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梅雨の季節とはいえ,これほど晴れないものなのでしょうか? それとも,これほど晴れないのは今年だけのことなのでしょうか? 前回青空を見たのはいつのことなのだろうか,もう忘れてしまいました。
楽しみにしていたネオワイズ彗星(C/2020F3 NEOWISE)でしたが,まったくその姿を見ないで終わってしまう人が少なくないことでしょう。ヘールボップ彗星(C/2015O1 Hale-Bopp)以来23年ぶりに0等星まで明るくなって,北斗七星よりも長い尾を引いた世紀の大彗星,それも,明け方でなく,夜9時ころの北西の空に見ることができたというのに,ずっと天気が悪く,晴れを待ちわびるうちに,すでに明るかった全盛期は過ぎ去り,今は,4等星ほどまで暗くなってしまったといいます。
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子供の頃から星空に興味をもっていたとはいえ,大した機材も持たず,また,せっかく買った機材さえもほとんど使うことなく,ディジタル化の波にも乗り遅れていた私が,今のように,どうにか,実際に頻繁に星見をするようになった動機は,2013年の年末に地球に近づいたアイソン彗星(C/2012S1 ISON)でした。
太陽に接近して消滅してしまい,期待外れに終わったアイソン彗星ではありましたが,それを機会に機材を整備し,星を見に行く場所も見つけたので,それ以来,私は,彗星の写真を撮る楽しみを覚え,日本から見ることができる10等星より明るくなった彗星はすべて写すという目標をもって,これまで,数多くの彗星を写真に収めてきました。しかし,明るくなってもせいぜい6等星くらいで,肉眼ではっきり確認できる彗星どころか,双眼鏡でさえ見ることがむずかしいような暗い彗星しか現れなかったのを,とても残念に思っていました。
一度でいいから,1997年に明るく見えたヘールボップ彗星,までとはいわずとも,明るい肉眼彗星を再び見たいものだと思っていました。そして,ついにそれが現れました。ところが…。
2020年は大変な年になりました。人間はわずか100ナノメートルほどの小さなウイルスの餌食となりました。このちっぽけな地球から逃げだす場すらないということを,私は実感しました。
しかし,そうした災いが起きても,依然として人間は愚かなままです。助け合うどころか,逆にいがみ合い,その災いを外交や政治の道具にしたり,金儲けの手段にしたりと,まったく懲りないのです。せめて,空の上の出来事くらいは,そうした人間社会の愚かさを離れて楽しむことができれば,と思っても,明るくなると予想されたアトラス彗星(C/2019Y4 ATLAS)もまた,そんな人間をあざ笑うかのように,期待外れに終わりました。しかし,もし,このアトラス彗星が明るく輝いたとしても,自粛とやらで,そんなことをしてもまったく無意味な屋外の広場でさえ閉鎖されていたので,それを見る場所もありませんでした。
そしてまた,予想を超えて明るくなったネオワイズ彗星が近づきました。。昔なら,この災いを彗星=ほうき星のせいにしていたかもしれません。しかし,これもまた,人間の愚かさをあざ笑うかのように,天は低く垂れ込めた厚い灰色の雲でその姿を遮り,ほとんどの人は,それをまったく見ることができませんでした
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私は,これまで10等星くらいの暗い彗星まですべて写してきたのにもかかわらず,これほど明るい彗星を見損ねることが自分にとても許せませんでした。そして,なんとかその姿をひとめ見ようと,急に思い立って出かけた北海道でした。願いはかない,このネオワイズ彗星の長い尾を引いた鮮やかな姿を,確かに,この目で見ることができたのは,とても幸福なことでした。
今日の1番目と2番目の写真はそのときに写したものです。特に,2番目の写真に一緒に写った北斗七星と比べてみれば,尾の長さがわかるというものです。そして,3番目の写真は,国立天文台がハワイ島マウナケア山で写したものです。
もし,この彗星の接近があと数か月早かったら,おそらく私は北海道に行くことすらできなかったことでしょうから,彗星が見られたのは幸運なことだったのかもしれません。しかし,北海道から帰っても,依然として連日天気は悪く,つい1週間まえに快晴の北海道でネオワイズ彗星を見たことがもはや夢のようで,彗星は再び雲の上のものとなってしまいました。
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まもなく梅雨が明けます。そうしたら,また,青空はもどってくるのでしょうか?
空の上には,暗くなったとはいえ,7月から8月の夜空には,まだ,ネオワイズ彗星を見ることができます。さらに,これもまた,暗くなりつつあるとはいえ,レモン彗星(C/2019U6 Lemmon)も輝いています。
再び,こころ置きなく美しい星空が楽しめる日が来るようにと祈ります。星に願いを込めて。
タグ:アイソン彗星(C_2012S1_ISON)
星を見るのも大変だ。-彗星は謎に包まれている。②
オールトの雲からやってきた彗星のひとつアイソン彗星(C/2012S1 ISON)が昨年11月に消滅したことは,まだ,記憶に新しい出来事です。この事件は,天文学者にたくさんの謎を残しました。
アイソン彗星が消滅したのは,彗星の核が,はじめ考えられていたよりもずっと小さくて,1.1キロメートル以下しかなかったことが原因だといわれています。
しかし,2011年に接近し,太陽を無事通過して大彗星となって,南半球の人々を歓喜させたラブジョイ彗星(C/2011W3 Lovejoy)の核はわずか直径200メートルしかありませんでした。しかも,太陽に13万キロメートルまで近づいたのにもかかわらず,無事に生き延びました。
アイソン彗星はそれよりも核は大きく,しかも,太陽には120万キロメートルまでしか近づきませんでした。
アイソン彗星崩壊の原因は,アイソン彗星の核が,他の彗星のように岩石成分と氷の成分が1:1ではなくて,氷がほとんどを占めていたのではないか,といわれています。このことは,アイソン彗星のもととなる小天体が作られた場所が,他の彗星とは違っていて,別の場所で生まれたからなのではないかと予想されています。つまり,岩石成分が豊富にある原始惑星の近くではなくて,より外側で作られたのでないか,ということです。
そこで,彗星のもととなる氷の小天体は,これまで考えられていたよりももっと広い範囲で作られたと考えられるようになりました。
アイソン彗星の消滅は,太陽系誕生の謎ときに一役かったのでした。このように,彗星は,不思議な,また,魅力ある天体です。
今年期待の彗星の中で,ダークホースは,ホームズ彗星(17P Holmes)(=写真,尾が透き通ってうしろに見えるのはこと座の環状星雲)です。この彗星は,1892年に発見されたとき増光(アウトバースト)を起こしていたのですが,前回地球に接近した2007年10月24日から25日にかけても,2日足らずの間に17等星から2等星台にまで,約40万倍も明るくなって,肉眼でも容易に見ることができるようになりました。その,ホームズ彗星が,今年,また,地球に近づくのです。
彗星に抱く夢-アイソン彗星に寄せて
今世紀最大級の彗星が近づいているということで,話題になっています。
今年は彗星の当たり年だというので楽しみにしていたのですが,春のパンスターズ彗星(C/2011L4 PanSTARRS),冬のアイソン彗星(C/2012S1 ISON),残念ながら,ともに,期待外れに終わりそうです。
彗星は,大きな氷や塵の塊で,太陽に近づくと太陽から放出される熱によって表面が蒸発し始めて,綿菓子のようなぼっとした姿になります。また,太陽からの放射圧と太陽風で彗星のダストやガスが尾となってその独特な姿を見せるようになります。
流れ星とはちがうので,見ている間にスーッと流れるわけでなく,ゆっくりと星々の間を動いていきます。地球に近い場所を通ると日に日に位置を変えていくこともありますが,通常は,数か月かけてゆっくりと移動していきます。
太陽系の遠いところに「オールトの雲」と呼ばれる彗星のもととなる物質がいっぱい回っているところがあって,そこから何かのきっかけで太陽に近づいて,一度太陽の周りを回ると二度と戻ってこないものと,有名な「ハレー彗星」のように太陽の周りを周期的に回っているもの(周期彗星)があります。
現在,アイソン彗星(C/2012S1 ISON=4番目の写真)は5等星くらいで,明け方の東の空になんとか肉眼で見えています。
それでもこの1週間ほどでかなり明るくなって,双眼鏡では綺麗に尾が見えるまでになりましたので,ひょっとすれば,12月5日ごろから東の空に肉眼ではっきりと尾を引いた姿を見ることができるかもしれません。
このブログでも以前に書きましたが,私は,1967年以降の話題になった彗星は,ほぼすべて見ています。肉眼で見ることができたものは数えるほどしかありませんが,多くは,大きな双眼鏡を使うと,たくさんの星たちの中に,ぼっと,時には尾を引いて,とても美しく彗星を見ることができました。そうした姿を見ると,時がたつもの忘れてしまいます。
彗星は,口径8センチ以上,できれば10センチくらいの大きな双眼鏡をしっかりとした三脚で固定して見るのが一番きれいです。
今回も,いろいろな雑誌が出版されたり,様々な機材の広告が載っていますが,これまで天体観望をしたことがない人が小さな双眼鏡を買っても思ったほどには見えないし,あるいは,探せないので,無駄な出費をしないで,公開している天文台に出かけて,専門の人に見せてもらった方がいいと私は思います。
私がこれまでに見た彗星で,一番明るかったのは,やはりヘール・ボップ彗星(C/1995O1 Hale-Bopp=1番目の写真)なのですが,このことは,すでに,書きました。
一番印象に残っているのは,百武彗星(C/1996B2 Hyakutake=2番目の写真)です。この彗星のすごかったのは,肉眼ではっきり見えたのはもちろんですが,空の暗いところだと60度以上の尾が,まるで,天を裂くように輝いていて,気味が悪いほどだったことです。昔の人がほうき星について様々な文献に書いていたというのを読んで,それまでは,双眼鏡もない時代にそんな尾を引いた明るいほうき星を肉眼で見ることができたのかなあ,と思っていたのですが,本当にそのような姿を見ることができたのだと,その意味がよくわかりました。
しかし,私が最も思い出に残っているのは,池谷・張彗星(153P Ikeya-Zhang=3番目の写真)です。
この彗星は,3等星くらいだったので,それほど明るくはなかったのですが,気品があるというか,その堂々とした姿は,さすがに我々あこがれの,コメットハンターの先駆者・池谷薫さんの発見した彗星だと感動したものです。
池谷薫さんは,1943年生まれのアマチュア天文家で,楽器工場で働く傍ら,自作の望遠鏡で彗星探しをして,1963年から5年連続して新彗星を発見しました。中でも,1965年に発見した「池谷・関彗星」はあまりに有名で,同じころ創刊された雑誌「天文ガイド」をバイブルに,当時の少年たちは,彗星探しに夢中になったものです。現在の天文ファンの中・高年は,その時の感動を今でも持ち続けている人たちです。
そして,その池谷薫さんが,2002年,なんと35年ぶりに発見した6個目の彗星が池谷・張彗星だったというわけです。
なお,池谷薫さんはその8年後にも7個目の池谷・村上彗星(332P Ikeya-Murakami)を発見されています。
池谷薫さんが5年連続彗星を発見した当時と違って,彗星の発見は大金をかけ大型の望遠鏡でしらみつぶしに写真を撮って見つけるとか,天文台が別の観測中に見つけてしまうとか,そういった時代になってしまっていて,アマチュアが自作の望遠鏡で楽しみながら彗星探しをするといったロマンはほとんどなくなってしまったのですが,そんな時代にもかかわらず,依然として,自作の望遠鏡で自分の眼で彗星を探して,しかも,見つけてしまった池谷薫さんは,ほんとうに素敵だと思いました。そして,人生の楽しみは,お金で買えるものではないんだな,と改めて実感したのでした。
明るい彗星が地球に近づくたびに,このようないろいろなことを思い出します。今回のアイソン彗星も,太陽の刺激を受けて,予想どおり12月の初めの東の空に長く尾をたなびかせた美しい姿を我々の前に見せてくれるのを祈っています。
☆ミミミ
現在,明け方の空には,アイソン彗星(C/2012S1 ISON)のほかに,ラブジョイ彗星(C/2013R1 Lovejoy),リニア彗星(C/2012X1 LINEAR),エンケ彗星(2P Encke)の合計4個もの彗星を双眼鏡を使うと見ることができます。これほどたくさんの彗星を一晩に見ることができるのは珍しいことです。
特に,ラブジョイ彗星(C/2013R1 Lovejoy=写真一番下)は,8等星だと予想されたのに,5等星くらいまで明るくなりました。天頂付近にあるこじし座にいるので,空が暗ければ,はっきりと肉眼でも見ることができます。