうのでまったく手に負えませんでした。写真では明るい星の右下にこれもまた重なるようにかろうじて写っていました。
実際は,Aは青色超巨星であり,BCはBとCからなる連星で,さらに,BはBaとBbからなる分光連星だそうです。
このように,2重星というのは,はっきりと分離して見えるととても感動するのですが,小さな望遠鏡では見るのには苦労するものが多いことがわかりました。私はそれがわかればそれで満足だったのですが,多くの人は,こうしたことが理由で,次第に大きな望遠鏡が欲しくなっていくのでしょう。こうして「望遠鏡沼」にはまるのです。
私は,自分の望遠鏡ですら,今回はじめて2重星を見たのだからよくわからないのですが,おそらく,2重星は望遠鏡のレンズの性能によってずいぶん見え方が異なるのではないかと思います。性能のよい望遠鏡を買おうという人は,こうした2重星を見比べてから判断するのがいいのかな,と思いました。しかし,お店ではなかなかそれができません。
なお,4番目の写真はこの日新たに写したシリウスです。今回は何枚も写して比べてみたのですが,やはり,シリウスBは写っているのやらいないのやら,判断がつきかねました。いずれにしても,2重星なら遠出しなくても家のベランダからでも眺めれるし,見えたは見えたで,見えなければ見えないでどちらもおもしろいことがわかったので,これからも,オリオン座以外の多くの2重星を見て楽しみたいと思います。
いい経験をしました。
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2のそろい踏み。
昨晩の2022年2月22日22時22分22秒。
ちょうどこの時間,外の気温は摂氏2度,月齢は22でした。
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「しない・させない・させられない」とは
「Dans la vie on ne regrette que ce qu'on n'a pas fait.」とは