私が星に興味をもった今から50年ほど前にはカラーフィルムの性能が悪く,感度の高いものはモノクロフィルムしかなったので,星の写真はほとんどがモノクロでした。しかし,モノクロフィルムも赤色の感度が悪かったので,ペテルギウスのような赤い星は3等星くらいにしか写りませんでした。そこで今,ペテルギウスが減光しているといわれても,そして写された写真を見ても,当時の見慣れた写真よりもずっと明るく写るので,別に暗いとも思わないし,私は何か違和感すら感じます。
それからしばらくして,カラーフィルムがISO400(当時はASA400といいました)という「高感度!」でも実用になりました。一般のフィルムで大きなシェアを握っていたのは「フジ」でしたが,当時フィルムを販売していたもうひとつのブランドであった「さくら」(小西六,のちのコニカ,そしてミノルタと合併してコニカミノルタ)のフィルムは赤色の発色がよいということで,天体写真マニアだけには定評がありました。
その後,103aEというフィルムがコダックから開発されました。モノクロではありましたが「HⅡ領域」が写るということで,一部のマニアがそれを取り入れて以来,散光星雲が脚光を浴びるようになりました。
散光星雲(diffuse nebula)というのは,かつては可視光によって観測できる比較的広い範囲に広がったガスや宇宙塵のまとまりである天体をいいました。今では散光星雲は古い用語となって,散光星雲はさらに輝線星雲,輝線星雲と反射星雲,さらには暗黒星雲や超新星残骸まで含めたり含めなかったりというように,用語が混乱しています。
この,いわゆる散光星雲のうち輝線星雲は,近くに存在するスペクトル型がO型かB型の高温の恒星からの紫外線によって構成成分の水素ガスが電離させられてその原子核と電子の再結合によるバルマー系列の輝線を放射しているもので,電離水素原子を意味する「HII」が存在する領域ということで「HII領域」とよばれています。
天文学では電気的に中性の原子にはその元素記号にローマ数字の I を,1階電離されている場合には IIを,2階電離では IIIをつけて表記します。そこで,電離された水素原子(陽子)を「HII」というのです。ちなみに学校で習ったように水素の分子は「H2」で,これとは違います。
この「HⅡ領域」が赤いので,これまではなかなか写真に写らなかったわけです。
現在はディジタルに変わったので,そうした過去のことはおとぎ話のような気がします。私は当時の最新技術を使って美しい「HⅡ領域」の写真をモノにしていた人たちをうらやましく思っていたものですが,今ではそんな苦労をしなくても,だれでも簡単に,同じような,というより,それ以上の写真をうつすことができるようになりました。ただし,それでもはやり「HⅡ領域」を写そうとすれば,市販のディジタルカメラでは写りが悪く「IR改造」が必要になるのですが,そうした技術的なことはここでは書きません。
ちなみに,一般のディジタルカメラは撮影された画像のカラーバランスを人間の色感覚に基づいて自然に整えるために,撮像センサー自体のカラーバランスを調整するための特殊な色調整フィルターを内蔵させています。この色調整フィルターを取り除くと撮像センサーに入射する光がカットされなくなるので有効感度が上昇し,特に赤く輝く散光星雲などから放たれる「HⅡ領域」の感度が大幅にレベルアップし色彩豊かな美しい写真が撮れるようになります。これが「IR改造」です。
このように,天体写真は,今も昔も赤色を写すために葛藤しているのです。
特にオリオン座の近くには「HⅡ領域」が数多くあって,「IR改造」したカメラを使うと,おもしろいほど簡単に写すことができます。そこで,今日は,そうしたものからいくつか紹介します。
1番目の写真はIC405,通称「まがたま星雲」(Flaming Star Nebula)です。IC405はぎょしゃ座にある散光星雲です。散光星雲の中心にあるのは不規則型の爆発型変光星であるぎょしゃ座AE星です。この散光星雲は約5光年にわたって広がっています。
2番目の写真はIC2177,通称「わし星雲」です。IC2177はいっかくじゅう座とおおいぬ座の境界にある散光星雲です。翼を広げた鳥の姿に見えることから日本では「わし星雲」,英語では「Seagull(かもめ)Nebula」の愛称があります。ちなみに,これとは別のM16も「わし星雲」という名でよばれるので混乱します。
そして,3番目の写真はNGC2237,通称「ばら星雲」です。ばら星雲(The Rosette Nebula)はいっかくじゅう座に位置する散光星雲で,写真に写すと真紅のバラの花飾り(ロゼット)のような姿に見えることからこうよばれています。中心にあるのはいっかくじゅう座12番星を中心とする散開星団NGC2244です。
さて,こうした写真を撮っていて,これまでずっと気になっていたのは,1分ほどの露出でどのくらい暗い星が写るのだろうか,ということでしたが,特に調べたことはありませんでした。そこで,今回,それを調べるつもりで,北極星付近の星野写真を写してみました。それが4番目と5番目の写真ですが,白黒を反転させてあります。4番目の写真の左の明るい星が北極星で,その右側の「□」で囲ってある部分を拡大してみたのが5番目の写真ですが,この「□」で囲ってある範囲は,天文年鑑の「北極標準星野」(2020年版だと381ページ)に掲載されているのと同じ範囲です。
これを調べてみると,15等星くらいまでは確実に写っています。私が天体の写真を写している場所は,北の空は本当に条件が悪く肉眼では北極星しか見えないくらいの場所です。南はかろうじて天の川が見えます。そうした場所で,しかも1分ほどの露出で,北の空で星がこれだけ写ってしまうというのが驚きです。これを見ると,14等級くらいの彗星も写るのかなあと思うので,今度,試してみたいと思います。すごい時代になったものです。
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やっと晴れたか?冬④-おとめ座の銀河団
「ショーマス彗星」が昇ってくるまでにもうひとつ写したのがおとめ座の銀河です。彗星やこうした銀河は散光星雲とは違ってナローバンド撮影は無力です。
子供のころ,買ってもらった「全天コ恒星図」という星図を見ていてしし座やかみのけ座あたりに非常に多くの銀河があるににびっくりしました。また,数年前,メシエ天体をすべて写そうと計画したときにはおとめ座の多くの銀河に途方をくれました。
しかし,写してみるとかわいい銀河がいっぱい写るのに感動しました。そこで今回は構図を工夫してできるだけたくさんの銀河がうまく収まる構図を考えました。そうして写したのが今日の1番目と2番目の写真です。
「おとめ座銀河団」(Virgo Cluster )というのは銀河系の近傍にある銀河団で,地球から約6,000万光年(5.6垓キロメートル)の距離にあり約2,500個の銀河をメンバーとして含むものです。「おとめ座銀河団」の銀河は渦巻銀河と楕円銀河がかなり不均一に混ざった構成になっていて,M87,M86,M49 銀河を中心に持つ3つの別々の小さな塊が一体に集まった構造になっています。
この「おとめ座銀河団」はより大きな「おとめ座超銀河団」(Virgo Supercluster)の中核部分をなしています。天の川銀河が属する局部銀河群もこの「おとめ座超銀河団」にあり,さらに,アンドロメダ銀河,大マゼラン雲などからなる局部銀河群を含む超銀河団で「局部超銀河団」とも呼ばれています。「おとめ座超銀河団」の直径は2億光年で,およそ100の銀河群と銀河団からなり、その中心におとめ座銀河団が居座っています。
この日は「おとめ座超銀河団」に属する「さんかく座の銀河M33」も久しぶりに写しました。これが3番目の写真です。M33はさんかく座に位置する渦巻銀河で,天の川銀河,アンドロメダ銀河 M31とともに、局部銀河群を構成する主要な銀河のひとつです。直径は約6万光年,距離はM31と同じく約250万光年(2,400京キロメートル)と推定されていて,M31とともに肉眼で見える最も遠い天体です。
M33は天の川銀河に対して秒速約24キロメートルで接近しつつあります。天の川銀河とM31は約40億年後に衝突し,やがてひとつの楕円銀河「ミルコメダ」(Milkdromeda)になると予想されているのですが,このM33ともその前後に衝突する可能性があるのだそうです。
最後におまけです。ユニークな形をした散光星雲をご覧ください。いっかくじゅう座の「わし星雲」(IC2177=Seagull Nebula)です。3,800光年(3.6京キロメートル)の距離にあり,翼を広げた鳥の姿に見えることから日本では「わし星雲」,英語では「かもめ星雲」の愛称があります。へび座にある散開星団M16と散光星雲IC4703もまた「わし星雲」というので注意が必要です。
これで今月の星見はおしまいです。今月は南の空を中心に海の近くに出かけて写したので,来月は北の空を写しに山へ出かけようと思っています。









